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すでに個々の機能についての詳細は、「iOS 5+iCloudで大きな変貌を遂げるiPad、iPhone、iPod touch」で詳しく紹介しているので、本稿ではその上をなぞりながら筆者の所感を多めにして見ていこう。
2007年の夏に登場した初代iPhone(日本では発売せず)から、iOS機器はもうすぐ5年目を迎える。そしてこの秋にはメジャーバージョンアップした「iOS 5」がリリースされる予定だ。
iOS担当の上級副社長、スコット・フォースタル氏は、iOS 5の200の新機能から厳選した10の機能を紹介した。それら1つ1つの機能も重要だが、実は機能紹介の合間に挟まれる統計データが、どれもiOS機器のすさまじい勢いを感じさせるもので興味深い。
まず最初に紹介されたのがiOS機器の累計ユーザー数が2億人という数字だ。
続いてスライドに映されたのは、ComScoreが2011年4月に発表したモバイル機器のインストールベースのシェアで、iOSが44%、Androidが28%、Blackberryを発売するRIMが19%というもの。
また、iPadは発売から14カ月で、世界で2500万台を販売した。
コンテンツの流通もめざましい成果を上げている。iTunes Store、iBookStore、AppStoreの3つのストアでは、クレジットカードを登録し、1クリック機能をオンにしているユーザーだけ数えても2億2500万ユーザーがいる。
iTunes Storeでこれまで販売された曲は(これはおそらくPCもあわせての数字だが)150億曲、iBookStoreでは主要6出版社の本が発売されており、これまでに1億3000万の電子書籍が購入された。
そしてiOSが放つ魅力の本丸、AppStoreでは42万5000本のアプリが提供されており、140億回ダウンロードされた(これはアップデートを含まない数だ)。そして、AppStoreでの売り上げによって、開発者には総額25億ドルが支払われている。
App Storeでは、まさにアプリケーションの大爆発が起きており、観光ガイドのアプリからゲーム、ケーブルテレビ会社によるテレビ視聴のアプリケーション、医療画像を表示するアプリケーション、電子会議システムなど、政府公認を受けたアプリケーションも数多いという。
これだけでもすごいが、アップルが開発したWebブラウザのSafariは、スマートフォンやタブレットといったモバイル機器でのWebアクセスの64%を占めているという。ライバルのAndroidは27%だが、実はこのAndroidが採用しているブラウザも、Safariと共通のWebKitという、アップルが開発したブラウザエンジンが元になっている。世の中の9割以上のモバイル機器がアップル製のWebブラウザ技術を使っていることになる。
iOS機器ほど、収益性が高いプラットフォームになると、電子雑誌やTwitter連携、ソーシャルゲーム機能といった人気分野で競合技術が乱立しやすくなる。そこで、できるだけ開発者の利益も考えつつ、ユーザーの混乱を最小限に抑えるように、少しだけ軌道修正をしかけたのが、今回のiOS 5ではないだろうか。
以下、フォースタル氏が紹介した10の機能を、筆者なりのコメントを交えながら追っていこう。
まず、最初に通知機能。これまでのiPhoneでは、TwitterでDMが届いたり、タイムセールが始まると、画面の中央を遮るように通知が表示され、この通知によってUstreamの中継が中断するといったこともしばしばあった。
iPhoneの画面が暗くなっているロック画面の状態で、臨時ニュースやSMSなどの通知が表示されていることもあったが、これもiPhoneを普通にアンロックしてしまうと、消えてしまって何の通知だったのか分からなくなることも多い。
アップルは、この通知機能を全面的に見直した。ロック画面では、壁紙の上に通知が上から並ぶ形で一覧表示されるようになり、見たい通知の部分を指でなぞると、すぐにその通知の内容が表示される、というスマートな仕組みも採用した。
通知の内容は、画面の中央ではなく、上端に表示されるようになり、細かくまとめよみしたい場合は、画面の上端から下に向けて指でなぞるジェスチャーをすると、通知一覧のレシートが表示される。
これはAndroidとほぼ同じ操作だ。基調講演では、あえてAndroidの話題に触れることはなかったが、おそらくAndroidを使ったことがある人なら、誰もがそう思ったことだろう。実際、通知機能はiPhoneよりもAndroidのほうがうまく実現していた数少ない機能の1つかもしれないが、iOS 5はこれを同じ形で採用してきた。
これまでAndroidをけん制することも多かったアップル。しかも、常に他社よりも先駆けて優れた操作性を実現してきたアップルだけに、この操作方法を採用するのはかなり嫌だったに違いない。しかし、あえて変更を加えるよりも、素直にこのスタイルを踏襲するほうが、ユーザーに最も分かりやすいという結論に達したのだろう。
かつてWindows系OSでは、Macの真似をしたという批判が強かったこともあり、(おそらく)批判を減らすためデスクトップのアイコンを左側に並べたり、メニューを画面の下に表示したりと、あえてMacと正反対の配置を採用するといったアプローチを取ったが、これがユーザーの使い勝手の点でよい結果を招いたかというと疑問な部分も多い。アップルはとりあえず目をつぶるところには目をつぶって、ユーザーの利便性を最優先したのではないかと筆者は思っている。
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