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明治大学が「東京国際マンガ図書館」 サブカル全般をアーカイブ、世界最大規模に

» 2009年10月23日 18時21分 公開
[ITmedia]

 明治大学は、漫画やアニメ、ゲームなどサブカルチャー関連資料を集めた「東京国際マンガ図書館」(仮称)を2014年度までに設立する。漫画の単行本や雑誌、個人出版による同人誌などに加え、アーケードゲーム基板やフィギュアなどを広く収集・保管し、展示・閲覧できるようにするほか、同人誌即売会などを開けるイベントホールも併設。開館時の収集点数は200万点と、関連施設としては世界最大規模になる見込みという。

photo 東京国際マンガ図書館のイメージパース
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 きっかけとなったのは、明大が10月31日にオープンする「米沢嘉博記念図書館」。明大出身の漫画評論家でコミックマーケット代表の故米沢嘉博さんの遺族から蔵書の提供を受け、同図書館を設立。さらに同図書館を含む形で、サブカルチャー全般をカバーする複合的アーカイブの構想が具体化した。

 計画では、東京都千代田区のJR御茶ノ水駅周辺に施設が点在する同大駿河台キャンパスのうち、米沢図書館のある「猿楽町地区」と呼ぶ一帯の明治大学付属中学・高校跡地を使用する。お茶の水の楽器店街や神保町の古書店街、秋葉原に近い立地だ。

photo シアターも

 現在の想定では地上5階・延べ床面積約8500平方メートル程度を計画しているが、詳細は今後詰める。計画を進めている森川嘉一郎・国際日本学部准教授は「器ありきで内容を決めるのではなく、内容に合わせて器を決めたい」という方針を掲げる。入館料の有無など、具体的な運営方針もこれからだ。

 米沢図書館は、取得済み資料の先行公開と位置付ける。米沢さんの蔵書(4487箱)と、コミケを支えた故岩田次夫さんの蔵書(403箱)の合計14万冊以上があり、コレクターがいないレディースコミックや、いわゆるカストリ雑誌などの資料が含まれている。

 このほか2004年のヴェネチア・ビエンナーレに出展した「おたく」展の全出展物を取得済み。アニメの原画や設定画、アーケードゲーム機の筐体・基板などの収集も進めている。散逸を防ぐため、2007年から古物商やオークションをチェックして入手を続けているという。

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 連携コレクションとして、内記稔夫さんによる私設アーカイブ「現代マンガ図書館」(東京・早稲田)の蔵書約20万冊を移設する予定だ。私財をなげうって運営を続けてきた内記さんは「わたしが倒れると図書館が立ちゆかなくなるという心配があった。自分が集めたものを半永久的に次の世代に残したい」と協力を了承した。

 同人誌即売会を主催するコミックマーケット準備会、COMIC1準備会、COMITIA実行委員会も協力。コミックマーケット準備会は、サークル参加者から提出を受けた見本誌で協力する予定。「一時的にお貸しする形。寄贈は一切考えていない」(安田かほる共同代表)という形だ。私費で業務用ゲームを収集している有志団体「アーケードゲーム博物館計画」、フィギュア制作の海洋堂も協力する。

photo (左から)現代マンガ図書館の内記さん、故米沢さんの妻の米沢英子さん、コミックマーケット準備会共同代表の安田さん
photo 間宮教授(右)と森川准教授

 「おたく」展のコミッショナーを務め、「趣都の誕生-萌える都市アキハバラ」などの著書がある森川准教授によると、国会図書館の漫画関連蔵書には欠本が多いなど、アーカイブとしては不十分という。森川准教授は「芸術作品としての側面もあるが、国民の生活・ライフスタイルを映す大変貴重な資料。過去にわたってそろえていく必要がある」とアーカイブの意義を強調。同人誌なども含めれば、ある作家の作風をアマチュア時代から追って研究できるなど、価値はさらに高まる。

 図書館内に同人誌即売会も開けるイベントホールを設けるのも特徴だ。「1つの『現場』を設けることで、アーカイブと現代の文化が有機的に結びつく」(森川准教授)という試みだ。

photophoto 森川准教授による国会図書館の所蔵状況。雑誌などで欠本が多いほか、単行本はカバーが廃棄されている

 図書館検討委員長を務める間宮勇・法学部教授によると「大学は古い体質もあり、『大学で漫画?』という意見も確かにあった」が、学内の理解を広げ、構想の実現にこぎ着けた。だが昨年、政府の“アニメの殿堂”(国立メディア芸術総合センター)計画が発表されると「ショックを受けた。さまざまな人の協力で進めようとしている時に、そこにぼんと建って、入れていくよと……」と間宮教授は振り返るが、「結局はハコモノで、運営が外部委託と聞き、おそらくうまくいかないだろうと思った。だが計画をきっかけに行われた議論を通じ、アーカイブが必要だということを認識させた」という。

コミケ見本誌と図書館をめぐって

photo 見本誌を収めた段ボール箱は倉庫に保管されている

 毎年8月と12月に開かれるコミックマーケットでは、同人誌を頒布するサークル参加者に対し、同人誌を1種類につき1冊、見本誌として提出するよう義務付けている(見本誌を提出しないと頒布は認められない)。これまで提出された見本誌はすべて保管されており、現時点で約1万2000箱・200万冊に上っているという。

 見本誌を閲覧できる図書館構想の具体化を多くの参加者が知ったのは昨年。参加者からはさまざまな反応があり、多彩な意見がネット掲示板やブログなどに書き込まれた。過去の貴重な資料の有効活用や、同人誌の社会的認知の向上などのプラス面を歓迎する声は多く、コミックマーケット準備会が実施したアンケートでも賛成意見が多かった。

 一方、反対の声も根強い。「タダで見られると売れなくなる」といったものもあるが、(1)2次創作同人誌の大半は著作権法違反。同人誌について理解のない一般向けに公開した場合の影響は、(2)過去の同人誌では奥付に作家の住所氏名を記すのが一般的だった。個人情報はどうするのか、同人誌の内容とひも付いた形で個人情報が流出する懸念はないのか、(3)見本誌提出の理由が図書館のためだとは知らなかった。一般公開に同意して提出したつもりはない──といった意見だ。

 「同人誌は元々アングラで内輪なものであり、カウンターカルチャーとして出発した。社会やアカデミズムに認められる必要はない」「著書を一般的に『公刊』するということと、コミケという限定された時間・空間のための表現を使って同人誌を頒布するということは意味が違う」といった「思想的立場」の主張のほか、見本誌の所有権をめぐる法的議論も交わされた。もともと先鋭な場であるコミケの参加者だけに、議論の百出は避けられない。「コミケの同人誌が全部読める!」といった興味本位的な取り上げられ方をする場合があることも、反対する立場の参加者を逆なでする結果になった。

 準備会は、今年8月の夏コミ参加者向け「コミケットアピール76」で、米沢図書館での見本誌公開方針を共同代表名の文章で明らかにした。

 それによると、(1)見本誌は最近の開催分について、1回ごとに期間を限る形で明大に貸し出し、閲覧に供する、(2)閉架式とし、資料請求の際はサークル名とその回のブロックの指定が必要、(3)利用は会員制とし、見本誌閲覧希望者にはさらに別の会員登録を必要とすることを検討、(4)奥付に住所・氏名・電話番号を記していた場合、本人による申請で見本誌の該当部分にシールを貼る措置をとる予定──という(方針は図書館のWebサイトに掲載されている)。

 その上で、改めて図書館の意義を説明する。「この世界を閉じておくことがもはや不可能であるならば、回路を開いて、今の有り様を認めてもらう方向に舵を切っていく以外に、永続への道はないと思うのです」

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