本製品自体の開発は2019年に始まったといい、それまでに4種類の「プロトタイプ」を作って各種検討を重ねたという。
本製品の特徴でもあるFluffyconesクリーナーヘッドのコンセプトは、従来のクリーナーヘッドが抱える「部屋の隅や壁際の掃除性能」を改善することだった。
各種検討/比較をする中で、Dysonは他社のクリーナーヘッドは通常ブラシバーの両端に大きなスペースがあり、ギアボックスやベアリング金具が組み込まれていることを突き止めた。同社の研究では部屋の隅や壁際にホコリがたまりやすい傾向があることが分かっていたため、集じん性能を検証する中で、髪の毛などの詰まりやエンジニアリングの複雑さといった課題も浮上したという。
これを受けて、ジェームズ・ダイソン氏はエンジニアたちに360度の掃除方式を再考するよう指示し、エッジクリーニングに優れた性能を実現することを目標に掲げた。円すい形のブラシを使うというコンセプトは、既存のデザインを改良し、毛髪が自動で移動し絡まないようにするという利点をもたらした。
このアイデアは、レーザーカットされたアクリルのプロトタイプを使用して、検討が重ねられたという。
吸引に関しては、円すい形であることの利点がすぐに発揮された。
一方ブラシは従来型を廃止し、1つのヘッドに4つの円すい形のブラシを取り付ける設計とした。初期のモデルは紙素材で作成して形状の検証を実施し、吸引や毛髪が移動し絡まない方法と並行してテストが行われた。
最初の「セミインテグレートバージョン」の試作では、クリーナーヘッドの理想のデザインを実現するためには、複雑な機能を実現させる必要があることが判明した。
そこでDyson初の試みとしてブラシを中央からの片持ち式にした。モーターとギアボックスを回転コーン内に収納し、外部モーターとベルト駆動式のブラシを備えることで、迅速に開発が進められたという。
PencilVacは、Dysonがこれまで得意としてきたサイクロン掃除機ではないことも注目ポイントだ。サイクロン掃除機の最大の利点は、吸引したゴミを遠心力で空気から分離させ、フィルターの目詰まりを抑えて、吸引力を一定に保つという点にある。
なぜPencilVacはサイクロン掃除機ではないのか――ダイソン氏は発表会後のグループインタビューの中で「PencilVacをサイクロン掃除機として製品化しなかったのは、サイクロンの性能を約38mmという細いボディーに収めようとすると、効率が著しく低下してしまうためだ」と理由を述べた。
とはいえ、PencilVacの開発に際しては、0.3ミクロンの微細な粒子を99.99%捕集できる「二段階リニアダストセパレーションシステム」を新たに開発し、集じん性能を大きく損ねないように工夫したとのことだ。
PencilVacのプレゼンテーションや製品サイトでは、小型でスリムな形状である点をアピールしている。これを他のDyson製品にも小型化は波及していくのかというと、ダイソン氏は「それは非常に良いアイデアだ」と述べるに留めた。
一方で、「ヘアドライヤーに使用しているヒーターは、すでに他社製品よりも小型化している」とダイソン氏は語る。Dyson製品そのものの小型化を実現するためには、「ヒーターやモーターといった様々な部品の小型化が不可欠だ」と補足もした。
掃除機としての性能を犠牲にしなかったのもPencilVacの強みだ。ダイソン氏は「利益を生み出すモーターの開発には10年もの歳月を要し、素材の削減と効率向上を目指して改良が重ねられた」ことに触れつつ、「(PencilVacで使ったモーターの)初期プロトタイプが最大2万5000回転だったのに対し、最終的には最大14万回転まで高速化することに成功した。これらの技術を総合すると、モーター開発全体で20年もの期間がかかったことになる」と語った。
本製品のニュースリリースの中で、Dysonのジョン・チャーチルCTO(最高技術責任者)は「Dyson史上最小かつ最速の掃除機用モーターの開発は、決して簡単なことではなかった」と振り返る。
さらに、「全てのテクノロジーをただ小型化すれば良いということではなく、モーター設計、電子回路、ソフトウェア、ハードウェアといったさまざまな要素を、1つの小さな筐体の中で高精度に統合する必要があった」としている。
「技術の可能性そのものを見直すことに常に挑戦し、製品の構想から設計、製造に至るまで、全てのプロセスで一切の妥協をせずに取り組む――それがダイソンのエンジニアリングだ。新しいモーターから、新発想のクリーナーヘッド、そして新たなセパレーションシステムに至るまで、Dyson PencilVacはダイソンの最新技術の集大成だ」とも述べ、Dyson PencilVacがダイソン技術の粋を集めた製品であることを強調している。
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