2023年初頭から、ドコモの通信が繁華街を中心につながりにくいという声を聞くようになった。電波はつながっており、アンテナピクトは立っているが、通信品質が劣化する「パケ詰まり」と呼ばれる現象だ。
5Gのエリア拡大が追い付かずに4Gのトラフィックが増大したことがパケ詰まりの主な要因だが、エリア拡大の余地がある楽天モバイルを除く、大手3キャリアのうち、KDDIとソフトバンクに関してはドコモほど回線品質に対する不満の声は聞かれない。なぜ、大手3キャリアの中で明暗の分かれる事態になっているのか。
ソフトバンクが、9月19日にモバイルネットワークの品質についての説明会を開催し、同社常務執行役員 兼 CNOの関和智弘氏がネットワーク設計で注力しているポイントを説明した。
ソフトバンクは、増加するトラフィックに対して5Gで対応しているが、2020年からのコロナ禍によってトラフィックの傾向が一変。人々の生活が在宅中心になったことで、住宅街のトラフィックが増加する一方で、繁華街のトラフィックが鈍化し、トラフィックの動きが読みづらい状況に陥った。
2023年に新型コロナウイルスが5類に移行してからは繁華街のトラフィックが戻りつつあるが、データ利用量は増大傾向にある。ソフトバンクの月間データ使用量が20GB以上のユーザーは、1年で約1.15倍に増加を続けており、20GB超のユーザーで80%ほどのトラフィックを占めているという。
ソフトバンクのネットワーク構成は、NSA(ノンスタンドアロン)の5Gがメインとなっている。NSAでは4Gのコアネットワークと5Gの基地局を組み合わせたもので、5Gと同時に接続するアンカーバンドのLTEがいかに動くかが重要になる。関和氏は繁華街にトラフィックが戻ってきたモバイルネットワークの品質課題は3つあると指摘する。
1つ目が「過渡期の5G展開」。5Gエリアは展開途中なので、場所によっては離散的で電波が弱くなるが、その弱い電波をつかむと急に品質が悪くなることがあるという。いわゆる「セルエッジ(エリアの境目)」と呼ばれる場所だ。そこで、品質がいい場所に絞って5Gの電波を割り当てる必要がある。
「都内で(5Gエリアの)密度が上がってきている場所もある。そこには、5G基地局がグループになることでセルエッジの発生が抑えられる。積極的に5Gを使うことで、容量の大きい電波で品質を維持できる」(関和氏)
次に問題となるのが「アンカーバンドの容量」だ。5G基地局を過度に割り当てるとLTEのアンカーバンドが輻輳(ふくそう)するので、5Gとセットで使うアンカーバンドに在圏させるユーザーと、4GのLTEバンドに在圏させるユーザーのバランスを取ることが大事になる。
続いて課題に挙げるのが「電波の届き方」だ。いかに5Gエリアを重ねたとしても、5Gの高周波数帯は直進性が強いので、一部の屋内ではLTEのトラフィックが集中する場合がある。そうなると、低周波数帯である900MHz帯での通信が輻輳してしまう。「この対策は、飛び道具はなく、地道に基地局を追加して、そこに届く電波を追加するしかない」と関和氏は話す。
その際、ネットワークと端末で見られるデータを活用している。ネットワークは基地局単位で見ており、端末は100メートルから1キロまでのメッシュ単位で細かく見ている。これにより、通信品質が劣化しているエリアがピンポイントで分かるようになる。AIや機械学習も導入しており、異常のある地点を自動検出したり、要因の分析を自動で行ったりできる。問題の予兆も検出できるので、品質劣化が起こる前に対策を打てるのもメリットだ。
品質劣化を抑える取り組みは分かったが、ソフトバンクが考える「高品質のネットワーク」とは何か。同社が重視するのはスピードテストの数値ではなく、ユーザーの体感だという。「アップリンク(上り)とダウンリンク(下り)のバランスを取ることが重要。ダウンリンクが速くてもアップリンクが遅いとパケ詰まりが起こる。アップとダウンのバランスをいかに取るかが重要」(関和氏)
そんなユーザー体感を可視化すべく、ソフトバンクは独自の評価指標に基づいて通信品質を分析している。具体的には「通信要求が上がってからネットワークからデータが落ちるまでの時間を分析している」(関和氏)そうで、Agoopが調査したもの。4キャリアで比較した結果、ソフトバンクが最も応答速度が高い結果になった。400ms以下を広げられるかが重要である一方で、700ms以上が増えると、変動によって通信劣化が起こる可能性があるという。
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