KDDIは5月10日、2024年3月期の連結決算を発表した。売上高は前年比1.5%増の5兆7540億円、営業利益は同10.7%減の9616億円の増収減益だった。政情不安のミャンマーにおける事業の債権引き当てなど一時的な影響があったため減益となったが、それを除けばわずかながら増益になる指標で、「一時的な影響以外は非常に順調」と同社の高橋誠社長はアピールする。
特に携帯料金の値下げ影響による通信ARPU収入の減少から反転し、増収に転じたことが同期の特徴で、高橋社長は「やっとトンネルを抜けた感じがあり、ARPUの反転は非常に明るいニュース」だと安堵(あんど)の表情を見せた。
連結営業利益では、モバイル事業におけるグループMVNO収入と楽天ローミング収入が前年同期比411億円と大幅減。それに対して減収続きだったマルチブランド通信ARPU収入が50億円の増とプラスに転じた。DX、エネルギー事業もプラス成長で、金融事業は住宅ローンの会計処理変更による一時的影響があって182億円の減少となったが、それを除いて142億円のプラス。
こうした収益を積み上げると1兆806億円になり、前年比で32億円増とほぼ横ばい。これに設備撤去などの引き当てやミャンマー事業の引き当てといった一時的影響1190億円が減益要因となり、最終的に9616億円の営業利益となった。
主力となるモバイル事業では通信ARPU収入が増収となり、それ以外の注力領域であるDX事業や金融事業、エネルギー事業が2桁成長を達成して順調な進捗(しんちょく)。モバイル事業のエリア展開では5G開設計画を完遂し、業界最多という約9.4万局の5G基地局を設置した。
中期経営計画に対する進捗では、ARPU収入増加は「目標に対してややビハインド」という状況だが、プラスに転じたことで進展。注力領域の利益目標は約470億円となり、燃料市場高騰のエネルギー事業が足を引っ張る。とはいえ、着実に進展して順調というのが高橋社長の見立てだ。
1株あたりの利益(EPS)について、2019年3月期と比べて1.5倍にするという中期経営戦略は、通信料金の値下げ、燃料市場高騰、ミャンマー政変という想定外要因が重なったことで達成が困難になったとして1年延長。2026年3月期での達成を目指す。
今後の注力領域としてKDDIではAIにも取り組む。通信会社として、あらゆるシーンに通信が溶け込んでいると高橋社長は説明。今後はAIが社会に溶け込んでいくと見越して取り組みを強化する方針だ。
まずはインフラ整備として、生成AI基盤整備に取り組む。大規模な計算が可能な基盤を整備して、協業するスタートアップなどの技術を導入して生成AIのモデルを構築していく。さらにAI活用には低遅延が必要となるとして、5G MEC設備に計算リソースを配備することで生成AIを快適に利用できるようにする。
計算基盤構築では、中長期の設備投資として約1000億円規模を投入。経済産業省の助成金約102億円も活用しながら、GPUなどを集積した基盤を構築する。MEC設備は、同社の全国8拠点の通信センターを活用して低遅延のAI処理を可能にする。
こうした取り組みはソフトバンクも強化しており、投資金額も1500億円規模と大きい。高橋社長は、ソフトバンクはLLMを開発することで投資金額が大きくなっているとして、「PCの世界でいうとWindowsを作るようなイメージ」と表現する。これに対してKDDIは「Linuxみたいなイメージ」(高橋社長)であり、オープンなLlama 2などの技術を持つスタートアップなどと組み合わせてファインチューニングを繰り返して構築していく方針。この方針に基づき、まずは2026年度末までに1000億円程度の基盤を作り上げる。
通信インフラについては、今後O-RANなどの仮想化ネットワークが登場してくる中で、生成AIのインフラと共存し、GPUを共用するのかどうかという課題が出てくるのだと高橋社長は説明。ソフトバンクはAI-RANとしてこれに取り組む方針だが、高橋社長は慎重な姿勢を示し、「(ソフトバンクのように)先に行きすぎると失敗するような気もしている」と話す。
「この1〜2年、非常に重要な対応になってくる」と高橋社長は強調し、慎重に検討していく考えだ。
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