中国市場の勢いとノリのよさを感じたアップル製品の祭典Macworld/iWorld Asia 2013(2/4 ページ)

» 2013年09月04日 08時53分 公開
[林信行,ITmedia]

フライングのリスクがかすむビッグビジネス

 読者の中には、「販売店はなぜアップルの正式発表を待たずにそんな契約を結ぶのか」と思うか人がいるかもしれない。だが、新型iPhoneの発売から数日は、ケースメーカーにとっても販売店にとっても“かき入れ時”だ。このタイミングにあわせて商品を陳列できるかどうかで利益は大きく変わってくる。

 例えば、話題騒然で当面は売り切れになってしまいそうな超人気のスマートフォン、それもデザインの美しさで定評があるスマートフォンを発売直後に購入したとなったら、傷つけないようにケースが欲しいと思う人は大勢いるはずだ。そうした人々の多くが、iPhoneの新機種を手に入れると同時にケースも購入している。

 問題はそう思わせるだけの超人気スマートフォンを購入する人たちがどれだけいるかだ。これまでにも新型iPhoneが発売されるたびに、売り切れたらいつ手に入るか分からないという理由で、初日に新型iPhoneを購入しようとする人々が、銀座のアップルストアやソフトバンクショップ、原宿のKDDIデザインスタジオの前に長蛇の列をなす風景を見たことがある人は多いだろう。

 ここで1つ指摘しておきたいのは、テレビやWebニュースでおなじみのこうした風景が日本だけの現象ではないということだ。試しに「iPhone queue」などのキーワードで画像検索をしてもらえれば、世界中のアップルストアやキャリアショップの前で同じ現象が起きていることはすぐに分かる。

 特に中国で新型iPhoneが発売される際の行列はケタ外れで、まるで暴動でも起きたかのような群衆になる。このイベントが開催された北京でも、iPhone 4Sが初めて発売されたときには、何千人もの人々が押し寄せた(米FORTUNEブログ:Thousands of Chinese queue up in the cold for the iPhone 4S)。このためiPhone 5の発売では、アップルの側も購入者をオンライン販売に誘導し、行列ができるのを避けたほどだ。

 これだけ大勢の人々の(全員とは言わないまでも)かなり大きな割合が、新型iPhoneと一緒にケースを購入する。はたして発売日に、本体しか売っていないショップと、本体以外のケースや保護シートといった豊富なアクセサリを取りそろえているショップだったら、顧客はどちらでiPhoneを買いたいと思うだろうか。

 実際にアップル自身も直営店のアップルストアで、新型iPhone発売のたびに数種類のアップル公認アクセサリを並べている(これらのコラボメーカーには、アップルはあらかじめ事前に新型iPhoneを採寸させているのだろう)。

 量販店やキャリア系販売店が差別化を図ろうとすると、こうした公式コラボ商品に加えて、中国に太いパイプを持つ情報通のケースメーカーに早い段階で話をつけ、製品を入手しておく必要がある。どのケースメーカーと組むかは長年の付き合いがものをいう部分だ。

 アップルと公式にコラボしていないケースメーカーの多くは、それぞれの独自ルートでiPhoneの製造工場にコネを作り、そこから流出パーツを入手してiPhoneケースを製造しているようだ(これはそれなりにコストがかかることかもしれないが、iPhoneケースビジネスはそれに見合うビッグビジネスとなっている)。

 アップルは1つの製品を他社とは比較にならないくらいの時間とお金をかけてじっくりと作りあげる会社である。そしてその過程では、日本の家電メーカーと比べてさえ1ケタ違うほど多くのモックアップやサンプルができあがる。

 このためサードパーティは、信頼できる相手から流出パーツを仕入れ、どのタイミングで流出したサンプルかを正確に把握していないと、いかにも非公認メーカーの商品に見える怪しいケースができあがってしまう。

 例えばつい最近でも、最終製品にはない穴が開いたiPhoneの流出パーツが大量に出回ったために、最終的な製品では何も関係ない位置に穴が開いているiPhoneケースが数社から発売される事件があった(これらのメーカーは、穴はストラップ用だと説明していた)。

 また最終製品と同じパーツが流出していても、商品としては組み上がっていないバラバラのパーツとして出回ったために誤りが生じることもある。2012年に発売されたiPod touchがいい例だ。この新しいiPod touchは、それまでのiPhoneやiPod touchにはなかったストラップをひっかける丸い機構(ループと呼ばれている)が追加されたが、流出パーツを手に入れたメーカーの多くはこれが何のための穴かを把握できず、フラッシュの穴などと勘違いした。そうしたメーカーが販売するケースの中には、実際にiPod touchにはめてみると、ケースの厚みのためにせっかくの新しい趣向であるループがまったく機能しない商品もいくつかあった。

 どのケースメーカーが高い情報収集力と分析力を持ち、きちんと製品を出し続けた実績があるかを見極めることが、iPhone販売店に求められる新しいスキルになりつつあるといってもいいかもしれない。

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