ScanSnapはスキャナの標準規格ともいえるTWAINには対応しておらず、独自のソフトウェア「ScanSnap Manager」で制御する。S510のV4.1に対し、S300ではV4.2にバージョンアップしているが、これはe-スキャンボタン関連やA3キャリアシートといった利用できない機能に関する項目を非表示にし、USBバスパワー駆動時のアイコン変更など、ハードウェア特性の違いによる変更がほとんどだ。なお、V4.2はS300専用ではなく、S510を接続したときはe-スキャンボタン関連の設定項目も利用できる(ただし、S300とS510の同時利用は不可)。
ScanSnap Managerには読み取り時に自動的にOCR処理を行い、PDFファイルに透明テキストとして貼りこむことで検索可能なPDFファイルを作成する機能も搭載されている。この手法は事実上、現時点で考えうるベストソリューションであり、それが別売ソフトを必要とせずに実現できるのは大きなメリットだ。
読み取ったデータはScanSnap Organizerで管理、編集する。こちらもS510に同梱されているV3.1からV3.2にバージョンアップしており、PDFの閲覧・編集を行うScanSnap Organizer ビューアが追加された。ビューアと付けられてはいるものの、実際にはAdobe Readerではなく、Acrobatを補完するツールになっており、複数PDFファイルの結合、ページの回転、差し替え、削除が可能だ。ただし、ここで編集可能なファイルはScanSnapシリーズで作成されたPDFのみであり、別のツールで作成したものは閲覧しかできない。
そのほか、スキャンしたデータのOCR処理もScanSnap Organizerから行える。OCR処理にはかなり時間がかかることがあり、ScanSnap Managerで読み込んだ後に自動的にOCRを行うように設定していると、保存が完了するまでの時間が長くなってしまう。その間は物理的にScanSnapが空いていても利用できなくなるため、大量の原稿を処理する場合には効率がよくない。そういう場合は、ScanSnap ManagerでOCR処理を行わずに、ScanSnap Organizerで行うようにしておけばよい。ScanSnapフォルダに追加されたPDFを空き時間に自動的にOCR処理するよう設定することもできるので、とりあえず取り込んでおけば後はおまかせで検索可能なPDFに変換してくれる。
コストを削ったエントリーモデルで気になるのはやはり画質だ。速度が遅いことは取り込み時だけの問題だが、画質が悪いことは最終出力物に影響する。スペック上はノーマルモードの150dpiからエクセレントモードの600dpiまで、4段階で指定できることに変わりはない。論より証拠、各モードをS510と比較した画像を見ていただこう。上からエクセレント(600dpi)、スーパーファイン(300dpi)、ファイン(200dpi)、ノーマル(150dpi)で読み取った。ファイルサイズは3、標準の圧縮率で保存している。
実際の原稿は4ポイントほどの非常に小さな文字なのだが、上2段の4つは画数の多い文字はつぶれるものの、十分認識できる。右の画像は横方向に色ずれ(水色の線)が見られるが、左ではほとんど確認できないのが分かるだろう。実はこれ、左がS300、右がS510の取り込み画像なのだ。これを見るかぎり、エントリーモデルのS300のほうが高画質という結果が出てしまった。一方、画像の取り込みではスーパーファイン以上ではそれほど差が生じなかったが、ファイン、ノーマルではS300の出力に色むらが生じている。
一方、白黒(2値)読み込みでは、S300の場合、通常通りカラースキャンした後に2値化処理を行う。そのため読み取れない色はないが、グレースケールではなく2値化なので明るい色は白く表示される。このしきい値はScanSnap Managerの読み取りモードオプションで調整できる。
「楽2ライブラリ」はバインダファイル形式で文書の管理を行うファイリングソフトシリーズ。個人向けには「楽2ライブラリ パーソナル」が販売されている。ScanSnapとのセット販売もされており、ScanSnapでの原稿取り込みからファイリングして管理するまでを一貫して行えるのが特徴だ。。ソフトウェア単体で2万5200円(S510と同時に購入すれば1万円ほど)と、決して安価ではないが、S300の登場にあわせてS300専用の楽2ライブラリ「楽2ライブラリ パーソナルLite V4.0」が発売される。
こちらは電子データの取り込みがJPEG/PDFに限られ(楽2ライブラリ パーソナルではBMP/WMFなどの画像ファイル、Word/Excel/PowerPointなどのオフィスファイルをサポート)、対応スキャナもS300に限られるという制限があるが、S300とのセット価格は+4000円とリーズナブルになった。
S300はエントリーモデルとしてS510と並行して展開される製品だが、一般にエントリーモデルと呼ばれるゾーンには大きく2つの傾向がある。1つは「最低限使えなくはないけれど、普通の利用では満足できなくなる」というもの。エントリーモデルの購入者の中には「安いと思って買ったけれど、結局、上のクラスの製品を買いなおした」というようなユーザーもいる。
ここで言われる“エントリーモデル”とは、カタログ上の「○○円より〜」といううたい文句でユーザーを引きつけ、上位製品への購買を促すための販売戦略的なものであり、ユーザーのニーズをくんでの製品ラインアップとは言い難い。
その一方で、ユーザーの「身の丈」にあわせて必要十分なスペックを選定した製品も当然ある。そういった製品は、通常利用に過不足なく耐えうるため、購入者の満足度も高い。このような製品では、エントリーモデルは個人向け、上位製品は企業向け、という住み分けをしているものが多い。
それではS300はどうか。後者寄りではあるものの、それに収まらない製品という印象だ。つまり上位モデルから機能を削ったのではなく、上位モデルの機能をコストダウンが図れるアプローチで実現し、さらに上位モデルにはない特徴を兼ね備えているということだ。もちろん、上位モデルのS510にはS300にない安定感がある。シュータガイドを伸ばさなくても比較的安定した紙送りが可能であったり、原稿スタッカで排出後の原稿の散乱が防げるなど、よりヘビーな使い方にも耐えうる基本的性能の高さはS510ならではのものだ。
しかし、S300を買って「S510にすればよかった」と後悔するケースは、ほぼヘビーユースに限られるのではないだろうか。1度に10枚以上の原稿を頻繁にスキャンする場合、たとえば書籍や雑誌を裁断して1冊まるごと電子化するというような用途には、やはりS510の出番になる。しかし、据え置き中心の利用であったとしても、その頻度が1日数回以内だったり、1ファイルあたりのページ数が少ないというような使い方であれば、十分検討に値する。もちろん、会社と自宅の行き帰りで携帯するような、モバイル性を重視するユーザーにとっては、文句なくS300を選択するべきだ。
ScanSnap自身、登場したときからすでにその製品コンセプトは高い完成度を誇っていただけに、新製品では細かな操作性、デザインの改良、解像度や速度のスペックの向上など、いわばマイナーバージョンアップの繰り返しに見えてきたのも事実だ。今回のS300のように、明確な方向性を打ち出した製品の登場によって、新たなユーザー層や利用シーンが開拓され、いままで想像もしなかったような新機軸、新機能が搭載されたラインアップが登場してくると面白くなってきそうだ。
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