スマートフォンの防水性能で見かける「IP65」や「IP68」といった表記。一般に数字が大きいほど上位の等級だと思われがちだが、実はIPX5に対してIPX8は「上位互換」ではないことはあまり知られていない。
スマートフォンなどの防水・防塵(じん)性能はIP規格(国際保護等級)で示される。これは2003年に国際電気標準会議によって定められた、電気製品の防水・防塵性能を表す規格「IEC 60529」だ。
IPコードの「IP」はInternational Protectionの略を意味し、この後に数字が3桁入る。第1数字が「人体、固形物体に対する保護」、第2数字が「水の侵入に対する保護」としている。IP規格は試験方法などが国際的に定められており、この等級を取得していれば、世界中どこで販売しても同じ防水・防塵性能を維持していると証明できる。
それではIPの後に続く数字の意味を見ていこう。第1数字は人体、固形物体に対する保護なので、主に防塵性能を意味する。ここには0〜6までの数字が入り、Xは省略を意味する。数字は0の「保護なし」から始まり、数字が大きくなるほど高い密閉性を備える。例えば、IP4Xは「1mm以上のワイヤーなどの侵入を防ぐ」、IP5Xが「粉じん環境で機能を損なわない」を意味する。
スマートフォンの防塵性能でよく目にするIP6Xは最上位の「完全な防塵構造」を意味する。数値上では砂浜などで対象物を砂にかぶせても、密閉構造のため内部に砂塵が侵入しない。
第2数字は水の侵入に対する保護なので、こちらは「防水性能」を意味する。こちらは0〜8の数字が入り、Xは省略を意味する。こちらも0が保護なしで、数字が大きくなるほど噴水流に対して高い保護性能を意味する。1〜3では対象に水滴を垂らす試験を行い、数字が増えるほど水滴をたらす角度の範囲が広くなる。
数字の4〜6は対象に直接飛沫や噴水をかける試験を一定時間行う。噴水試験はIPX4でジョウロ、IPX5がホースからの噴流、IPX6が家庭用高圧洗浄機の弱設定(100kpa)程度のイメージだ。これを踏まえると以下のような意味になる。
スマートフォンによってはIP65、またはIP6X/IPX5と表記されているものがある。これら表記の意味は同じものだ。ちなみに最上位のIPX6は「いかなる方向からの強い水の直接噴流によっても有害な影響を受けない」というもの。実はスマートフォンにおいて、この等級に対応しているものは意外と少ない。
続いて、IP等級の第2数字の「7」と「8」について解説する。IPX7は「既定の圧力、時間で水中に沈めても動作に支障のないこと」という意味で使われる。前述までの噴水流ではなく「水没」の試験となるため、他の防水性能を示す数字とは試験内容が異なるのだ。
IPX8は防水を示す最上位の等級を示すものとされているが、厳密な試験方法がIP規格としては明記されていない。テスト方法には「IPX7以上かつ、メーカーと機器の使用者間の取り決め」としかなく、同じIPX8等級を取得していてもその性能はメーカーや機種によって差がある。
多くの場合、IPX8は「水中で使用できる」「IPX7よりも深い場所に沈めても動作の支障がない」といった旨でテストし、取得しているものが多いとされている。
ここまで、IP等級の数字によって試験項目が異なることを説明した。一般にIPX8の水没試験をクリアしていれば、水を吹きかける噴水試験も合わせてクリアできるのではないかと思われる。このため、IP65よりもIP68の方が「高性能」「上位互換」と思われるが、両者は試験方法が異なるので必ずしもそうではない。
IP65は完全な防塵性能を持ち、IPX5等級の噴流水に耐えられる意味となる。もちろん、IPX7や8等級を有していないため水没の耐性は保証できない。 一方で、IP68は防塵構造とIPX8に示すIPX7に示す水没試験+端末メーカーの要求する防水性能を備えていることを意味する。製品にこれしか明記されない場合、IPX6までの数字に示す「噴流水についての耐性」は保証できない。数字が大きいからといって、IP65の上位互換ではないのだ。表記は以下のような意味となる。
IP65に対し、IP68はIPX6までの噴水流の耐性を明記していないため「上位互換」ではないのだ。われわれが日常的に思い浮かべる防水性能は「IPX5/IPX8」といった表記がされていなければ、期待する性能を持ち合わせていない可能性がある。仮にIPX8しか有さない場合、日常では降雨が直接本体に当たる、本体に直接シャワーを当てるといった場面で使用した場合の正常な動作は保証できない。
それでは水没に耐えられても、噴水流に耐えられないスマートフォンはあるのだろうか。 実は「Galaxy Z Fold6」をはじめとした折りたたみのスマートフォンがこれに該当する。この手のスマホのメインディスプレイはUTGという薄いガラスが採用されており、通常のスマートフォンの画面よりも柔らかく、爪先などで強く押すことも推奨されていない。ヒンジ部のメカ構造も強度を高めたとはいえ、デリケートだ。
これは水没させて浸水こそしなくとも、シャワーなどの水流が理由で画面が破損する可能性を否定できないのだ。スマートフォンとしての機能を保てないのなら、IPX6以下の試験をパスしていないのも納得だ。折りたたみのディスプレイやヒンジがデリケートなので、防水といってもシャワーをかけることは控えた方がよさそうだ
よく考えれば密閉構造を意味するIP6Xを取得していないのに「水没に耐える」というのも不思議な話だが、防塵と防水の試験は別口のため、このような表記の食い違いが起こる。
それを踏まえて、一般的なスマートフォンを見てみよう。例えばXperia 1 VIではIP6Xなどの防塵等級に加え、防水等級はIPX5/IPX8といった形で6までの数字と7または8の数字が併記されていることが多い。この記載であれば、当該機種は「噴水流」と「水没」の両者に耐える防水性能であることを示している。
スペックの記載によってはIP65/68というものもあるが、これも意味としては同じだ。重要なのは、防水性能は「6まで」の噴水流を意味する数字と「7か8」の水没を示す数字。これら2つがスペック表に記載されているか否かだ。
また、防水に関しては原則「常温の水」で試験されており、これ以外の条件での正常な動作は保証できない。例えばサウナなどの高温多湿な環境はもちろん、人肌程度のお湯、海水、プールの水、アルコール消毒液、コーヒーやジュースといった水溶液をかけた場合の動作は保証できないのだ。これはIPX5/IPX8等級の防水性能を有していたとしても同様だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.