話をApple Intelligenceに戻すと、こうしたところに踏み込めていないのが、同機能の弱点といえる。実は2024年6月に開催されたWWDCでは、ホーム画面でSiriに写真の検索を頼み、それを加工したあとメモアプリのメモに添付するといった一連の動作をSiriに任せられる機能がアピールされていた。ところが、ふたを開けてみると、Apple Intelligenceにその機能は実装されていなかった。日本語版も、同様だ。
また、パーソナルコンテクスト(個人の文脈)を認識する機能にも未対応だ。これによって、写真に保存していた免許証などの番号を覚えてWeb上のフォームに自動で入力したり、メッセージからフライト情報を読み取って、実際の情報をすり合わせた上で出発する時間を提案したりということが可能になるはずだった。個人情報やアプリを操るAIエージェントへの進化は、競合に比べて後れを取っている。
とはいえ、スマホに搭載されるアシスタントのエージェント化は、まだ始まったばかり。Geminiも、対応アプリはまだかなり限定されており、実用的に使える場面は非常に少ない。現時点でSiriの進化が遅れているからといって、雌雄を決するほどの差になるとは考えづらい。一方で状況を俯瞰(ふかん)すると、AI機能がスマホの差別化や競争軸の1つになりつつあることも事実だ。
懐疑的な見方もある点には注意が必要だが、AIスマホがユーザーの買い替えを促進していることを示唆するデータも出ている。中古スマホ事業などを手掛ける米Assurantのプレジデント(Global Connected Living & International部門)、ビジュ・ナイア氏は、「イノベーションを感じないことで、スマホをアップグレードしない傾向があり、結果として同じ機種を長く使い続ける人が増えていたが、(iPhone 16やGalaxy S24などの登場で)その傾向に変化が見られた」と語る。
実際、Assurantの調査によると、2024年は下取りするスマホの台数が増えただけでなく、下取りしたスマホの使用年数が低下傾向にあるという。このデータはApple IntelligenceやGalaxy AIが機種変更の動機になり、比較的短い期間で買い替えるようになったことを示唆している。カメラの進化や単純な処理能力の向上が中心だったスマホに、新たな競争軸が生まれつつあるのは確かだ。Apple Intelligenceが登場したことにより、日本でも、その戦いの火ぶたが切られたといえる。
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