KDDIが「未来のローソン」運営で得られた“気付き” なぜ同じビルに2店舗開店? スマホの役割は?(2/3 ページ)

» 2025年11月12日 14時46分 公開

スマホのカメラを使うことで行動データが取りやすくなる

 このように、17階はあくまで内部限定だからこそできる壮大な実験場で、これをいきなり全国展開に持ち込むことはない。ここで使えそうな技術や取り組みの一部が6階へと持ち込まれ、課題の洗い出しを経て全国展開というパターンはあり得るだろう。17階で実装できた仕組みとして齊藤氏が挙げていた興味深いものの1つに「客の行動データが取れる」というものがある。

 通常、コンビニ店舗では顧客一人一人の行動追跡は行っていないため、顧客が実際にどのような商品を買ったのか、POSレジでの会計を通した“最終結果”しか分からないという難点がある。例えば、顧客が実際にどの商品に興味を持ち、キャンペーン告知を見て組み合わせの商品を取りに行って購買行動を変化させたり、あるいは手に取った商品を戻して買い物を諦めたりといった情報はPOSのデータからは得られない。

 これが可能なのは、日本国内でTOUCH TO GO(TTG)がファミリーマート向けに提供しているウォークスルー型店舗において「行動追跡のAIカメラ+棚の重量センサー」の組み合わせで完全に行動追跡を行った場合のみだ。最近ではセブン-イレブン店舗が国内数百店舗に行動追跡が可能なAIカメラを導入して実証実験を行っているケースが報告されているが、現実で運用されているケースはまだほとんどない。

 ところが、17階のローソンでは商品がスマートフォンのカメラを通じて逐次スキャンされるため、行動パターンが読みやすく、アプリを通じて適時レコメンドを挟み込める点が特徴だと齊藤氏は述べる。

Real×Tech LAWSON アプリを通じてさまざまなサービスを提供可能な17階のローソン店舗

 17階店舗についてもう1つ興味深いのが、ロボットを使った巡回販売だ。ランチタイムなどのピークタイムを除いた閑散時間帯に定番商品を搭載したロボットがビル内を循環し、社内販売を行っている。巡回ルートはある程度決まっているが、本来はセキュリティカードがないと入れないエリアであっても、ロボットがエレベーターやセキュリティゲートと連動することで、自動的に移動や開閉制御を行って自ら巡回することを可能にしている。

 買い物自体は17階と同じで、ロボットに取り付けられたチェックイン用のタグを使ってアプリで買い物を行う。この他、前述のようなエレベーターの利用が激しいピークタイムを除いた時間帯で、6階のローソン店舗からデリバリーを依頼することもできる。到着まで少々時間がかかるため、会議の時間に合わせて事前予約したりする必要はあるが、ビル内を自由に移動できるロボットならではの特徴を生かした仕組みだろう。

Real×Tech LAWSON ビル内の巡回販売を行うロボット
Real×Tech LAWSON ロボットは巡回タイプとデリバリーを行うものの2種類があり、エレベーター利用のピークタイムを除いた時間帯で稼働している

飲料陳列ロボットを導入したことで在庫が可視化されるメリットも

 KDDIが好きなことをできるという点で17階は特異な存在だが、KDDIがローソンを傘下に収め、かつコンビニが現状で抱える問題を解決しようと考えたとき、より重要になるのは6階の店舗の方だろう。こちらの課題解決は容易ではなく、齊藤氏自身も「ローソンさんが50年間施行錯誤してくみ上げられてきたオペレーションを、テックの1つや2つを導入してところで何かがガラッと変わるというのは正直難しい」と認めている。

齊藤氏 「今回、テックをいろいろ挑戦的に入れていったわけですが、改めて大事だと思ったのは、そこから得られるデータに価値があるということです。本来はユーザー体験や従業員の体験を変えられることが一番ですが、テックを入れたことでデータが得られ、店舗の利用実態や運営実態が見えてきて、データドリブンな店舗運営という点でローソンさんに貢献できるのではないかと思っています。その先にユーザー体験を変える新サービスや、従業員負荷を下げる新しいソリューションを突き詰めていけるのではないかと。

 まず見えてきたのは、純粋に売り上げの傾向です。ローソン側から『一般オープン時にはだいたいこういう陳列がいいですよ』という商品の配置割合とかのアドバイスがあったわけですが、いざオープンするとすごい偏りがあって、商品ごとの売れ行きが分かりました。

 もう1つ面白いのが、“テレイグジスタンス”という飲料陳列のロボットです。もともと従業員の工数を減らす仕組みとして考えていたわけですが、実際に入れてみると“在庫が可視化”されました。現状、コンビニ店舗では発注してバックヤードに段ボールが山積みになっており、そこから陳列していくわけですが、正直いま何本の飲料が店舗に残っているのか分からなかったのが、“テレイグジスタンス”を入れたことによって裏の在庫まで可視化され、無駄な発注がすごく減りました。他のローソン店舗と比較しても大幅に減っているという話なので、これは大きな効果です。

 また、商品を売り切って“空”になっている状態がどれくらい続いていたのかをモニタリングしていますので、仮に5時間その状態が続いたのであれば、それがそのまま機会損失となり、これをデータで示せるようになりました。このように、データでないと見えないところが少しずつ見えてきたというのがあります」

Real×Tech LAWSON 飲料を自動陳列する“テレイグジスタンス”の仕組み。通常の店舗では見えないが、KDDIのショールームに実物が展示されている。なお、ソフトバンクが本社を構える東京ポートシティ竹芝オフィスタワーの1階にあるローソン店舗に同じような陳列用のロボットアーム装置があるが、そちらは遠隔操作ロボットで仕組みそのものが異なるという
Real×Tech LAWSON 各種モニタリングを行うカメラやセンサー群。左から順に商品棚の状態を監視するカメラ、真ん中2つのセンサーがUWBを使って従業員が身に付けた“タグ”からその行動を追跡するもの、次が広角で周囲を撮影するセキュリティ用の監視カメラ、一番右のカメラも監視用で広角カメラの死角をふさぐ

 この“テレイグジスタンス”や派手なAIサイネージなどが話題の6階店舗だが、KDDI本社を訪問するクライアント企業の関係者に店内紹介ツアーを定期的に実施しているようで、6階店舗を訪れた際にツアー参加者らしき団体に遭遇することがよくある。実際に店舗を体験するためのVR店舗ツアー機能がWebブラウザ向けに提供されているので、興味ある方はぜひアクセスしてみてほしい。

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