NTTドコモの前田義晃社長は、11月4日の決算説明会で金融サービスに言及した。通信・決済などとの連携により預金・口座を拡大し、「ネット銀行No.1を目指す」と宣言した。その上で、「サービスの利用に応じて、dポイント特典を付与するなど、お得な仕組みの提供を検討している」ことも明らかにした。
10月1日には、住信SBIネット銀行を連結子会社化し、本格的に金融事業へ参入した。これに伴い、新ブランド「d NEOBANK」がスタートした。約1億人の会員を抱えるdポイントクラブやd払いといった既存サービスと銀行機能を統合することで、通信と金融の垣根を越えた経済圏の拡大を狙う構想だ。通信業界の最大手が銀行を傘下に収めることで、業界の勢力図が変化する可能性が高い。
d NEOBANKは、住信SBIネット銀行が掲げてきた「NEOBANK」構想を継承し、ドコモの象徴である「d」を冠することで新たなスタートを切る。住信SBIネット銀行が個人・法人に提供してきたサービス内容はそのままに、今後はドコモの各種サービスと連携し、より多彩なメリットを顧客に提供していく。ロゴやアプリアイコンも刷新され、10月から個人向けサービスで順次導入が進められる予定だ。
ドコモは、銀行をグループ内に持つことによる相乗効果を重視している。d NEOBANKの口座を通信料金やdカードの引き落とし口座に設定することで、dポイント還元などの直接的な特典を受けられるようになる。これまで外部銀行に支払っていた手数料をグループ内で完結させることで、顧客還元の原資を増やせる点も大きな強みだ。前田氏は「組み合わせて使うほどお得になる仕組みをつくりたい」と語っており、金融と通信の一体化で新たな価値を生み出そうとしている。
さらに注目されるのが、ドコモが保有する膨大な顧客データと銀行の金融データの融合だ。決済やポイント利用、通信契約などの情報に、入出金データやローン利用情報を掛け合わせることで、利用者の生活スタイルに合わせた金融提案を実現する構想が進んでいる。特に住宅ローンなどの分野では、住信SBIネット銀行のノウハウを生かし、ドコモの利用実績を反映した柔軟な融資提案なども可能になる見込みだ。
新ブランドの始動に合わせ、住信SBIネット銀行は10月から3つのキャンペーンを展開している。口座開設で最大1万5000ポイントがもらえる「dポイントどーんともらえる口座開設キャンペーン」、住宅ローン契約で最大30万ポイントが進呈される「dポイントざくざく!住宅ローンキャンペーン」、そして法人口座向けに最大100回の振込手数料が無料となる「法人さま向け振込手数料無料キャンペーン」だ。個人から法人まで幅広い層を取り込む施策で、新ブランドへの関心を高めていく。
また、全国に展開するドコモショップ網も重要な役割を担う。これまで店舗縮小を進めていたドコモだが、金融サービス拡大に合わせて店舗の活用方針を転換する。通信だけでなく金融を含む総合サービスの提供拠点としてショップの再活性化を図る。デジタルに不慣れな層にも対面で口座開設を支援し、裾野を広げていく方針だ。
通信と金融の融合に力を入れているのはドコモだけではない。KDDIはauじぶん銀行、ソフトバンクはPayPay銀行を擁し、それぞれ自社経済圏を形成している。これに対し、ドコモは金融中核機能の欠如が課題とされてきたが、今回の子会社化でようやく体制が整った。今後は共同経営パートナーである三井住友信託銀行との連携を深め、より堅固な事業基盤を築く方針だ。
通信インフラにひも付く顧客基盤と金融データが結び付くことで、よりパーソナルで便利な生活体験が実現する一方、他社との競争は激化するだろう。ドコモの挑戦は、通信業界のみならず日本の金融サービス全体の構造を変える可能性を秘めており、その行方が注目される。
ドコモ前田社長が語る「通信品質1位」への道筋 銀行業でd経済圏を加速、新AIエージェントも提供へ
ドコモが「銀行を持つ」ことでユーザーは何がお得になる? 住信SBIネット銀行が「最高のパートナー」なワケ
ドコモの銀行業はどんなサービスに? なぜSBIはソフトバンクではなくドコモと手を組んだのか 北尾氏が回答
ドコモが住信SBIネット銀行を子会社化 銀行口座を含む金融サービスを一体提供
ドコモが銀行業に参入へ 前田新社長「2024年度内にめどをつけたい」Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.