上場で“第3章”のソラコムが描く成長戦略 KDDI高橋社長も快諾「スイングバイIPO」巡るエピソードも

» 2024年03月27日 00時00分 公開
[田中聡ITmedia]

 ソラコムが3月26日、東京証券取引所グロース市場に新規上場した。今回の上場は、大企業の支援を受けてスタートアップが上場する「スイングバイIPO」と呼ばれる。

ソラコム 3月26日に東京証券取引所グロース市場へ上場を果たしたソラコム

 ソラコムは2017年にKDDIの子会社となり、2021年にはセコム、ソースネクスト、ソニーグループ、日本瓦斯(ニチガス)、日立製作所、World Innovation Lab(WiL)の6社と資本提携を結んだ。スイングバイとは「宇宙探査機が遠くに行くときに惑星の重力を利用して加速する方法」を示す宇宙の専門用語で、宇宙探査機=上場する企業、惑星=大株主、加速=上場を示す。上記のKDDIをはじめとする株主に支えられての上場となった。

 ソラコムは同日に記者会見を開き、玉川憲社長が上場に至る経緯や今後の意気込みを語った。

ソラコム ソラコムの玉川憲社長

上場はゴールではなくスタートライン コネクテッドカーや通信事業者向けプラットフォームにも注力

 ソラコムは「世界中のヒトとモノをつなげ、共鳴する社会へ」をビジョンに掲げ、IoTプラットフォーム「SORACOM」を提供。迅速かつ効率的にIoTサービスを構築できるよう努めてきた。パートナー企業とも連携して200種類以上のIoTデバスイスを提供し、通信やクラウドのサービスも展開している。データ通信サービス「SORACOM Air」の契約回線数は、2023年10月に600万を突破した。

ソラコム デバイス、コネクティビティ、クラウドの3つで構成されるソラコムの事業

 製造、エネルギー、金融からスタートアップ、農業、防災まで、国内外で2万を超える企業がソラコムのプラットフォームを採用している。通信サービスは180カ国や地域をカバーし、提携している通信事業者社は392に上る。

ソラコム ソラコムの主な業績

 ソラコムのIoTプラットフォームは、パートナー企業が1枚のSIMと1台のデバイスから導入できるようになっており、必要に応じて22のサービスを組み合わせられる。玉川氏はこれを「セルフサービス」と呼んでいる。

 パートナー企業が商用サービスを開始し、SIMやデバイスが増えるほどインクリメンタル(増分)収益が伸び、事業規模が国内外に拡大すれば、リカーリング収益が伸びるという好循環を生んでいる。リカーリングが「繰り返される」を意味する通り、リカーリング収益には、通信やアプリケーションなど各種サービスの従量課金による収益が含まれる。玉川氏は「インクリメンタル収益はデバイスの納入時期によって上下するが、リカーリング収益は右肩上がりで着実に上がっている」と話す。実際、ソラコムの売り上げのうち、約70%をリカーリング収益が占めている。

ソラコム リカーリング収益が売り上げの約7割を占める
ソラコム IoTシステムの開発に必要な機能を22種類に分け、自由に組み合わせられる

 通信のコアシステムをソフトウェアで構築していることも強みとしており、ソラコムは70以上の特許を保有している。「設備投資を少なくしてコスト効率が高い、競争力のあるプラットフォームを提供できる」と玉川氏は胸を張る。

 今後はリカーリング収益で成長を継続させるとともに、グローバル進出や大型案件の獲得、戦略的アライアンスを成長ドライバーとしていく。戦略的アライアンスでは、KDDIやスズキとともにコネクテッドカーの取り組みを強化し、通信事業者向けのプラットフォームも提供していく。

ソラコム 今後は戦略的アライアンスを成長ドライバーに位置付ける

 コネクテッドカーについて玉川氏は、海外の通信事業者と提携しており広いエリアカバレッジを確保していること、クラウド連携できるIoTプラットフォームを持つことを強みに挙げる。なお、ソラコムとスズキは2024年2月20日にモビリティサービス分野におけるIoT先進技術活用で合意書を締結しており、3月26日にはスズキからコーポレートベンチャーキャピタルを通じて出資を受けている。

 通信事業者向けプラットフォームは、KDDIと一緒に研究開発をしており、ソラコムがOEMとして提供。売り上げの10%弱を占める。今後は海外の通信事業者にも提供し、新しいビジネスの柱にしていく計画だ。「海外の通信事業者からも、ソラコムのようなプラットフォームへの関心が高まっている。セルフサービスで提供できる仕組みがユニークで、クラウドにつなげられる点でも興味を持ってもらっている」(同氏)

 「上場はゴールではなくスタートラインだと考えている。IoTやAIのテクノロジーは、水道や電気のようなインフラ。社会の公器として、孫の世代まで誇れる会社を作っていきたい」と玉川氏は意気込みを語った。

「スイングバイ」と「IPO」をくっつけたら語呂がいいと考えて高橋社長に持ち込んだ

 会見の後半では、玉川氏に加え、KDDIの高橋誠社長とWiLの伊佐山元CEOを交えたディスカッションを実施。

ソラコム KDDIの高橋誠社長とWiLの伊佐山元CEOを交えたディスカッション

 スイングバイIPOという名称を考えたきっかけについて玉川氏は、「2017年にソラコムがKDDIグループに参画した後、8万回線から2年ほどで100万回線に伸び、思った以上に成長した」ことを挙げる。

 「さらにアクセルを踏むともっと成長できると考え、IPOも1つの手段としてご相談したところ、高橋さんもサポーティブ(協力的)だった。ただ、外から見ると、KDDIの中にソラコムが入って、出ていくと、ケンカでもしているのでは? と思われるので、ポジティブなコンセプトを考えてねと(言われた)。その後、2018年の年始に、その年のスローガンをチームで考えたとき、あるエンジニアが『スイングバイ』という言葉がいいと提案した」(玉川氏)

 ここで同氏の頭に浮かんだのが「スイングバイIPO」と考え方。「KDDIという大きな惑星の引力を使って成長したい、スイングバイとIPOをくっつけたら語呂がいいと考えて高橋さんに持ち込んだら『いいね』と言われた」

 そんなソラコムや玉川氏について高橋氏は「困ったことがあったらダイレクトに相談できる、われわれにとって大事なパートナー」と信頼を寄せる。KDDIにとってのソラコムを傘下に収めることのメリットについては、コネクテッドカーを例に出し、「コネクテッドカーは安定性を求める人とスピード感を求める人がいるが、(ソラコムが)その両方にアプローチできているのは、われわれにとってプラスになる」と話した。

 ソラコムがKDDI傘下になったことのメリットとして、玉川氏は外部からの「信頼感」「安心感」を得られたことを挙げる。

 「(企業が)成長するために資金を調達しないといけないが、グローバルでうまくいこうとすると、お金だけではダメ。ブランド、信頼感、グローバルでの人的ネットワークが重要だと思った」「M&AでKDDI傘下に入って一番効果的だったのが、(KDDIから)プラットフォームの“お墨付き“をいただいたこと。実際、大規模案件はM&Aの後に決まった」(玉川氏)

 今後について玉川氏は、創業を1章目、KDDIのM&Aが2章目だとしたら、今回の上場を3章目に位置付ける。「われわれが持っているテクノロジー、ビジョン、ミッション、チームはもっと通用すると思っている。マーケットは大きいので、まだ始まりだと思っている」と先を見据えた。

 第3章でも基本路線は変えないが、海外展開を加速させ、「日本発のグローバルIoTプラットフォーム」に成長させていきたいと玉川氏は意気込む。「さらなる資金調達や成長投資も可能。買収や出資もスピーディーにできると思う」

ソラコム ソラコム玉川氏とKDDI高橋氏

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