総務省の省令改正により、4G周波数の一部を5Gに利用できるようになった。国内では、Sub-6として3.7GHz帯や4.5GHz帯、ミリ波として28GHz帯が5G用の周波数として採用されているが、新規で基地局を設置しなければならないがゆえに、まだまだエリアは限定的だ。転用が可能になれば、既存の基地局の一部はソフトウェアのアップデートで5Gの電波を出せるため、エリア展開を加速できる。
一方で、こうした状況に疑問を投げかけているのがNTTドコモだ。同社自身も4Gから5Gへの転用は行う予定だが、拡大には慎重な姿勢を示す。特に重視しているのがユーザー保護。5G用として割り当てられていたもともとの周波数(5G NR)のエリアと、4Gから転用した5Gのエリアは、エリアマップなどでしっかり区分けする必要があるというのがドコモの主張だ。転用を積極的に活用する方針のKDDIやソフトバンクとは真逆ともいえるが、その理由を解説していきたい。
高速・大容量や低遅延、多端末接続が売りの5Gだが、現状のエリアは限定的だ。楽天モバイルを除くMNO3社は、3月にサービスを開始したが、ドコモに関してはエリアもマップではなく、スポットでの案内にとどまっている。東京都内に関しても、ターミナル駅の周辺のさらに一部といった具合で、ほぼどこにいてもつながる4Gとの差は大きい。基地局をゼロから増やしていく必要がある上に、周波数特性も広い範囲をカバーするのに向いていないからだ。
高速・大容量を担保するには、帯域幅が必要になる。周波数は上に行けば行くほど空きが確保できるため、現状、日本では3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯の3つがMNOに割り当てられている。ドコモについては、n78と呼ばれる3.7GHz帯と、n79の4.5GHz帯、n257の28GHz帯の3周波数帯が割り当て済み。都市部は、基本的にSub-6のn78とn79でカバーするエリアを徐々に広げている。それぞれの帯域幅は、n78/79が100MHz幅、n257が400MHz幅になる。
ただ、一般的に周波数は、低ければ低いほど遮蔽(しゃへい)物などを回り込みやすくなり、カバーできる範囲を広げやすくなる。28GHz帯に比べると、3.7GHz帯や4.5GHz帯は周波数が低く見えるかもしれないが、4Gまでの周波数と比べれば直進性は強い。つまり、5Gでは、4G以上にエリアを広げづらい周波数を使い、ゼロから基地局を広げていかなければいけないというわけだ。実際、エリア化された場所で5Gスマートフォンを使ってみると、道路を1本渡るだけで4Gに戻ったり、速度が大きく低下したりと、高い周波数ゆえの欠点も見えてくる。
では、現時点で“スポット的”な5Gのエリアを、どう広げていくのか。ドコモの方針は、正攻法だ。同社のネットワーク部 技術企画担当部長の中南直樹氏は、「総務省に提出した開設計画を2年前倒しして、23年3月末に2万局を実現する。今年度(2020年度)末には全政令指定都市を含む500都市を実現するのが大前提」と力説する。
エリア展開の上では、n79の4.5GHz帯を持っていることが有利に働く。3.7GHz帯は衛星との干渉があり、思い通りの場所に基地局を展開しづらいからだ。ドコモは「開設計画を出す段階で、ある程度考慮していた。3.7GHz帯の基地局を打てないところには、4.5GHzを打ち、計画的に構築している」(同)という。5G用に割り当てられた周波数での基地局展開に積極的な背景には、こうした事情もありそうだ。
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