スマートフォン黎明(れいめい)期や通信世代の移行期には、コンシューマー向けの新製品を追う場として重要だったMWCだが、徐々にその役割は低下している。大手スマートフォンメーカーがMWCとは異なるタイミングで発表会を単独開催することもあり、展示の中心は基地局やエンタープライズ向けソリューションが中心になっていた。コロナ禍での開催中止も、その傾向に拍車を掛けた印象を受ける。
一方で、3月3日から6日(現地時間)にかけて開催されたMWC Barcelona 2025からは、急速なAIの拡大、普及によりその状況が再び変わりつつあることがうかがえた。生成AIや、端末上でそれを動作させるオンデバイスAIはもはやスマホの必須機能になりつつあるが、2025年は“エージェント化”がキーワードになっている。ここでは、MWCから見えた、新たなスマホのトレンドを解説していく。
「昨年はAI、AIだったと聞いているが、今年もAIだと思った。ただ、今年は割と実用というか、実装というかの方向に振っている段階になっている」――こう語るのは、MWCの印象を問われたドコモの代表取締役社長の前田義晃氏だ。筆者も、これに近い印象を持った。キャリア、プラットフォーマー、基地局ベンダー、チップセットベンダーなど、どのブースに行っても必ずといっていいほどAIの2文字が掲げられている。
その使い方はさまざまだが、キャリアの場合だと、ネットワークの運用などに活用するパターンや、基地局そのものをAIサーバにし、通信品質を向上させたり、その上でAIアプリケーションを動かしたりといったパターンが代表的だった。前者は、KDDIが基地局配置やエリアの最適化をLLMとのやりとりで導き出すAIを出展。これを使うと、移動基地局車の効率的な配置もしやすくなる。
後者は、ソフトバンクが導入を目指す「AITRAS」がその代表例と言えそうだ。ブースの出展はなかったものの、ソフトバンクもMWCに合わせてAI RANの成果を発表。基地局のチャネル推定にAIを入れ、スループットが向上する実機での実験結果を公表するとともに、ノキアやRed Hatといったベンダーとの協業成果も披露していた。
キャリアのAIは産業向けという色合いが濃いが、KDDIの代表取締役社長CEOの高橋誠氏が「Qualcommのブースに行ってもZTEのブースに行っても、ローカルでLLM(大規模言語モデル)を動かしていた」と語っていたように、MWCでは、スマホ向けのAIも百花繚乱(りょうらん)とった状況だった。大手メーカーのブースの中には、新製品よりAIの新機能の方が目立っているところもあった。そんな2025年のキーワードとして見えてきたのが、AIエージェント化だ。
その動きにいち早く対応したのは、サムスンとGoogle。2社は、2月に発売になった「Galaxy S25」シリーズのGeminiに、アプリをまたがって連携する機能を搭載。GoogleのPixelシリーズもこれに対応した。ユーザーは「この周辺のレストランの情報を、田中さんにメッセージで送って」とスマホに話しかけるだけで、Googleマップの情報に基づいて周辺情報が検索され、メッセージを送信する直前の状態まで自動的に操作が進んでいく。
GoogleでAndroidの製品、エンジニアリング、デザイン部門を統括するVice President兼General Managerのシーン・チャウ(Seang Chau)氏は、「この機能はOMEパートナー(メーカー)やサードパーティーにも拡大していく」と語る。実際、MWCに合わせて開催されたXiaomiの発表会では、同社もこの枠組みに参画することを発表。Xiaomi 15シリーズのプリインストールアプリも、連携対象になっていくことが明かされた。チャウ氏も「アプリ開発者がこれをサポートしていけば、機能の拡大が続いていく」と期待をのぞかせる。
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