実際に、スマホ向けの緊急地震速報ブザー音は楽音にとらわれずにサイレンの音などと同じく低音から高音に音が時間的に変化する「スイープ音」を採用しています。スマートフォンが洋服のポケットやカバンに入っていても聞こえやすく、かつスマートフォンの機種によらずに出せる音という条件を踏まえて、全ての周波数を持つ音という意味でもスウィープ音は理にかなっているようです。
先ほど「スマホ向けの緊急地震速報ブザー音」と書きましたが、緊急地震速報の通知音にはもう一つ、NHKが利用しているチャイム音があります。2020年にはグッドデザイン賞を受賞しているこのチャイム音、作曲者は東京大学の名誉教授である伊福部達さんです。映画「ゴジラ」の楽曲を手掛けた、伊福部昭さんの甥(おい)にあたります。
伊福さんはNHKからチャイム作成の依頼があった際、最初は手に負えないと断ったとのことですが、下記のような条件を認めてもらい、評価に全面的に協力してもらうという条件で了解したとのことです。
ここで面白いのが「不快感や不安感を与えない」という項目があることです。つまり、NHKで使われている緊急地震速報のチャイム音は、本来は「不安感を与えない音」として作られていたわけです。
これに関して伊福部さんは、「作ったチャイム音は、緊急性は感じさせるが不安感は与えないということで自信を持っていたが、頻繁に流れる地震警報チャイムを聴いてるうちに、チャイムから悲劇を連想する人たちも増えてきており、音の持つ情緒、あるいは情動に訴える力の大きさに驚かされている」と語っています(PDFファイル)。
ちなみに、緊急地震速報の通知音としては、「ゴジラ音楽」の一部を利用することも検討されていたとのこと。ゴジラ音楽は広く知れ渡っており、恐怖心をあおる面もあることから候補から外したのことですが、緊急地震速報でゴジラ的な音楽が流れていた可能性もあったようです。
今となっては聴くだけで不安感をあおられる緊急地震速報の通知音ですが、不安感を覚えつつもその音に慣れてきてしまっているのも確かではないでしょうか。通知音を聞いても「またか」と感じてしまい、次の行動に移せない人も多いのではないでしょうか。
通知音を聴かずに済むに越したことはありませんが、聴こえた際にはしっかりと身を守れる行動に移せるよう、日頃から備えておきたいところです。
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