2024年のMWCに初出展したKDDI。2年目となるMWC Barcelona 2025では、傘下に収めたローソンをほうふつとさせる形のブースを出し、来場者の注目を集めた。キャリアが収益化を図るには、通信そのものに加えて、小売りなど、非通信領域への進出が必要になる――そんなメッセージをブースそのもののデザインから送り出しているようにも見えた。
初めて基調講演に登壇した代表取締役社長CEOの高橋誠氏が語ったのも、いかにしてキャリアが自らを変革していくかといったテーマで、展示とも一貫していた。そんな高橋氏が、MWCの会場で報道陣からの取材にこたえた。既報の通り、4月に高橋氏は社長を退き、現・取締役執行役員常務の松田浩路氏にバトンを手渡す。社長として最後のメッセージになるだけに、内容は多岐にわたっている。ここでは、その言葉を余すところなくお届けする。
―― MWCでは、AIが多い印象でした。KDDIもネットワークオペレーションを最適化するAIを出展しています。
高橋氏 2年前に通信障害を起こしてしまいましたが、そこからゼロタッチオペレーション(人手を介さずに自動で行う運用のこと)が広がってきました。正直、一気にやりすぎると影響範囲が広くなるので、AIの学習は必要です。ハルシネーション(AIが誤った回答をすること)もあるので、ここは知見を一生懸命ためていきながら、ですね。
―― 基地局側に処理能力の高いCPU/GPUを入れ、AIで無線そのものを最適化するような「AI RAN」はいかがでしょうか。
高橋氏 GPUのコストがどこまで落ちてくるかですね。ただ、AI RAN自体はちゃんと勉強しておけと、技術陣には言っています。ベンダーを回ると、CPUでも動くようにする、GPUでも大丈夫ということを言っていますが、それはたぶんメークセンスだと思います。
これは個人的な見解ですが、エリクソンやノキア、サムスンといった既存ベンダーは垂直統合ですが、全てアメリカのものではない。逆にOpen RANやvRANはサーバやソフトウェアなど、アメリカ製が多い。アメリカ側からすると、こっち(Open RAN)に持っていきたいとうい動きが強い。とはいえ、PCだって汎用(はんよう)機器の上でソフトが動く仮想化なので、時代としてはそちらに向かっていくと思います。
―― 端末側に入れるAIもかなり増えてきた印象です。
高橋氏 端末系だと、日本はJava(フィーチャーフォンのアプリ)のときからやってましたよね。ただ、日本は不用意にオープン化に走りすぎた。第1回の通信と端末の分離があって、インセンティブの抑制を打ち出し、そのあとに孫(正義)さん(当時はソフトバンク社長)が割賦を入れ、iPhoneを持ってきましたが、総務省は止められなかった(ので、そこが弱くなってしまった)。逆に、韓国はきちんと政府がそれを止めています。MWCを見ていても、KTなどの韓国キャリアはきちんと(端末と融合させた)AIエージェントをやってますよね。
―― そんな中で、キャリアの進む道を打ち出した基調講演がありました。
高橋氏 講演でも引用しましたが、僕は最初にGSMAのチャートを見たときのことが、すごく頭の中に乗っているんです。あれは横がユーザーとのタッチポイントを深く持っているかどうか、縦がネットワークを持っているかどうかで、その2つがあると「ライフプラットフォーマー」になれるというものです。あれを見て、うちはこっちに進んでいかなければと思いながらやってきたところがあります。一緒に講演したe&(etisalat and)にしても、MTMにしても、そっち路線の講演をしていました。
―― GSMAのボードメンバーをやってきましたが、何か受け止めはありますか。
高橋氏 GSMAはGSM(欧米、アジアで主流だった2Gの方式)の団体だったので、そういう意味ではやはり欧州中心です。今はアジアも入って、日本からも(KDDIが)入っていますが、そこにコントリビュートするのはなかなか難しい。ただ、下のレベルのワーキンググループでは、いろいろなことを提案しています。
―― アジアや日本で何らかのアライアンスを作るのは難しいでしょうか。
高橋氏 MNOだと難しいかもしれないですね。韓国もそうですし、東南アジアを見ていても、MVNOにどんどんシェアを奪われて感じがあります。日本の場合も、政策としてMVNOによって競争を起こすはずでした。そこに楽天モバイルが入ってきて、UQ mobileやY!mobileがぶつかりにいったので、その楽天モバイルですらシェアがなかなか伸びていかない。そんな中でMNOとしてのアライアンスを作り始めるのは、なかなか障壁が高いと思います。それならば、データセンターやコネクテッドカーなどをやった方がいい。IoTで5000万(回線)という数字がありますが、あれを聞くと海外の方も「おっ」となります。
グローバルも、ミャンマーの事業は回収すべきお金が回収できないかもしれないので減益しましたが(リース債権に対する貸倒引当金を計上した)、それ以外はうまくやっています。あとは、コンシューマー系をどうしようかというところですが、そこは「松田君、よろしく」ということで(笑)。
―― 結果としてMVNOでの競争にならず、料金値下げを余儀なくされましたが、最近はARPUも反転しています。
高橋氏 付加価値が上がり、トラフィックもすごく増えています。技術陣とは、今後のトラフィックがどうなるのかという話はよくしています。IoTは監視カメラ需要があり、上りが増えていますが、それと同じようにAIが来るとみんながプロンプトを打つのでどうなるかが分からないですね。どんなトラフィックがあるのかが分からないので、そこの知見はみんなでシェアしたいですね。
―― YouTubeやTiKTokなどの動画を配信している人がものすごく多くなった印象がありますが、何かトラフィックに影響はありますか。
高橋氏 (昨年の)春ぐらいから、またYouTubeなどのトラフィックが上がりはじめています。これは、メディアの変化もあると思っています。石丸(伸二)さんの都知事選や、兵庫県知事選を見ても、みんながスマホで撮って、それを動画で上げていますよね。こうしたメディアの変化もありますし、これからAIがどうなっていくのかということもあります。AIも今は、GPUやトレーニングと言っていますが、逆にどんどんローカルに降りてくるかもしれない。MWCだとQualcommのブースに行っても、ZTEのブースに行っても、LLM(大規模言語モデル)がローカルで動いていますよね。その足りない部分がクラウドに行くことになるのかもしれません。
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