iPhone 5からDockコネクタがなくなってボクたちは泣いた牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2012年10月16日 17時00分 公開
[牧ノブユキ,ITmedia]

Dockコネクタ対応新製品を投入する勇気というかなんというか

 iPhone 5が発売になり、画面の大型化や本体のスリム化といった外観上の変化のほか、LTE採用によるデータ通信速度の向上やテザリング対応、また、Appleオリジナルの地図アプリにおけるランドマークの少なさや数多くの誤記が、話題の中心になった。

 しかし、ハードウェアの変化で業界関係者が最も注目するのは、これまで長きにわたって用いてきたDockコネクタを廃止して、新しい「Lightningコネクタ」に変更したことだろう。小型化したことで基板にも実装スペースの余裕ができ、また裏表のないリバーシブル仕様になって取り回しも向上している。

 その一方で、従来のDockコネクタが使えなくなったので、ユーザーは新たにケーブルを調達するか、変換アダプタを入手なくてはいけなくなった。コスト面では一定の負担になる。とはいっても、手元になければ充電ができないし、アップルも今後新製品が出るたびにコロコロと仕様を変えるわけではないだろうから、買っておくしかないか……、と自らを納得させて購入に至っているというのが、いまの状況だろう。

 ただ、今回のiPhone 5でコネクタが変更になるらしいことは、かなり前から情報が出回っていたにもかかわらず、発表直前までDockコネクタを利用した機器を発売するサードパーティも存在した。中にはiPhone 5発表のわずか1週間前に、Dockコネクタ採用のiPhone用スキャナを発売したメーカーもあったほどだ

 保護ケースや保護フィルムのベンダーが新製品の投入を控える中、なぜ、このようなことが起こっていたのか。今回はこうした、Dockコネクタ廃止に巻き込まれたサードパーティメーカー、そして、そこに部材を納める部材メーカーの“苦労”を明らかにする。

互換製品が出る前に純正品で稼ぎたい本体メーカー

 サードパーティ各社は、本体新製品発表の情報を把握すれば、従来製品に対応するアクセサリ類の在庫を絞るのが普通だ。本体新製品でも使えることが分かれば生産を再開すればよいし、そうでなければ急いで残っている在庫を処分する一方で、新製品に適合するアクセサリを大急ぎで生産しなくてはならない。

 iPhone、そして、iPadについては、新製品発表に至るアップルの行動が外部から見ても非常に分かりやすいため、多くのサードパーティは新製品発表前後になすべきことを心得ている。特に、iPhone 5は、外部の製造元などが発信源とみられる製品サイズなどの情報が数カ月も前から流出していたため、サードパーティにとっても対応は容易だったといえる。サードパーティ各社は正式発表前から、iPhone 5に対応するさまざまなアクセサリの企画開発、場合によっては製造まで進めていたという。

 そんな中、いくら製品サイズが分かっても実機がなければ製造に踏み切れないのが、今回のLightningコネクタに代表される通電系のアクセサリだ。サイズが合って差し込めたとしても、動かなければ意味がない。必然的に実機を使った動作確認を待たねばならず、発売はどうしても遅れてしまう。特にLightningコネクタの場合、内部に専用の認証チップを実装するとの情報もあり、これが事実だとすれば、ライセンスを交わさない段階で生産は不可能と見ていいだろう。

 逆に、アップルのような本体メーカーからすると、サードパーティが追従できない仕組みを作っておけば、その間は確実に利益が稼げる。ユーザー側は、不満を覚えつつも「仕方ない」と結局は購入するし、そもそもアップルは、十数年前にもSCSIコネクタのバリエーションを多数生み出した“前歴”がある。その目的が小型化やリバーシブル対応だったとしても、純正品の投入で一定の売上と利益も期待しているだろう。

 もちろん、独占は批判の原因になるので、ライセンスプログラムを作って一部のサードパーティにはライセンスフィー徴収と引き換えに互換品の生産を認める、ということになる。認証チップを介さずに動作させようとしても、その実現には時間がかかるので、その間に売り抜ければいい。

 似たような問題は、プリンタの互換インクカートリッジにもいえる。仕様を変更してサードパーティの互換品をかわそうとするが、サードパーティもすぐに対応品を市場に投入する繰り返しになる。しかし、コネクタやケーブルはインクカートリッジのように何度も購入する消耗品とは異なり、最初に買わせてしまえばそれで勝ちだ。本体メーカーにとって、かなり確実な商売といえるだろう。

発注量が分からない部材メーカーの悲哀

 iPhone 5の登場直前、保護ケースなどのアクセサリが新製品投入を控えていたにもかかわらず、Dockコネクタを採用した周辺機器の出荷状況は意外なことに通常通りで、一部のサードパーティに至っては新製品を投入していたほどだ。この時期にDockコネクタ対応の製品を投入するというのは、外部から見ると明らかに無駄に思える。なぜ、このようなことが起こるのだろうか。

 これを理解するには、iPhoneやiPadの市場におけるサードパーティのビジネスを理解する必要がある。サードパーティが生産するアイテムのうち、ケースや保護フィルムは、自社の直接管理のもと、提携工場で作る場合が多い。ケースなどの樹脂製品は金型に樹脂を流し込んで作り、フィルムは定められた形にカットしてパッケージングする。1製品あたりの部品点数も少ないので、部材の在庫コントロールもしやすい。余談だが、新製品の発表直後は納期を優先するため国内の工場で生産し、落ち着いたら原価の安い海外に委託するというパターンが多い。

 一方、ケーブルのような通電系のアイテムは事情が異なる。提携工場で作っていることに変わりはないが、ケーブルであればコネクタを外部の部材メーカーから買い付け、ケーブル本体はまた別の部材メーカーから買い付け、それをアセンブリして製品として仕立てる。

 ケースや保護フィルムについては、それを構成するパーツの数が少ないため、いきなり生産を止めても、AとBの部材のうちAだけが余ることは発生しにくい。台紙やパッケージが余るかもしれないが、それは廃棄しても原価的に影響は小さい。ケースや保護フィルムそのものの原価も比較的安価なので(フィルムの原価は1ケタという場合もある)、まるごと廃棄してもあまり痛手にならない。

 ところが通電系アイテムは、ケーブルの部材は使い切ったのにコネクタの部材は余ってしまった、ということが起こりうる。仕入れているサードパーティの側は足りない部材を買ってきっちり使い切るか、あるいは破棄するかを判断すればよいが、これを納入している部材メーカーは、在庫のコントロールに頭を悩ませることになる。

 というのも、余っているほかの部材を消化するためにサードパーティからそれと組み合わせる部材を少量だけ発注するケースがあるからだ。たとえ少量とはいえ、サードパーティからの要求にすぐ対応できる在庫を持っておかないと、部材メーカーはビジネスにならない立場にある。こういう少量対応を求められる部材メーカーがサードパーティからの発注量を予測するのは、サードパーティが販売店からの発注量を予測するよりはるかに難しいといわれるゆえんだ。

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