ソフトバンクは日常生活でのネットワーク対策だけでなく、野外フェスやコミケなど、局所的に人が集中するイベントでの対策も行っている。こうしたイベントでは大容量のデータをさばける5Gを積極活用している。
その際、「スループットや応答時間では、お客さまが満足しているか分からないところがあるので、XなどSNSの投稿をAIで分析することで、お客さんの体感を推測している」という。実際、3大フェスに関するXの投稿からネガティブコメントをAIで集めたところ、ソフトバンクは特に少ないという結果になった。「ソフトバンクに対するSNSでの投稿数自体が少なく、当たり前につながることが実現できている」と関和氏は胸を張る。
こうした非日常の通信では、衛星通信でカバーエリアを補完する動きを各キャリアが進めており、KDDIはStarlinkとの提携により、2024年内にスマートフォンと衛星の直接通信を実現する見込み。ソフトバンクもOneWebと提携して衛星通信サービスの提供を目指しているが、具体的な提供時期は未定。「KDDIさんがStarlinkとの直接通信を発表したことを受けて、われわれも、その展開を意識した形で進めるべきだろうという議論は当然ある。より開発検討を進めていく」(関和氏)
なお、ソフトバンクでは基地局側に最大128のアンテナを付けて電波の容量を増大させる「Massive MIMO」を導入しているが、こちらは「突出した効果を出しているかは分析できていないが、効果はある」と関和氏。一方で「アンテナが大きいので、そこに対する建設コストをどうバランスするのか」という課題もあるという。「何が何でもMassive MIMOという展開にはなっていない」(同氏)
ドコモでパケ詰まりが起きて、ソフトバンクで起きにくいことに関して、ネットワーク設計に違いがあるのだろうか。この点について関和氏は「ネットワークの成り立ちから言って、ボーダフォン、イー・アクセス、ウィルコムと、いろいろな会社のサイト(基地局)を使うので、適材適所に周波数を選ぶ、ピンポイントに対策するときに最も効果的な場所を選ぶ、というところはあるかもしれない」と述べた。
ドコモでは、街の再開発によるエリア変動もパケ詰まりの要因となっていたが、ソフトバンクではそうした事態には陥っておらず、「通常の対策の中でやりくりができている」(関和氏)との認識だ。
LTEの周波数を5Gに転用する取り組みも、効果的に働いているようだ。ソフトバンクは、1.7GHz帯、700MHz帯、3.4GHz帯を5Gに転用しており、LTE側のトラフィックが問題ない状態になったところから、徐々に対策しているという。1.7GHz帯ではLTEと5Gの周波数を共用する「DSS(Dynamic Spectrum Sharing)」も活用し、LTEの通信品質も劣化しないようチューニングしている。
また関和氏が「最も注力しているのが、LTEの単独局とアンカー局、5Gを使うNSAの構成のバランスをうまく取ること」と話すように、5Gに寄せるのではなく、LTEも効果的に使うことで、パケ詰まりを抑えるよう努めた。「当初、アンカーや5Gを使わせようとして、そちらに寄せる設定にしたが、パケ詰まりが増加傾向を示した。それに対して、LTE側のトラフィックもある程度増えることを許容しながら、バランスを取りながら双方が動き始める」(同氏)
関和氏は「5Gを無理に使わせることで、かえって低品質になるエリアをいかにマネージするかに注力した結果、評価いただけたのではないか」と分析する。
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