緊迫のiPad発売当日(現地時間の4月3日)、筆者がシアトル郊外のベルビューにあるショッピングモール「ベルビュースクエア」のApple Storeに到着したのは、オープン直後の9時15分ごろ。すでに、当日販売分を狙う“予約なし”購入希望者たちの長い列が店舗から遠く離れたモール中心部の吹き抜けまで達していた。オンラインで予約をした購入希望者は、入口の反対側に列を作っている。
Apple Storeの店員は、手に持ったカウンターで当日販売の列に並んだ人の数を数えつつ、ほかの店舗の入口をふさがないように行列を誘導していた。店員は「並んでもらってはいるが、在庫がいくつあるか自分も知らされていないので、ここにいる全員の分があるかどうかは分からない」と繰り返し説明している。
行列の先頭にいた女性に「何時から並んでいたのか」と聞くと、「朝の6時半」とのこと。なんと、彼女はご主人が使うiPadのために早朝から並んでいるそうだ。その後ろに並ぶ男性は「これで当分ガジェットの買い物はしないからと、妻に約束してようやく来ることができたんだ」と照れながら教えてくれた。そんな彼に「iPadは単なる大きいiPodという意見もあるが」と問うと、「確かにそうかもしれない。でも、僕は iPodも好きだからいいんだよ」と答えてくれた。
並んでいるほとんどの人がiPhoneを使っている行列で、筆者の前に並んでいた男性がAndroid端末を持っていた。聞いてみるとGoogleの元社員だという。彼は“あえて”iPadを購入する理由を次のように説明した。「ここに並んでいるほとんどの人と同じように、僕も新しいテクノロジーが好きなんだ。iPadは最高にクールなガジェットだと思うよ。でも、自分にとって本当に必要な製品かと聞かれると、答えはノーだね」。
列に並んでいる人たちはお互いに仲間意識が芽生えるのか、初対面の他人同士なのにテクノロジーに関して熱い議論を交わす光景があちこちで見られた。私の後ろに並んだ親子連れの父親が、彼の後ろに並んだ3人組の男性に向かって「iPadのバーチャルキーボードがいかに使いにくいか」を力説していた。「そんなに不満ならなぜこの列に朝早くから並んでいるの?」と突っ込みを入れたくなったが、話の続きを聞いていると、自分の母親(彼の子どものおばあちゃん)に贈るプレゼントのために購入しようとしているようだ。
そんなこんなで並ぶこと3時間。購入したばかりのiPadでショッピングモールの無料Wi-Fiスポットからインターネットにアクセスするユーザーが現れ始め、長時間の待ち時間に気遣った店員が、ペットボトルの水とクッキーを載せたワゴンを引いて列を巡回するなか、ようやくApple Storeに入ることができた。
入場制限のおかげか、店内はさほど混雑していない。店員1人1人がクレジットカード決済端末を持っているので、レジに並ぶことなくその場で目的のiPadの16Gバイトモデル(Wi-Fi版)を購入できた。Apple Storeはアクティベーションしてくれるサービスも実施していたので、希望すればその場ですぐ使えるようになる。心配された在庫も潤沢だったようで、16Gバイトモデルだけでなく、32Gバイト、64Gバイトのモデルも自由に選べる状態だった。
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