「MIDのOSはLinuxが最適」──チャンドラシーカ氏、AtomとMIDを語る:CEATEC JAPAN 2008

» 2008年10月02日 17時00分 公開
[元麻布春男,ITmedia]

 CEATEC JAPAN 2008のキーノートスピーカーとして、Intelでウルトラ・モビリティー事業部長兼上級副社長を務めるアナンド・チャンドラシーカ氏が来日した。ウルトラ・モビリティー事業部は、MID(Mobile Internet Device)やNetbook、Nettopに使われるCPUのAtomを担当する事業部であり、特にNetbookは日本でも大きな話題になると同時に、製品として成功を収めつつある。IntelがAtomをどうしようとしているのか。Atomの最高責任者に聞いてみた。

Intel ウルトラ・モビリティー事業部長兼上級副社長のアナンド・チャンドラシーカ氏。このインタビューはキーノートスピーチの直後というあわただしい時間のなかで行われた

Netbookはすでにある製品の延長。MIDは新しい世界

──Intelは、今でも「Atomの最も大きなターゲットはMID」と考えていますか。

チャンドラシーカ Atomは、MID、Netbook、Nettop、そして、ATMや車載用コンピュータなどの組み込み用途全般に利用可能な汎用CPUです。「デザイン イン」という観点から見ると、いま紹介したすべてのジャンルでAtomは好調です。ただ、ボリュームという観点から見ると、Netbookがほかのジャンルを圧倒しています。それは、NetbookがPCという既存のジャンルの延長にあり、既存のエコシステムの上で展開可能な製品であるからです。新しい製品ジャンルとして市場を作らなければならないMIDの普及に時間がかかるのはやむを得ないことで、Intelもマーケティングに力を入れなければなりません。しかし、だからといって、Netbookが大成功してIntelが困っているわけではありません。大変喜ばしく思っています。

現行のMIDは第1世代でまだ始まりに過ぎない。すでにある市場の延長上で展開するNetbookとは違い、市場を作ることから始まるMIDは時間がかかるというのがIntelの見解だ

──MIDのOSとしてLinuxに力を入れているようですが、その理由は?

チャンドラシーカ MIDに関して、いくつかの基本的な方針があります。それは、MIDがコンピュータであると同時にコミュニケーションデバイスであること、携帯性に優れること、長時間のバッテリー駆動が可能なこと、使い勝手が良いこと、以上の項目が挙げられます。また、OEMからは、低コストであること、パワーマネージメントを極限まで追求すること、といった要望が寄せられています。

 これらをすべて満たすOSとして、Linuxが最適だと考えています。究極のパワーマネージメントを実現するには、チップとOSとで開発の歩調を合わせ、ローレベルなところから緊密に連携する必要があります。Linuxはそれに最適なプラットフォームなのです。

 もちろん、だからといってWindowsを使わないというわけではありません。IntelにとってMicrosoftは長期に渡る重要なパートナーです。現時点でMenlow(開発コード名)プラットフォームでサポートしているのはWindows Vistaだけですが、今期中にWindows XPのサポートも実現する予定です。次世代のMoorestown(開発コード名)では、さらにプラットフォームの小型化が可能となりますが、そのような小さなデバイスに導入するOSにはLinuxが適しているということがあるかもしれません。

IntelとARMの競争はビジネスモデルの競争だ

──IntelはWebページとの互換性という点で、ARMアーキテクチャよりIntelアーキテクチャが優れていると主張しています。しかし、DRMの付与されたコンテンツの存在などを考えると、互換性を追求してしまえばWindows以外に選択肢がなくなり、Linuxを採用することと矛盾してしまいます。それともIntelはMIDに専用のコンテンツを用意するつもりなのでしょうか。

IntelがAtomの優位性を示すためにことあるごとに紹介しているインターネットコンテンツ表示の互換性データ。ARMベースのデバイスに比べて、Atom搭載のデバイスはPCと高い互換性を示している

チャンドラシーカ まず最初に言っておきたいのは、Intelが示した互換性測定の調査では、IntelアーキテクチャでもARMアーキテクチャでもLinuxを用いているということです。もし、Intelアークテクチャで動くWindowsであれば、エラーはゼロになるでしょう。互換性という言葉にはいろいろな意味があります。プラグインやミドルウェアが提供されているかどうかといったこと以外にも、実行できるバイナリがあるかどうか、さらにはそれを実行するだけの性能があるかどうか、といったことです。

 Intelが提示した互換性に関するデータで訴えたいのは、ARMアークテクチャは分断されており、異なるARMベースのプラットフォーム間で互換性が完全ではないということです。ARMベースのプラットフォームでは、CPUのアーキテクチャは共通ですが、チップに集積されているI/Oなどその他の部分については、ラインセンシーごとに異なります。これは多くの用途に合わせて、カスタマイズされたチップを提供するというビジネスに最適化されたものであり、そのような分野におけるARMの成功は疑う余地のないものです。

 しかし、コミュニケーションデバイス、あるいはコンピューティングデバイスとして、共通したプラットフォームを提供するという点では最適ではありません。1つの互換性を持ったプラットフォームであるという点が、Intelが提供するプラットフォームの強みです。このように、IntelとARMのビジネスモデルは、それぞれ異なっています。Intelが示したデータは、IntelとARMとのアーキテクチャを比較した優劣ではなく、ビジネスモデル同士の衝突であり、コンピューティングというリングではIntelに優位性があることを示しているのです。

 一方、コンテンツですが、MIDで利用するコンテンツは、MID専用に作られたものに限定されるわけではありません。PCと同じコンテンツを利用できることが、MIDの利点でもあります。もちろん、PCの大画面に最適化されたコンテンツを再生するのにMIDは向いていないかもしれませんが、それでも、見ることができないよりはユーザーにとって便利なはずです。

 しかし、MIDに最適化されたコンテンツが登場する可能性も否定しません。仮にMID用に作られたコンテンツが登場しても、Intelアーキテクチャの互換性を考えれば、それをPC上で利用することは可能です。Intelが望んでいるのは、アーキテクチャを1つにすることで、コンテンツの提供形態をシンプルにすることです。複数のプラットフォームごとに別々のコンテンツを提供しなければならないようなことにはしたくないのです。

インセンティブに依存しないでWiMAXは普及するか

──IntelはWiMAXをオープンな広域ネットワークインフラにしたいと考えていると理解しています。しかし、それで携帯電話のようにインセンティブで端末を安価に販売するビジネスモデルに対抗できるのでしょうか。日本国内では、キャリアと契約を一緒に結ぶ条件で、Netbookを1万円以下で販売する例もあります。

チャンドラシーカ 米国でもインセンティブで端末を安価に販売している例があります。しかし、どのキャリアもインセンティブを負担に感じているはずです。できれば無くしたいのです。IntelがかかわってきたPCの世界は、インセンティブなどによる囲い込みのないオープンな市場です。価格はインセンティブという人為的な行為ではなく、自由競争によって引き下げられてきました。それによって、イノベーションが促進され、最終的にはユーザーの選択肢も増える、というのがIntelの考えです。

──Intelが行ったキーノートスピーチで示された資料で、MenlowとMoorestownが併売されることを示唆するものがありました。これは、小型のフォームファクタにはMoorestownが、もう少し大きなハンドヘルドやNetbookなどにMenlowが使われることを指しているのでしょうか。その場合、Netbook向けにはMoorestownとは異なる次世代製品が提供されることになりますか。

チャンドラシーカ MenlowとMoorestownが併売されるか、の答えはイエスです。両者は併売されます。そして、Moorestownが小型のフォームファクタ専用か、という問いの答えはノーです。

 PCとMIDやコミュニケーションデバイスとでは製品のライフサイクルが異なります。2〜3年ごとに買い替えサイクルがくるPCと違って、MIDやコミュニケーションデバイスはもっと長い期間にわたって使われ続けます。Moorestownがリリースされた後も、Menlowを使った新しい製品が登場するかもしれません。Intelはこのカテゴリーに対して、PCよりも長い製品提供サイクルを想定しています。

 Moorestownの特徴は、プラットフォームとしての消費電力を引き下げ、今までよりも小型のフォームファクタに搭載できるようにする点です。しかし、Moorestownには複数のバージョンが準備されており、性格が若干異なるモデルも提供される予定になっています。その中には大きいフォームファクタに適したものも含まれるでしょう。消費電力を重視したMoorestownをあえて大きなフォームファクタの製品に採用して、バッテリー駆動時間を延ばすという方向性も考えられます。このように、Moorestownと搭載するデバイスについてはあらゆる方向性が検討されるでしょう。

チャンドラシーカ氏がCEATEC JAPAN 2008のキーノートスピーチで紹介したMoorestownベースの次世代MIDモックアップ。短い定規のようなスタイルが印象的だ

経済が停滞しても研究開発は推進する

──CEATEC JAPAN 2008の初日となる9月30日に、米下院が金融安定化法案を否決したことを受けて、米国のダウ平均株価は777ドルを超える下落を記録しました。こうした経済情勢の悪化は、WiMAXの展開やMIDの普及を遅らせるのではないでしょうか。Intelは事業計画の修正を行うのでしょうか。

チャンドラシーカ いいえ、Intelの事業計画に変更はありません。テクノロジーカンパニーであるIntelが、投資を停滞させることはありません。Intelは、これまでに何度も経済情勢の悪化に直面してきました。最近では、2000年から2001年にかけての“ドットコム”バブルの崩壊が挙げられるでしょう。Intelがこの期間においても十分な研究開発資金を投じ続けたことが、現時点において業界の先端を行く45ナノメートルプロセスルールの実用化につながったのだと考えています。

 コンシューマーを駆り立てる製品にはイノベーションが欠かせません。その基本となる研究開発に資金を欠いては、イノベーションは生まれないのです。ですから経済情勢によって、Intelの事業計画が変わることはありません。

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