待望のiPhone 5がついに登場した。これは5年前の2007年、米国のみで発売された最初のiPhone以来、最も意欲的なiPhoneと言えるだろう。
iPhoneは、常に最も洗練された使い勝手を提供しつつ、最も美しい携帯電話であり続けた。最新のiPhone 5も、この方向性をさらに押し進め、素材の部分から見直しが図られている。表面を覆う素材はガラスとアルミだけ。背面は電波を通さない梨地加工のアルミプレートの上下を滑らかなガラスが挟み込むツートーンの構造。ただし、この2つの異なる素材はほとんど継ぎ目なくつながっているため、iPhone 5を持つ手のひらに違和感はない。
軽量かつ頑丈なアルミ素材を採用したことで、iPhone 5は大幅な軽量化と同時に薄型化も果たした。ただ、薄く軽くしたわけではない。より薄型化した本体の中に、「コンパクトデジタルカメラを上回る画質」といわれたiPhone 4Sをさらに上回るカメラ機能を搭載した。さらに、より軽くなった本体の中に、より大容量の電池を搭載し、バッテリー寿命を伸ばしたばかりか、より広い液晶画面を詰め込んだ。
初代iPhone誕生からの5年間、本体の形も変わったし、画面の解像度も変わったが、唯一3.5インチという画面サイズは変わらなかった。しかし、今回のiPhoneは、この部分すらも変えてしまった。
それだけではない。初代iPhoneのはるか前、2003年の第3世代iPodと同時に誕生し、それ以来iPhoneでも充電及びアクセサリー接続用に使われてきた30ピンのドック端子が、より小型のLightningという端子に切り替わった。
また、iPodゆずりの「EarBud」と呼ばれる標準添付のヘッドフォンが、3年がかりで開発したという「EarPod」というものに切り替わった。これは600人以上の耳の形を調べ、誰の耳にでもフィットし、標準添付とは思えない高音質を発揮するというヘッドフォンだ。
アップルはiPhone 5で、すでに十分ある機能をさらに追加するのではなく、一度、すべて見直して洗練をかけるという戦略で打って出た。洗練されたのは、上に挙げたようなスペックシートや公式ホームページに書かれていることばかりではない。アップル自身もあまりうたっていないところでは、標準搭載のスピーカーがかなり大音量になった。また、カメラ機能の反応が非常に速くなった。シャッターボタンをできる限り速く連打してみたところ30秒の間に100枚以上の写真が撮れてしまった(公式ページによれば40%高速化したらしい)。
このように、iPhone 5では気がつきにくいところでもいろいろと性能が向上している。確かに、何かこれまでのモデルにできなかった新しいことができるものだとは言いづらいかもしれない。しかし、こうした洗練のおかげで、それを使う人々が、何か新しいライフスタイルやチャレンジを始めようとすることは十分にあるだろう。
例えば、スピーカーの音が十分に大きくなったことで、テーブルに置きっぱなしのiPhoneで音楽を再生して聞くことが増えるかもしれない。また、運動会などでは、とりあえずしっかり高画質な写真を押さえたいときは、左手でしっかりと本体を押さえて、右手の人差し指でシャッターボタンを連打してしまいそうだ。
見かけ上の変化はミニマルに抑え、美しさや性能、使い心地の洗練によって人々をひきつける。実はこれは、MacBook Proなどにも通じるアップルの新製品作りのスタイルだ。
そう考えて、改めて画面を消したiPhone 5を遠目にひいて正面から見ると、これまでのiPhone 4や4Sとほとんど区別がつかないではないか。本体サイズを変えながらも、それすらもあまり感じさせないデザインと言うのは、なかなかできるものではない。
繰り返しになるが、機能を増やさずに中身の洗練で勝負をする――実はこれこそアップルのみに許された高度な製品戦略だ。
ほかのスマートフォンは、他社と同じOSを搭載しているため、差別化をするために、どうしてもほかにない何か(余計なもの)を付け足す方向で進化をしがちだ。これに対してiPhoneは、「iOSを使ったスマートフォンはiPhone以外になく、65万本以上ものアプリケーションがあり、使い勝手でも定評があるiOSで動作するというそれだけでも十分な強みなのだから、あわてて余計な機能を追加せず、それよりはすでに備わっていた機能を一通り見直して、さらに洗練を重ねよう」という戦略が取れるのだ。ちょっと地味な戦略に思えるかもしれないが、ふたを開けてみると、iPhone 5は、史上最も売れたiPhone、iPhone 4Sの倍のペースで売れているという。まだ店頭に並び始めてもいないのに、だ。
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