メーカーの「応援販売」が販売店を滅ぼす(後編)後藤重治のPC周辺機器売場の歩き方

» 2007年05月28日 16時00分 公開
[後藤重治,ITmedia]

応援販売で派遣されるスタッフとは

 メーカーは商品の回転率を上げるため、販売店に応援販売員を派遣する。かつては販売店からの強制に近かった応援販売という行為も、もはやメーカー側の自主的な行為として定着しつつある。

「応援販売」で店頭に派遣されるメーカーのスタッフはいくつかのパターンに分類できる。最も基本的なのは、メーカーの営業担当者本人が店頭に立つパターンだ。製品をセルアウトさせる目的だけではなく、自分が提案した売場が適切に機能しているかをチェックするのも彼らの目的の1つだ。会社として応援販売用のスタッフを組織化するだけの力がなく、またリベートで対応するだけの資金力がないメーカーは、このように営業マン本人が店頭に立つケースが多い。

 とはいえ、営業担当者にも休日が必要なわけで、土日のたびに売場に立てるものではない。また、ひんぱんに売場に立っていると、客を装って来店した競合店のバイヤーと店頭でバッタリ顔を合わせてしまう危険性もある。もしこれが、競合販売店からの応援要請を断って来ていたような場合は、確実にモメごとにつながる。

 ではどうするかというと、営業の現場とは関係のない、一時的に店頭に立つスタッフを会社として確保し、応援販売員として派遣するのである。具体的には、営業部ではない別部署のスタッフや、“ラウンダー”と呼ばれる営業補助のスタッフ、アルバイト、さらには新卒の内定者をあてがう場合もある。とくにプリンタメーカーなど、年間売上台数の7〜8割が年末に集中する製品の場合、事前にスキルを持った販売員を養成しておき、その時期にだけスポットで投入するのである。

 こうした要員をシステマチックに用意できるメーカーが現れると、ほかもあとに続くしかなくなる。ここ10年ほどで、PC業界は、こうした「慣例」がすっかり浸透してしまった。応援販売という仕組みはメーカーにとって逃れられない商習慣となったのだ。今では、遠く離れたメーカーの本社から、出張扱いでわざわざ社員を派遣する場合もあるほどだ。

巧妙な応援販売の「要請」

 従来、応援販売の多くは、販売店からの要請によって行われていた。販売店が具体的な日程を挙げ、どこどこのメーカーさんはこの日に何人来てください、とオーダーを出すわけである。競合他社は3人も来てくれるのに、おたくはたった1人ですか、と言われると、メーカーとしてはスタッフを増員せざるを得ない。

 ちなみに、販売店がメーカーに応援などを強要し、それを断ったことでその後の取引に影響が出ることを示唆した場合、法的によろしくないことになる。PC業界ではないが、2004年6月には、福岡市のディスカウントストアの本社に、公正取引委員会の立ち入り検査が入っている。新店舗の出店で、従業員の派遣=応援販売を強要したり、在庫調整のために一方的な返品をした、という疑いが持たれたためである。法律的には、公正な取引を確保する法律に違反する疑いがある行為だ。つい先日も、某広域家電量販店で似たケースがあったことも記憶に新しい。

 ところが、メーカーが「自主的に」応援販売に行くという形を取れば、こうした制限には引っかからない。いや、実際には限りなくクロに近いのだが、現状こうした形態を取っている場合は多い。実際のところ、販売店からメーカーに働きかける応援というのは、上のような「自主的に」見せかけるケースを除外したとしても、ひと昔前に比べるとかなり減少している。というのも、販売店の「寡占集中」により、メーカーが文字通り「自主的に」応援販売に行かざるを得ない状況に変化してきたからだ。

販売力のある店舗に人的資源を投入するメーカー

 販売力に乏しい店舗の場合、メーカーが応援販売に行こうが行くまいが販売数量はたいして変わらない。そもそも来客数が少ないのだから、接客でセルアウトの数量を増やそうとしても、たかが知れているわけである。

 しかし、集客力のある大手販売店だと、話はまったく変わってくる。ひとたび応援販売員を出せばセルアウトの数量を飛躍的に増大できるし、逆に応援販売員を出さなければ、競合他社に実売をゴッソリ持って行かれる。そのため、販売店側の要求に関わらず、メーカーは応援販売員を集中的に投入し、在庫を回転させようとする。現在の応援販売は、むしろこうしたことがきっかけで、自然発生的に起こっている場合が多い。

 メーカーの人的資源の問題も無視できない要素だ。例えば、全国展開する家電量販チェーン100店に製品を5個ずつ納品するのと、大手量販店1店に500個を納品するのとを比較しよう。出荷数量でみると500個で違いはないが、前者は3カ月かけても売り切れないことが多々あるのに対して後者はわずか1週間で完売できる。また、前者の場合は、100店舗にそれぞれ分納するための物流コストも馬鹿にならないのに加えてそれぞれの店舗に営業マンを張り付ける人件費も相当な額になる。

 そこで、集客力のある大手量販店に人的な資源、つまり応援販売員を集中して大量に投入し、製品の回転数で勝負する作戦に出るわけである。そうした結果、現在ではメーカーから応援販売員が来過ぎないようにするため、統制をかけている大手販売店もあるほどだ。この事情については本連載第7回「メーカーに格付けされる販売店」に詳しいので参照されたい。

商品を売らずメーカーに“売場”を売る販売店

 ここまで来ると、販売店の役割は、立地条件や知名度で客を集めることだけになる。メーカーは、よい売場を確保するために協賛金を払い、ラウンダーを使って商品を店頭に並べ、さらにセルアウトのためにメーカーの関係者自ら店頭に立つ。販売店は「客に商品を売っている」ように見えて、実際には「メーカーに売場を売っている」にすぎない。

 これらが常態化した結果、「販売員の知識低下」という事態を招き、本記事のタイトルにある「販売店の衰退」につながろうとしている。本連載の最終回となる次回、この理由について詳しく述べることにしたい。

応援販売に関するもうひとつの考察

 メーカーの中には、旧態依然とした応援販売のシステムを、別の視点から評価する声もある。例えば、ユーザーの声を直接聞くよい機会であるとか、新人スタッフのOJTとして有用、といった意見である。

 しかし、筆者が思うにこれは詭弁である。「ユーザーの声を聞きたい」というのであれば、それ相応のマーケティングリサーチに調査を委ねるべきで、店頭で接客したわずか十数人の声で判断してしまうのは、統計学的にも意味がない。極端な話、ライバル企業が動員したユーザーが恣意的な意見を述べれば「ユーザーの声」を捏造することも不可能ではないからだ。

 新人スタッフのOJTとしては、現場の雰囲気を知らしめるという意味で悪くはない。が、人員配置の都合で関係のないジャンルの売り場に回されたり、駐車場の誘導やバックヤードの在庫出しに回されるたりしてはOJTとはならない。本当に新人スタッフの教育を主眼に入れるのであれば、こうした事例をなくした上、なおかつ店側の要望とは無関係に、教育目的で受け入れてもらうよう交渉するすべきだ。実際、メーカー社員の新人教育の一環として、販売店の新人教育に「正式に」参加させられている例がある。

 いずれの場合も、応援販売におけるメーカーの本音は「依頼された人数を派遣しました」、販売店の本音は「ウチの店との関係を尊重して、要請された人数を集めたな」という、単にそれだけのやりとりである。この行為に、それ以上の意味合いや理由付けを求めてはいけない。中元や歳暮と同じ「ご挨拶」なのだから。

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