KDDIは2025年2月5日、現在CDO(最高デジタル責任者)を務める松田浩路常務が、4月1日付で社長に昇格する人事を発表した。高橋誠社長は、代表権のある会長に退く。社長交代は7年ぶりとなる。
約7年前の2018年1月31日、KDDIは田中孝司社長が代表取締役会長に就任し、後任に高橋誠副社長が社長に昇格する4月1日付の人事を発表した。2024年6月19日、代表権が外れた田中孝司会長は、2025年4月1日付で取締役相談役に就任予定だ。
高橋氏によれば、移動通信システムが世代を重ねるとともに、KDDIの社長交代が行われるという。「5Gの成長とともに社長を務めた」という高橋氏は、「世界では、5Gの次は6G(移動通信システムの世代の進化)ではなく、AIの時代であるといわれている」と通信を取り巻く環境について語る。
「通信分野は5Gを核とし、スマートフォンを中心に発展してきた。AI/DXの時代を迎え、全てのものに通信が浸透し、われわれの生活を取り巻く環境は、すさまじいスピードで変わろうとしている」(高橋氏)
「これからは、AI活用を前提としたレイテンシが非常に重要になる。通信の向こうにあるAIやLLM(大規模言語モデル)から戻ってくるまでのレイテンシ(通信を介した応答速度)だからこそ、通信だけでは語れない」(高橋氏)
そんなAI時代だからこそ、高橋氏は「今後、会社(KDDI)をけん引していく人材は、技術の経験が豊富で、グローバルのパートナーとも臆することなくビジネスを構築できる、そんな人材である必要があるのではないか」と考える。
松田氏の年齢も、「AI時代の社長にふさわしい」とする理由の1つで、KDDIの経営トップの若返りを意図したようだ。高橋氏は、松田氏を「新しいビジネス領域に果敢に挑戦してくれる人材」と紹介し、「AI時代には最適な人選だ」とした。
実に高橋氏より10歳若い、53歳の松田氏。高橋氏は「AIに関わる人たちと話をしていると、みんな若い。米OpenAIのサム・アルトマンCEOは39歳。若いハイパースケーラーズの人たちと渡り合うためには、まず若さが必要なのと、グローバルに通用する語学力とセンスが求められる」と持論を述べた。
高橋氏から経営のバトンを引き継ぐ松田氏は、いったいどのような経歴の持ち主なのだろうか。
松田氏は、1996年に国際電信電話(KDD)に入社し、エンジニアとして通信事業に携わる。2000年にはKDDIに入社。高速モバイルインターネットの技術や商品の開発でキャリアを重ねてきた人物だ。松田氏は自身の経歴を次のように説明する。
「パートナーの皆さまとともに事業を探索し、競争することに尽力してきた。もともと関係の深かったApple、Google、Qualcommに加え、Starlink衛星を手掛けるSpaceXとの提携を実現できたことは、大きな自信につながった」(松田氏)
高橋氏によれば、「Apple、Google、Qualcomm、SpaceXとの協議のほとんどに松田が出席していた」という。高橋氏は「最初の道筋には自身が少し関与した」としつつも、「(関係性や提携の)構築にあたっては、彼が全てをやってくれた」と松田氏の経歴を高く評価する。
松田氏は、高橋氏が注力してきた「通信とライフデザインの融合」について、「あらゆる産業の基幹部分に通信が浸透し、その上に付加価値を加えて提供する取り組みが加速。事業の成長と社会課題解決を結び付ける好循環の基盤を構築してきた」と振り返る。
その上で、「このバトンをしっかりと受け取って、持続的な成長を確たるものにしていく」とし、「AIをフル活用する時代が訪れている。KDDIのデジタルデータ資産が、AI技術によって新しい価値を創造する原動力となる。これらの融合を通じて、つなぐ力を新次元にアップグレードし、事業に昇華していくことが私の責務だ」と述べた。
さらに、「社会の変化が激しい中、常にお客さま起点に立ち、期待を超える感動を届けることが重要だ。急速に変化する時代だからこそ、KDDIの企業理念やKDDIフィロソフィーを変わらぬ価値観として、常に前向きに挑戦者たる姿勢を持って進めてまいる所存だ」とした。
松田氏のコメントに含まれるKDDIフィロソフィーとは、「従業員が持つべき考え方、価値観、行動規範を示したもの」だ。ひいてはKDDIとしてどうあるべきなのかを表す内容でもある。画像は「KDDIフィロソフィ・KDDI行動指針」という資料より引用高橋氏の言うように、生活を取り巻く環境変化のスピードは速い。通信分野にも同じことがいえる。未来を予測しつつ、時代の変化とともに新規ビジネスモデル、付加価値を創出したり、形成したりすることは容易ではない。
KDDIは、サテライトグロース戦略を通じて、未来に向けて、より身近で多様なサービスを国内外に提供すべく、持続的成長につながる取り組みを行っている。KDDIがニュースリリースで示す図にも、社長会見の発言で繰り返される5GやAIが含まれるほど、今後重要なワードなのだいつ訪れるか分からない変化に備えるためにも、松田氏は「準備をしておくことが大事だ」との考えを述べ、「用意周到」「準備万端」「先手必勝」という言葉を用いて、未来を予測した経営を行う考えを示した。
KDDIの特徴の1つに、「基礎研究から応用研究に至るまでを実用化するサイクルを持っている」ことを挙げる松田氏は、あらゆる分野への技術の取り入れを注視している。
「エネルギー、あるいは金融に関する技術も重視している」と続ける松田氏は、中核となる通信基盤を生かし、DX、金融、エネルギーなどの付加価値で事業の成長を加速させる「サテライトグロース戦略」にも触れた。
「ここ(金融やエネルギー)に技術を植え付けていかなければならない。それがわれわれ自身の持つ技術でよければ、世の中の技術をアプライすることもいいと思う。エネルギーに関する技術、あるいは金融に関する技術は、KDDIとしてもしっかりと見ていく必要がある」(松田氏)
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