中国最大手のWindows“作者”が逮捕された :山谷剛史の「アジアン・アイティー」

» 2008年09月16日 17時00分 公開
[山谷剛史,ITmedia]

いってみれば「ITmediaのトップページ」ぐらいの大事件

 中国で最も著名なWindows“海賊版”の作者が逮捕された。オリンピックが開催されようが、北京以外の都市、いや、その北京でも外国人の目に触れない地域において、海賊版ソフトが生活に密着している中国では、IT系Webメディアでその事件に関する特集が組まれるほど大きな話題となっている。

 海賊版ソフトの存在をある意味許容しているニュースサイト(ちなみに、インターネット全盛の中国において、政府のメッセンジャー的なニュースサイトは圧倒的少数派となっている)の記事は、事実を淡々と語りつつも、「マイクロソフトは、海賊版WindowsのWebサイトを手中に収めた」「疑問なのは、なぜ5年間も自由に活動させておいて、いまさら逮捕するのだ」といった、中国PCユーザーの味方が逮捕されたことに対する不満を示している。

 逮捕されたのは番茄花園(日本語で言えば「トマトガーデン」か)版Windowsをリリースした洪磊氏だ。Windows Vistaの発売直後、筆者が中国の街で流通する海賊版Windows Vistaを捜索したとき、「Windows Vista Professional 2007」や「Windows 大家族 2007」といったインパクトのある海賊版に混じって、「番茄花園 Windows Vista Professional 2007」や「番茄花園 Windows Vista 2007 終極免激活版」という海賊版も確認していた。それ以外でも、海賊版の動向をつかむために“海賊版専門ショップ”で定期的にチェックしているが、番茄花園ブランドは常に存在している。そんなメジャーな海賊版だけあって、中国のPCユーザーに「こんな事件を知っている?」と問えば、パワーユーザーの多くは「もう知ってるよ」と答えるし、ニュースを知らない自作PCユーザーも、「番茄花園? 自分のPCにあれ入ってるよ」と反応する場合がほとんどだ。

中国の街でいつもどおりに売っているWindows Vistaの海賊版

 複雑怪奇な中国の海賊版事情を示すのが、筆者が確認したと述べた「番茄花園版Windows Vista」の正体だ。実をいうと、番茄花園はWindows XPの海賊版しか販売していない。つまり、筆者が紹介した「番茄花園版Windows Vista」は海賊版ブランドの海賊版、番茄花園という海賊版のブランドをかたった偽物だったのだ。それだけ番茄花園が中国のPCユーザーに広く認知されていて、かつ、海賊版ブランドとして信頼されていることを表しているといえる。

 海賊版にブランドや信頼性と問うこと自体が、そもそも間違っていると思うが、中国では海賊版を作成する個人や集団によってその内容が異なる「ブランド」が複数流通している。例えば、標準状態で表示されるWindowsのテーマや背景などが海賊版ブランドごとに独自であったり、システムユーティリティソフトのセットアップファイルが付属していたりプロダクトキー入力を省略できたり、“海賊版として”利用しやすくなっている。

 番茄花園以外に知られている海賊版ブランドには、「上海政府専業版」というものもある。ただし、これだけ多くの海賊版が出回っているのは「Windowsなんたら」ぐらいだ。OSはPCに必須で数もはけるだけでなく、バージョンアップの頻度も多いゆえ競争が激しく、多くのバージョンが存在するのだろう。

海賊版を支えるメーカーの“DOS”入りPC

 中国では、Windows Vistaをプリインストールしているメーカー製PCは依然として少数派だ。あの、レノボですらエントリーモデルにはDOSをプリインストールして販売している。販売したレノボのPCに代理店が海賊版Windowsを入れるという商習慣も廃れていない。電脳街のPCパーツショップが販売しているショップブランドPCではもっとはっきりしていて、正規版WindowsがインストールされたPCは皆無といっていい。

 もっとも、中国でもWindows Vistaの人気は低く、Windows XPを望むユーザーが日本以上に多い。ただ、Windows Vistaの人気がない理由として、必要とされるPCのスペックが高い=価格が高くなるという理由以外に、番茄花園を始めとする海賊版にWindows Vistaが少ないという、中国ならではの理由も大きく影響している。

 番茄花園の作者が逮捕されたきっかけは、Microsoftが国家版権局や公安部に訴えた結果といわれている。当局を動かし、提訴される根拠となったのは、「海賊版Windowsの配布」以外に、Windowsのクラックという「営業上用いられている技術的制限手段の回避機能の提供」だったと言われている。逮捕後に閉鎖された番茄花園のWebサイトには、海賊版コンテンツを配布するWebサイトに必ず記載されている「ダウンロードしたら24時間以内に削除し、気に入れば正規版を買いましょう」という「注意書き」があったが、それは自衛の意味を成さなかったことになる。

PCパーツショップに掲げられているショップブランドPCの価格表。Windowsは付属しない

中国のPCユーザーを実質的に支えている番茄花園

 この事件で特集ページを組んだ、中国屈指のポータルサイト「新浪」と「捜狐」は、読者に対してアンケートを行っている。それぞれのアンケートから興味深い質問とその結果を紹介しよう。

番茄花園版、ないし改造されたWindows海賊版を使ったことがあるか? 新浪より8月23日20時における結果
現在使っている 67.57%
使ったことがある 23.96%
使ったことがない 8.48%

現在使っているPCのOSはどのバージョン? 新浪より8月23日20時における結果
番茄花園版 20.31%
蘿蔔家園(大根家庭菜園)版 14.2%
Microsoft正規版 12.98%
PCショップがインストールした(海賊版) 10.28%
PCメーカーによるOEM版 8.8%
深度版 8.65%
雨林木風版 8.34%
上海政府専業版 8.22%

現在使っているWindows XPのバージョンは? 捜狐より
番茄花園版 49.24%
そのほか 31.73%
OEM版 15.27%
店頭で購入した正規版 3.76%

番茄花園の作者が逮捕された。あなたの考えは」 新浪より
番茄花園を支持する 79.15%
中立 15.84%
Microsoftを支持する 5.01%

この事件の感想は? 新浪より
番茄花園版はWindows XPにさらなる使いやすさを提供した。残念だ 72.4%
海賊版は大きな問題ではないので逮捕に反対 18.08%
海賊版撲滅なので支持 5.81%
改造ソフトはハッカーの金稼ぎの目的だから嫌い 3.7%

 CNNIC(China Internet Network Information Center)によれば、2008年上半期の時点で、家庭内のインターネットに繋がっているPCだけで8470万台あるという。その2割が利用すると見積もると、家庭内のPCだけでも約1700万台に番茄花園版がインストールされている計算になる。番茄花園の作者洪磊氏を逮捕した蘇州市商丘区の警察が、洪磊氏の銀行口座の中を確認したところ、200万元(約3200万円)強の残金を確認している。ある情報によると、洪磊氏は月に十数万元の収入があったといわれている。この収入源は、改造した海賊版Windows XPにアドウェアを仕込み、ときどきデスクトップに表示される広告によるものとみられている。1回の広告表示で0.05元を得られるので、そこから逆算するだけでも4000万回広告が表示されたということになる。

 海賊版を使っていたユーザーはこれからどうするだろうか。誰もが口をそろえて「関係ない。海賊版を使い続ける」と答えている。インターネット掲示板におけるアンケート結果でもその傾向は変わらず、前述の新浪、捜狐に並ぶ大手ポータルサイト「網易」が行ったアンケートでは、97%が「もともと正規版を使っていない。高すぎるので買わない」と回答している。

 番茄花園のオフィシャルサイトが閉鎖しても、多くの海賊版ソフトショップで番茄花園版Windows XPが販売され続けているし、Webサイト上にアップロードされたイメージはP2Pソフトで流通し続けるだろう。これ以上バージョンアップをしなくても十分に使えるので、Windows Vistaに魅力を感じていない中国人に今後も番茄花園は魅力ある海賊版ブランドとして利用されることになるのはまず間違いない。仮に番茄花園が完全に消滅したとしても、それに代わる海賊版ブランドのWindows XPが延々と生き長らえるだろう。

中国中部にある都市の武漢で確認された海賊版の販売現場。番茄花園版のWindowsが売られている

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