冒頭で述べたように、iPhone Airはグローバル全体でeSIM専用モデルになった。SIMカードスロットありのモデルは存在しない、ということだ。また、日本ではiPhone Airだけでなく、iPhone 17やiPhone 17 Pro/Pro MaxからもSIMカードスロットがなくなっている。米国では、2022年に発売されたiPhone 14で同様の仕様になったが、3年という歳月を経て、日本を含む一部地域にもそれが広がり始めている。
SIMカードやeSIMのプロファイルは、あくまでキャリアが発行するもの。Appleだけが先走ってeSIM専用設計にしても、キャリア側が対応していなければ使うことができない。そのため、Appleは「この日に備えるため、キャリアのパートナーと協力して取り組んできた」という。3年は、お膝元である米国から拡大するための準備期間だったというわけだ。
実際、キャリア各社も店頭やオンラインでのeSIM対応を行うべく、オペレーションなどの準備を続けてきた。とはいえ、ここまでeSIMを積極的に拡大するメーカーは珍しい。Appleは、eSIMへの取り組みが非常に早く、その取り組みは2014年にiPadが採用した「Apple SIM」にさかのぼることができる。
「2014年にiPad、2017年にはApple Watch、2018年にはiPhoneにeSIMを搭載しました。ですから、われわれは長年この旅を続けており、eSIMの標準を策定する支援もしてきました」
では、なぜ同社は他社をリードする勢いでeSIMに注力しているのか。ボーチャーズ氏の答えは単純明快。同氏は「eSIMが未来であると確信している」と断言して、こう続ける。
「これほどまでに注力しているのは、eSIMがお客さまに対して大きなメリットを提供できると信じているからです。使いやすく、より安全で、1台の端末に8つまで搭載できるのに、製品内のスペースを取りません。iPhone AirはeSIMなしでは実現できませんでしたし、iPhone 17 Pro/Pro MaxはどちらもeSIMによって大幅なバッテリーの恩恵を受けています」
eSIMに限らず、Appleは通信の新機能に積極的だ。2025年の新製品では、Apple Watchも3機種が5Gに対応。Apple Watch Ultra 3は、衛星通信も利用できるようになった。振り返ると、いち早くeSIMを採用し、単独での通信を可能にしたのもApple Watchだった。ディスプレイやカメラなどでは“初物”を狙うことが少ない一方で、こと通信に関しては先頭集団どころか先頭を独走することも多い。
その理由を問われたボーチャーズ氏は、「これまで言及した全ての製品(iPhone、Apple Watch)を購入する主な理由の1つが、コミュニケーションを取るため」としながら、次のように話す。
「それは、電話での通話かもしれませんし、インターネット経由のメッセージングサービスかもしれません。あるいは緊急時の衛星通信という場合もあるでしょう。われわれは、常に「お客さまに何を提供できるか」を考えることから始めて、それを実現するための最高の技術を追求します。場合によっては、それは長年存在していた技術かもしれません。しかし、多くの場合、市場に投入する必要のある新しい技術なのです」
「携帯電話を再定義する」(ジョブズ氏)とうたって登場したiPhoneだが、当初はGSM(2G)のみで、3Gすらサポートしていなかった。そのAppleが、今や根幹でもある通信技術を自身で発展させ、モデムまで設計するようになった。初代iPhoneから18年での大きな変化といえる。iPhoneやApple Watchが率先して最新技術に対応した結果、キャリアのインフラが進化する契機になることも多い。iPhone AirやiPhone 17シリーズも、日本のeSIM普及率を向上させる起爆剤になりそうだ。
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