具体的な発生時期は定かではないが、ここ数カ月、ドコモ回線の「パケ詰まり」が目立ってきた。全国一律というわけではなく、東京23区や大阪、名古屋といった都市部が多く、混雑時にこうした事象が起こりやすくなるようだ。Twitterを中心としたSNSでも、「ドコモがつながらない」という声が挙がっている。電波がつながっていないわけではなく、つながった上でパケットが流れないというのがより正確な表現だろう。
このような声に呼応するかのように、回線品質に対する評価も下がっている。英国の調査会社Opensignalが発表した4月のレポートでは、「一貫した素晴らしい品質」などの項目でソフトバンクがドコモを逆転した。対するドコモも、ついにパケ詰まり解消に向け、対策を打ち出した。その大枠については既報の通りだが、ここではその説明会とドコモの担当者インタビューに基づき、詳細をお伝えてしていく。
26日の説明会で解説されていたように、パケットが流れづらくなるトラブルは、「ここ数カ月の間に増えてきた」(ドコモ 無線アクセスネットワーク部長 林直樹氏)。電波自体が届いていないわけではなく、つながった上でパケットが流れないというのがその事象だ。つながっているのに、使えない――こうした状況は、ネットなどでパケ詰まりと呼ばれている。スマートフォン黎明(れいめい)期には、電波や設備の容量が不足し、パケ詰まりが起こりやすかった一方で、4Gの容量増加や5Gの導入を受け、パケ詰まりを訴える声は少なくなっていた。
では、なぜドコモのネットワークでパケ詰まりが起こりやすくなっているのか。その根本的な原因は、「都市部や駅周辺といったところで、非常にトラフィックが増えている」(同)ところにある。実際、モバイル通信のトラフィックは全体的に増加傾向にある。総務省の調査によると、年1.2倍から1.3倍程度のペースでトラフィックは増えているようだ。ドコモも例外ではなく、データ需要は高まっている。「5Gギガホ プレミア」や「ahamo」といった中・大容量プランの契約者が増加しているのは、その証拠だ。
ただ、年1.3倍程度のペースであれば、あらかじめ需要は予測可能なようにも思える。そのトラフィックの伸びに対し、適切に基地局を展開していければ、パケ詰まりが起こるほどの速度低下は起こりにくいはずだ。一方で、トラフィックは満遍なく増えるのではなく、局所的に急増することもある。コロナ禍での行動制限が終わり、都市部に人が集中するようなったことはその一因だろう。水際対策の緩和も重なり、一部の街では、コロナ禍以前よりも人流が増加しているほどだ。
ドコモ側も「トラフィックの伸びがあり、逼迫(ひっぱく)に対する考えはあったものの、場所や時間帯によっては想定を超えるところがあった」(無線アクセスネットワーク部 エリア品質部門 品質規格担当課長 福重勝氏)という。急増したトラフィックを吸収するのは、一筋縄ではいかない。基地局を増設するにしても、エリア設計をした後、地権者の交渉が必要になる。場所によっては「搭載重量や電力容量の問題もある」(同)といい、物理的に不可能なケースもある。
再開発による地形の変化も、容量の逼迫に拍車を掛ける。「街並みが変わって基地局が撤去されたり、新たなビルができて人流が変化できたりと、予測ができない部分もある」(同)。また、遮蔽(しゃへい)物がなくなり、1つの基地局でカバーしている範囲が急に変わってしまい、エリア設計に狂いが生じるケースもあるようだ。例えば、筆者が体験した山手線・渋谷駅で発生したパケ詰まりはその1つ。同駅のホームは、1月9日に内回りと外回りの両車両が使う「島式」に変更されたが、これによって壁がなくなるなど、地形が大幅に変わってしまった。
実際にホームで電波状況を確認してみたところ、電界強度は強く、一般的には十分通信できる環境だったが、それを妨げるほどのノイズが乗り、品質が大幅に悪化していた。通常は「基地局ごとにセル(電波の到達する範囲)の重なりが少ない状態でやっているが、理想的ではない状態になり、一部の場所で干渉を起こしている」(同)という。電波が逼迫しているだけでなく、地形の変化によって伝搬特性が変わり、設置済み基地局の有効活用もできなくなってしまっているというわけだ。
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