ムーアの法則が終わる日──ゴードン・ムーア氏特別講演からIntel Developer Forum 2007(1/2 ページ)

» 2007年09月19日 14時57分 公開

 何十年にもわたって業界の根幹となっていたものが、ある日突然崩れたらどうなるだろう。その業界は次の目標を見つけ出すことができるだろうか? 長年にわたりコンピュータ技術の最先端を走ってきたプロセッサ業界にとって、これまでのルールが変わる転換点が到来しつつある。そのルールとは、いわずと知れた“あの法則”のことだ。

いつまで続く「ムーアの法則」

 「ムーアの法則」(Moore's Law)とは、Intelの共同創設者であるゴードン・ムーア氏が提唱した、半導体の集積回路における「半導体のトランジスタ集積度は2年(24カ月)で2倍になる」という進化の法則のことだ。この法則はその後修正され、2年から1年半(18カ月)へとサイクルが縮小され、これがそのまま半導体業界におけるロードマップの原典となっている。果たして、この法則が崩れる日は来るのだろうか?

 9月18日(米国時間)より米国のサンフランシスコでスタートしたIntel Developer Forum 2007(IDF 2007)の初日に、このムーア氏による特別講演が実施された。National Public Radioで技術に関するインタビュー番組のホストを務めるモーラ・ガン氏によるインタビュー形式の講演会では、草創期のIntelやシリコンバレーの歴史、そしてムーアの法則の提唱まで、その歴史がひも解かれることになった。

 「ムーアの法則」の原典は、1965年にムーア氏が寄稿した論文にさかのぼる。当時、Fairchild Semiconductorに在籍していたムーア氏は、1968年、ロバート・ノイス氏らとともにIntelを設立した。同社の登場を境に、Intelが社屋を構えたサンフランシスコ南にあるサンノゼ周辺には、半導体メーカーを始めとするテクノロジー系の企業が続々と集まってくることになる。この土地はやがて「シリコンバレー」の名称で呼ばれ、その呼び名は世界的に知られることとなる。

 いまもなお、業界の指針となるムーアの法則だが、これを「ムーアの法則」と呼んだのはムーア氏自身ではない。当時、カリフォルニア工科大学教授だったカーバー・ミード氏が、最初にそう呼んだのが始まりだったようだ。IDFの特別講演でムーア氏はガン氏にこう語っている。

10周年を迎えたIDF
ゴードン・ムーア氏がIntelと法則の歴史について語る

ムーア氏 私自身は10年ほどその名称に抵抗していたのだけど、結局はそう呼ぶようになっていたんだ。

ガン氏 そのような名称で呼ばれるようになって後悔したことは?

ムーア氏 さあどうだろう。よく分からないね。

 いま、IT業界関係者の関心は、この法則がいつまで有効なのかという点だろう。ムーアの法則が停滞することは、コンピュータ業界の進化そのものの停滞につながる可能性があるからだ。

ムーア氏 過去にも何度か技術的課題に突き当たりながらも、困難を乗り越えてきた。数年前、物理学者のスティーブン・ホーキング氏が「ムーアの法則は光の速度と原子レベルの問題で壁に突き当たる」と指摘した。まったくその通りだろう。この先技術が進むと、電子から原子といった具合に壁に突き当たる。そのときこそ“ムーアの法則”が終わるときだ。すでに、我々はそこからそう遠くない場所に来ている。だが、そこまで行くのには、まだ10年かそこらの年月がかかるだろう。

 ムーア氏のこのコメントは、2005年あたりに大きく報じられて話題となった「ムーア氏自身が法則の限界を認める」というニュースの内容に沿ったものだ。だが、困難に遭遇しながらも新しいブレイクスルーを発見していくことで、ムーアの法則はしばらく続いていくというのがムーア氏の見解のようだ。

「日本企業との競争は興味深いものだった」

 ムーア氏は、Intelにおける自分自身の歴史を振り返るエピソードのなかで、興味深い出来事の1つとして日本企業との開発競争を挙げている。1980年代、日本企業との熾烈な価格競争に敗れたIntelは、DRAM市場から撤退するという辛酸をなめた。だが、強力なプロセッサ製品を武器に持ち直した同社は現在、業界トップを走るイノベーターとしての地位を確固たるものとしている。

ムーア氏 日本企業と競争していた1980年代当時は、非常に興味深いものだった。(DRAMの)大容量製品を開発すれば、彼らはすぐに追いかけてきて同じリングに立ってくる。その繰り返しだ。しかも、それらは品質が高く価格も安い。同じ製造設備を使っても、我々が80%の稼働率だとして、日本は98%の稼働率で攻めてくる。これでは勝負にならない。

 結果として、IntelはDRAM市場撤退の道を歩むことになる。だが現在、日本の半導体業界に最盛期の面影を見ることは難しい。こうした差はどうして生まれたのか?

ムーア氏 当初、日本企業はそれぞれがバラバラのトレンドを追いかけ、それぞれがバラバラの行動をとっていた。我々は、そこに付け入る隙があると考えていた。こうした状況でも、Intelはずっと同じ方向を見続けていたからだ。いつも「業界でいま何が起こっているのか」に関心を払いつつ、これがやがて原動力となって業績の回復に成功した。正しい革新の中にこそ、進むべき道があるのだ。

 つねに前を向き続けてきたムーア氏だが、すでに78歳。「同年代でもまだまだ現役はいるさ」という理由でIntelに在籍し続けているが、リタイアの時期もそう遠くないだろう。

ガン氏 もし、自分がまた大学に戻って勉強できるとしたら、どのような道を選びますか?

ムーア氏 きっと生物学(Biology)を選ぶかな。生物学は、いま最も革新が進んでいる領域だ。この分野に進んで、インタフェースに関する最もエキサイティングな研究をしたい。コンピュータと生物の間のインタフェースが、私がいま考える最も面白い分野だ。ここで恐ろしく複雑な研究に取り組んでいこう。

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