サービス開始当初からワンプランを貫いてきた楽天モバイルだが、ついに「特例」(代表取締役会長 三木谷浩史氏)を設ける。10月に開始される、「Rakuten最強U-NEXT」がそれだ。この料金プランは、Rakuten最強プランとU-NEXTをセットにしたもの。料金は4378円(税込み、以下同)となり、それぞれのサービスを個別に契約するより、1000円以上安くなる。
楽天モバイルはデータ通信が使い放題、U-NEXTは32万本の動画が見放題で、それぞれのサービスの相性もいい。一方で、Rakuten最強U-NEXTはこれまでのRakuten最強プランとは異なり、段階制ではなく、料金は4378円に固定される。こうした仕様や三木谷氏の発言から、楽天モバイルがARPUを上げつつ、解約率を抑えたい狙いが透けて見える。
Rakuten最強U-NEXTは、その名の通り、楽天モバイル回線に映像配信サービスのU-NEXTがセットになった料金プラン。直近ではドコモが「DAZN for docomo」を料金プランに含めた「ドコモMAX」を開始しているが、位置付けとしてはそれに近い。こうしたバンドルプランはKDDIが先駆けで、2019年にはNetflixがセットになった「Netflixパック」を開始しており、現行料金プランの「auバリューリンクプラン」にも受け継がれている。
もともと通信料の安さを売りにしていた楽天モバイルだが、Rakuten最強U-NEXTでも、その強みは生かされている。Rakuten最強プランで20GBを超えた際の料金は3278円、U-NEXTの月額料金は2189円で2つを合計すると5467円になるが、Rakuten最強U-NEXTでは、それらを4378円で提供する。2つのサービスをセットにするだけで、1089円も安くなるインパクトは大きい。
ただし、U-NEXTの単体契約時につく1200ポイントはなくなる他、Rakuten最強プランのような段階制も採用していない。ポイントを毎月有効活用できる人や、データ容量が20GB以下に収まっている人は、楽天モバイルとU-NEXTを個別に契約する方が安くなるため、無理に契約する必要はないだろう。逆に、U-NEXTは見放題の動画があれば十分で、毎月のデータ使用量も20GBを超えているというのであれば、Rakuten最強U-NEXTはお得な料金プランになる。
三木谷氏は、「U-NEXTに加盟される方は、そもそも20GBとかではなく、大量にデータを使う方という認識。データ容量を気にしないで使ってほしかったので、この料金設定にした」と狙いを語る。確かに、外出先や自宅で定期的に動画を見ていれば、すぐにデータ使用量は20GBを超えてしまう。その意味で、Rakuten最強U-NEXTはスマホのヘビーユーザーに向けた料金体系といえる。
安価に提供できるよう、U-NEXT側はポイントが付かないよう調整をしたことがうかがえる。U-NEXT Holdingsの代表取締役社長CEOでU-NEXTの取締役会長を務める宇野康秀氏は、「今回はポイントが付かないが、通信回線と合わせて安価なプランを提供することを主に考え、廉価になるように設計した」と語る。ポイント還元による実質価格ではなく、回線と合わせてそもそもの支払額が安くなることに重きを置いた料金体系に仕上げたというわけだ。
楽天モバイルは、もともと安さを売りにしていただけに、Rakuten最強U-NEXTでも料金は5000円を大きく下回る。これでデータ通信が見放題になり、かつ32万本の動画が見放題になるとなれば、魅力を感じるユーザーは多いだろう。楽天モバイルとU-NEXTの双方にとって、契約者を獲得する武器になりうる。三木谷氏は「これがあるから楽天に入る方はいると思う」と話し、宇野氏も「楽天モバイルとの協業で(現在の456万会員とは)違う桁の世界を見ていきたい」と口をそろえる。
ユーザー数が順調に拡大し、900万契約まで目前に迫った楽天モバイルだが、目標とする黒字化には、ARPUがやや足りていなかった。5月には、初の四半期黒字化を達成したものの、その額は固定資産税を除いて、かつEBITDA(設備投資の償却前)で1億円にとどまっている。これまで開示してきた基準だと、依然として赤字の状態が続いているとみていいだろう。
一方で、ARPUは2025年度第1四半期時点で2078円。前年同期の1967円からは111円上がっているが、黒字化の目安としていた2500円から3000円の範囲には届いていない。楽天モバイルユーザーが押し上げたエコシステムの増分を加えても、目標は未達だ。データARPUは1737円にとどまっており、よりユーザーにデータ通信を使ってもらう必要があった。
段階制を廃したRakuten最強U-NEXTは、その意味で手っ取り早いARPUを上げる一手になりうる。この料金プランのARPUをどう計算するのかは導入後の指標を待つ必要があるが、仮に割引分を楽天モバイルが全て負担したとしても、3278円−1089円でデータARPUは2189円になり、現在の数値を上回る。折半だとすると2734円(3278円−544.5円の2733.5円を四捨五入)と、大きく収入を上げることが可能になる。
三木谷氏も、「ARPUも、自分の場合を考えると、20GBを超える月もあれば、超えない月もあるが、このプランによって確実に超えると思っている」と語る。月によって変動があると、ARPUが安定しづらい。対するRakuten最強U-NEXTは、段階制ではないため、「ARPUはほぼ一番高いところに行く」(同)。割引はつくが、それを補う増収効果が見込めるというわけだ。
また、契約者獲得の観点では、解約率を押し下げる効果もある。複数のサービスを使っているユーザーは、他社への転出を避ける傾向が強くなることは、各社が実証済み。三木谷氏も、「これを使っている方は、脱退するリスクがかなり低い」と語る。新契約数の上積みができるだけでなく、ユーザーの減少も抑えられれば一石二鳥。三木谷氏が「キラーとなるパートナーシップ」と語っていたのは、そのためだ。
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