Sensing HubとPersonal Scribeに保存された情報に基づくことで、初めてAIがエージェント的に振る舞うことが可能になる。先に挙げたようにカトウジアン氏が「最もパーソナライズされた」と語っていたのは、そのためだ。これまでのSnapdragonでも、OSを提供するプラットフォーマーや端末を開発するメーカーが独自に実装すれば、近い機能は実現できた。一方で、チップセットに共通で搭載されれば水平展開が可能になる。
Snapdragon Summit 2025では、Snapdragon 8 Elite Gen 5を搭載したレファレンスモデルで、サードパーティーのAIエージェントアプリが動作していた。例えば、中国の面壁知能は音声操作が可能なチャット形式のものを展示。音声操作で「ビーチの写真を探して」というと、スマホの中から該当するものを探し出してくれる。
さらに「その写真をInstagramに投稿して」と言うと、実際にアプリを起動し、それを投稿する。このようなエージェント型AIは、2月にスペイン・バルセロナで開催されたMWC Barcelonaにも多数出展されており、メーカーのスマホに組み込まれていたが、Snapdragon 8 Elite Gen 5の登場で、より動きが加速することが期待できる。
先回りして提案するAIというと、Googleが8月に投入した「Pixel 10」シリーズの「マジックサジェスト」を想起させるが、Qualcommの狙いも方向性は同じと言っていいだろう。もっとも、マジックサジェストは実際にPixel 10を使ってみると分かるが、現時点ではあまり先回りしてくれないし、表示される情報も限定的。コンセプトは面白いが、スマホの在り方を大きく変える機能とは言いがたい。
Pixel 10シリーズのマジックサジェストは、うたい文句通りなら便利そうだが、あまり発動してくれない。左はメッセージのやりとりで予定の中身を教えてくれるのかと思いきや、カレンダーアプリを提案するだけにとどまった例で、右は通話中に会話の内容に沿った内容を表示する機能がうまく作動しなかった例個人情報を活用し、AIがアプリをまたがって操作するという観点では、Apple Intelligenceの「よりパーソナライズされたSiri」も同じカテゴリーのAIといえる。ただ、こちらは2024年のWWDCで発表されて以来、導入が延期されたまま1年以上が経過した。現行のiOS 26でも依然として実現しておらず、Appleは2026年をターゲットに開発を継続している。
Snapdragon 8 Elite Gen 5もあくまでチップセットというプラットフォーム。ユーザーが実体験するための機能は、OS提供元であるGoogleや、スマホを開発するメーカーが実装する必要がある。現時点では、Sensing HubやPersonal Scribeをどこまで使いこなせるのかは未知数だ。一方、スマホ上でエージェント型AIを可能にする要素はそろいつつある。同チップを搭載した端末が増える2026年以降、スマホのAIが今より進化するのは間違いないだろう。
(取材協力:クアルコムジャパン)
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