ここまでの内容を踏まえて分かったメリットは、SIMカードを紛失せずに済むこと、そして、Apple製品同士でOSなどの条件を満たせば、eSIMクイック転送を利用し、店頭へ出向いたり、本人確認をしたりせずに移行できることだ。
SIMカードは基本的に抜き差しだけで移行が済むが、SIMカードを採用する端末によっては、SIMピンがなければトレイを開閉できない。iPadも同様だ。SIMカードは頻繁に差し替えないことから、SIMピンを常に持ち歩いている人は少ないだろう。その点、eSIMならSIMピンの有無に関係なく、古い端末から新しい端末へ移行できる。
とはいえ、iPad Proでより実感したeSIMの課題は、大きく分けて2つある。
1つは、場合によっては移行が面倒であること。先述のように、eSIM→eSIM、SIMカード→eSIMへの移行は、Appleや通信事業者が指定する条件を満たさなければならないケースがある。また、iOS/iPadOSのeSIMクイック転送を利用できるのはiPhoneとiPadに限られ、AndroidやWindowsなど他のOSのデバイスでは利用できない。逆も同じだ。
もう1つはセキュリティの甘さを突かれる可能性があること。楽天モバイルが4月23日に「【重要】身に覚えのないeSIMの再発行にご注意ください」と題し、eSIMにまつわる注意喚起を行った。ユーザー自身が気付かない間にeSIMを再発行され、楽天モバイルの回線を乗っ取られてしまった事例があったのだ。
悪意のある第三者が携帯電話などの利用者本人になりすまし、SIMカードやeSIMの情報を盗み取る犯罪は「SIMスワップ」や「SIMハイジャック」などと呼ばれることがあり、近年、世界各国で問題視されている。KDDIの高橋誠社長は5月10日の決算会見で、「ネットで再発行できる手続きに関して、KDDIではeKYCと2段階認証を導入しており、ある程度、強固なものになっている」と説明し、ここ最近では各社トップがeSIMに言及する場面が増えている。
総務省は、キャリア間の乗り換えを促進させるため、料金プラン変更のしやすさだけでなく、eSIMの普及にも力を入れてきた。乗り換えのハードルを取り払うことを目的に、eSIMの普及が期待されていた感はあったが、一部の事業者で手軽に発行できる点が裏目に出て、不正発行につながっている、というのが現状だ。
iPad ProがeSIMオンリーの仕様になったことから、次期iPhoneもeSIMに一本化されかねないが、現状の手続きの煩雑さや、乗っ取り対策の問題も鑑みると、時期早々ではないか、とiPad Proで改めて実感した。
eSIMの普及にまだ時間がかかると感じる理由
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