一方で、今回の事件はネット社会における新たな暴力の形であるとも見て取れる。加害者とされる生徒の個人情報を特定し、それを無差別に拡散する「特定行為」だ。SNS上では「すでに顔や名前がさらされて嫌になるほど出回っています。学校側も適切に対応しなければ、いつまでも拡散が止まらないでしょう」との指摘がある通り、情報の流出は止まるところを知らない。とりわけ懸念されるのは、情報の不正確さだ。誤った情報に基づいて全く無関係の第三者が犯人扱いされ、社会的抹殺に追い込まれるリスクは常に存在する。一度ネット上に刻まれた「犯人」というらくいんは、デジタルタトゥーとして一生消えることはなく、その人物の人生を修復不可能なまでに破壊しかねない。
しかし、SNSユーザーの中には、このような私刑を「必要悪」として肯定せざるを得ないという複雑な心境を抱く声も少なくない。「『私刑だ』という意見もありますが、実際には今回のようにネットで話題にならないと気付かれなかったり、警察が動かなかったりする現実があるため、非常に難しい問題だと思います」という意見は、公的機関や教育現場への不信感を示している。暴行動画が拡散された後に警察が動いたことを問題視する声もある。「暴行動画が拡散されなければ物事が進まないというのは、悪循環だと思います。私刑を抑え込むためには、適切な窓口と対応が必要です」という声は、制度上の不備を是正することこそが、ネット上の暴走を防ぐ唯一の手段であることを示唆している。
今回の一連の事件からは、暴行、その様子の撮影、ネット上へのアップロードの3点が大きな問題点であることが分かる。当然、被害を受けた生徒の権利と安全が守られなければならない。SNSという巨大な監視の目にさらされなければ、多くの人の目にとまらず、加害行為がもみ消される可能性は十分にあり得るが、かといって顔や個人の特定につながる動画が拡散されることも本来はあってはならない。仮に学校側がスマートフォンを校内に持ち込むのを禁止したとしても、監視の目をすり抜けて実行されたり、校外で加害行為や動画の撮影・アップロードが実行されたりする可能性があり、未然に防止しづらい問題であることも分かる。
今後、同様の事案が発生した際、私たちはどのように向き合うべきか。教育現場と司法の連携をいかに深め、ネット社会における情報の取扱いをどう律していくのか。栃木県でのこの事件は、一過性の炎上で終わらせてはならない重い課題を私たちに突きつけているようだ。
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