防水等級のIPX8が「メーカーと使用者との取り決め」と異なる事情に加え、スマートフォンでは多くの場面で利用できることを付加価値とするものもある。そのため、メーカーによってはIP規格の範囲外のテストを行う場合もある。
IP規格以外では、強靭さを表す指標としてMIL-STD-810H(米国国防総省の調達基準)やIPX9(IPX9K)を用いるスマートフォンも存在する。
MIL-STD-810Hは28項目あり、末尾の「H」は改定されたことを意味する。1つ前の規定ではMIL-STD 810-Gとなる。一般にスマートフォンでは必要な部分のみ取得しているものが大半だ。タフネススマートフォンとして著名な京セラの「TORQUE G06」も21項目を取得している。確かに、日本で販売するスマートフォンに519.8に示す「砲撃衝撃試験」は必要ないだろう
MIL-STD-810Hで防水に関連する部分は「風雨」「雨滴」「浸漬」「湿度」「塩水噴霧」「氷結・融解」「氷・低温雨」の項目がある。いずれもIP規格とは異なる試験方法なので、同列に比較することはできない。
IPX9は厳密にはIP規格での規定ではなく、ドイツ工業規格DIN400 50 PART9で定められた「スチームジェット噴水流」に耐えうる規格だ。拡張で「K」の記載があるものはISO 20653規格に準じている。それぞれ噴射する水量やノズルの径などが異なるため、IPX9とは「完全に同一の規格」ではない。
こちらは水温80度の高圧噴水流を一定時間、旋回する対象物に複数角度から噴射し、問題なく動作することを示す。主に自動車の電装部品などを対象にした試験で、IPX6よりも高圧かつ量も多い温水を噴射する。そのため、製品によってはIPX6の上位互換として用いられることがある。
いずれの規格もIP規格と同時に取得していることが大半で、IP規格に示す防水、防塵性能を補完したり、より強化したりする意味で用いられている。それ以外では、これらの規格の範囲に入らない独自の試験を行うものもある。
例えばFCNTの「arrows We 2 Plus」はIPX5/IPX8等級の防水、IP6Xの防塵性能に加え、MIL-STD-810H(23項目)を取得。これに耐薬品試験(ハンドソープ、アルコール消毒)や高湿度環境試験(浴室での使用を想定)を独自に行っており、付加価値としている。
TORQUE G06はIPX5/IPX8等級の防水、IP6Xの防塵性能に加えてMIL-STD-810H(21項目)を取得。加えて独自に耐海水、温水、耐薬品試験、各種耐衝撃、耐高温環境試験などを行い、こちらも高い付加価値を提供している。
まだ残暑の厳しいこのごろ。スマートフォンを水辺に近い環境で使うという人も少なくないはず。機会があればぜひお手持ちのスマートフォンの防水等級についてチェックしてみてはいかがだろうか。
●著者プロフィール
佐藤颯
生まれはギリギリ平成ひと桁のスマホ世代。3度のメシよりスマホが好き。
スマートフォンやイヤフォンを中心としたコラムや記事を執筆。 個人サイト「はやぽんログ!」では、スマホやイヤフォンのレビュー、取材の現地レポート、各種コラムなどを発信中。
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