病院側から見た「マイナ保険証」のメリットとは? 「1日1〜2件」でもスマホ利用に期待する理由(4/4 ページ)

» 2025年12月11日 18時00分 公開
[井上翔ITmedia]
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マイナ保険証は「普及率100%に近づけてほしい」

―― マイナ保険証について、課題に感じることはありますか。

担当者 マイナ保険証の導入当初、利用率が上がらなかった理由としてマイナンバーカードを持ち歩かない人が多いというのがあったと思います。この点については、厚生労働省にも「誰も(マイナンバーカードを)持ってこないですよ、持ち歩かないですし」と率直に伝えたこともあります。自分も、マイナンバーカードを財布に入れるようになったのは最近です。マイナンバーカードを落としたとしても、悪用されるリスクがないという周知が先だと思うんですよ。

 あと、患者さんの中には「マイナンバーカードから個人情報が漏れる」という勘違いをしている人もいるので、その辺(マイナンバーカード自体の仕組み)の周知も必要じゃないでしょうか。

―― このような課題はあっても、マイナ保険証の利用率はもっと上げるべきなのでしょうか。

担当者 もちろんです。できれば100%に近づいてほしいです。

―― マイナ保険証利用率が100%になると、どのくらいの(事務)負担の軽減になるのでしょうか。

担当者 今は受診申込書を手書きしないといけないのですが、マイナ保険証であれば本人確認をすると必要な事項を(オンラインで)取得した上で、医事事務システムに反映できます。間違いを防げる上に手間も省けるので、どんどん進めてほしいと思ってます。

―― マイナンバーカードを診察券として使えるシステムの導入はどうですか。

担当者 既にそういうシステムはありますから、タイミング次第ですね。できれば導入したいです。

―― マイナ保険証でいうと、診療/薬剤情報を確認する機能もあるかと思いますが、メリットはありますか。

担当者 話を多く聞くことはないですが、出てきた話でいうと「2〜3カ月前の情報を見たところで……(意味はあるのか?)」という反応が多いです。ただ「普段飲んでいる薬の確認ができるのは助かる」との声もあります。

―― リアルタイムで(診療/薬剤情報を)反映できるようになれば変わると。

担当者 そうでしょうね。

診察券 マイナンバーカードを診察券として使う場合は、健康保険の資格情報に含まれる「照会番号」と「診察券番号」をひも付ける実装が想定されている(デジタル庁資料より)
アーキテクチャ図 この実装をする場合、レセコン(レセプトを作成するPC)で稼働するソフトウェアを改修するだけで済む……のだが、それなりに費用が掛かるので、レセコンのリプレース時にまとめて行った方が“安上がり”となる可能性もある(デジタル庁資料より)

スマホ利用については十分に案内ができていない

―― 東京医療センターは、マイナ保険証のスマホ利用の実証事業にも参加していました(参考記事)。利用状況はいかがですか。

担当者 1日に1〜2件といったところです。患者さんからは「(スマホで)使えますか?」という問い合わせもあるのですが、自分できちんとインストールできる人はさておいて、そうでない人をご案内する所までは人手を割けていません。

 実証事業のときのように、専属のサポート人員がいれば何とかなるのかもしれません。

―― (厚生労働省やデジタル庁と)連携してサポートブースを設けるとかするといいんですかね。

担当者 それはアイデアの1つかもしれません。

 マイナンバーカード自体を持ち出すよりも、スマホを持ち出す方がハードルは低いはずで、(資格情報の確認に)スマホが使えるのは有益だと思うんです。出先で「ケガをしてしまった」「倒れてしまった」という時のでも、スマホなら持っている確率が高いと思うので、(スマホ利用は)うまく活用できればいいツールになるはずなんですよね。名前と資格情報も確認できますし。

―― 救急車で運ばれたときとか。

担当者 まさにその通りです。

―― スマホ利用自体ではトラブルはないということですか。

担当者 そうですね。強いて言うなら「使いたいけど初期設定ができない」くらいですね。(スマホ利用の)普及は、(今のままだと)ちょっと時間かかるかなと……。


 話を聞く限り、大規模な病院とマイナ保険証の“相性”は比較的良好のようだ。利用率向上の観点におけるスマホ利用への期待もあるものの、スマホにマイナンバーカード(あるいは電子証明書)をインストールすること自体がハードルとなりうる現実も見えてきた。

 「病院側の事務負担の軽減」と「患者の利便性向上」が、マイナ保険証普及の鍵となりそうだ。

「●」があってもレセプト請求上問題はない(追加質問)

 健康保険のオンライン資格確認時に氏名の異字体などが「●」と表示されることについて、先述の通り東京医療センターの事務担当者は「問題ない」と回答している。

 このことについて、読者から「ある団体が大きく問題視しているが、本当のところはどうなのか?」という趣旨の質問が寄せられた。デジタル庁と厚生労働省に追加で質問を行った所、以下の通り回答を得られたので掲載する(主旨が変わらない範囲で体裁を整えている)。

質問 オンライン資格確認システム端末で「●」表示は修正できるのでしょうか。

回答 オンライン資格確認の結果として表示される文字については修正できませんが、医療機関のレセコンにその情報を取り込んで医療機関が患者の情報を管理する際には、文字の置き換えが可能です。

質問 置き換えが不可能として、病院の医事事務/会計システムにデータを転送した後に修正することはできるのでしょうか。

回答 先の回答の通り、レセコンなど医療機関内で管理する上では文字の置き換えは可能です。なお、医療機関などは修正せずとも(「●」表示のまま)診療報酬の請求を問題なく行えます

質問 「●」の修正はどうすればいいですか。

回答 オンライン資格確認システム上から連携(提供)される文字については、医療機関などで修正はできません。患者さんが加入している保険者のシステム上で修正されることで解消されます



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