開けたら最後、もう元に戻せない――頑丈・複雑すぎる製品パッケージは何のため?牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)

» 2013年10月24日 11時00分 公開
[牧ノブユキ,ITmedia]
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「パッケージの強固化」は良品返品を諦めさせるテクニック

 さて、このように返品しにくい状況を作り出して返品の数を減らそうとする手法は、昔から豊富に存在している。古典的な方法としては「問い合わせの窓口を分かりづらくする」というのがある。問い合わせ窓口を目のつきにくいところに表示したり、製品によってはパッケージに正式なメーカー名すら表示しないという手法だ。クレームをつけようにも窓口が分からないので、ユーザーとしては泣き寝入りするしかない。サポートの電話の数を増やさず、いつ電話をかけても順番待ちというのも、ハードルを高くするという点では近いものがある。

 しかしながら、ネットが発達した現在は、こうした施策はあまり望ましくない。というのも、窓口を明記しなかったり電話をつながりにくくすることで目先のクレームの封じ込めに成功しても、その不満の矛先はネットのユーザーレビューへと向かいがちだからだ。1つの返品を受ければ済んでいたはずの案件を無理に封じ込めたことで、何千人何万人が見るレビューに悪評をさらされてしまい、製品そのものが売れなくなってしまうのは、メーカーにとってはかなりきつい。たとえ製品自体に問題がなく、たまたま相性などの問題でクレームがついた場合はなおさら始末が悪い。

 これに加えて、今はサポート窓口が分かりやすく明記されていることが、製品の1つの価値とみなされる時代であり、販売店がそのメーカーの製品を安心して販売できる要因でもある。また、リアル店舗と違って自宅から出ずに問い合わせが可能なネット通販が増えている現在、メーカー側が窓口を狭めると製品を売ったネット通販店にクレームが寄せられ、そのネット通販店が「この製品はクレームが多い」と判断して販売を敬遠するようになる危険もある。こうなると本末転倒だ。したがってメーカーとしてはその前の段階、つまりユーザー側に問い合わせをさせない、返品を申し込ませないための施策が、必要となってくる。

 ここで出てくるのが冒頭に述べた手法、つまり「パッケージの強固化」だ。「開封時にこれだけグチャグチャにしたのだから再生は難しく、それゆえ返品を受け付けてもらうのは難しいだろう」というユーザー心理につけこみ、返品を諦めさせる高度なテクニックの1つである。何万円もするような製品ならいざ知らず、数千円程度の製品であれば、たとえハズレでも「まあ仕方ないか」と不満を押し殺すユーザーは少なからず存在し、パッケージを強固にすることで何割かが返品を諦めてくれれば、メーカーとしても返品率が低下して御の字というわけだ。

 とはいえ、リスクもある。中でも「厚かましいユーザーには根本的にそもそも効果がない」というのは最大の問題だ。良品返品を認めさせるため、メーカーや販売店側に責任をなすりつけようと重箱の隅をつつくような指摘をしたり、店頭で大声で苦情を申し立てるユーザーが増える要因と化している可能性は、今のところ否定できない。販売店側も、面倒な客はさっさと返品を取ってしまったほうが対応に要する工数も含めてコストがかからないことを知っているので、あっさり受けてしまうケースも多く、つけ込まれる要因となりつつある。長い目で見ると、現在のこうした状況は危機的といえるのかもしれない。

 もう1つ、実務的な部分で言うと、製品に誤植があったり付属品の差し替えなどが発生した場合、パッケージが強固すぎると、開封して詰め替える作業がおそろしく煩雑になるのもネックだ。下手をするとすべて工場に送り返して、パッケージはすべて廃棄して交換ということにもなりかねない。そのため基本的には、ファームアップなどによる性能向上や機能追加がなく、長期的に安定して販売される製品などにのみ適用できる手法と言える。マウスでこうした強固なパッケージが増えていることと合わせて考えると、なかなか興味深い。

返品スキームが整備されたその先に待つのは何か

 このようにメーカーは返品を回避するさまざまな策を講じているが、その一方でやむを得ず返品を受けた場合のために、それらを集めてリファビッシュとしてアウトレットに流したり、自社サイトで販売するといった販路も整備されつつある。中小の販売店で山積み商材として活用されるなど、うまく機能しているケースも多い。

 もっとも、こうしたスキームが整備されることにより、返品が一層しやすくなり、事実上の良品返品容認となることも懸念される。あるメーカーがこうした対応をすれば、競合他社も追従せざるを得ず、結果として同業者がそろいもそろってハードルを下げることにもなりかねない。消費者の側からすると良品返品OKというシステムはありがたい限りだが、その先に待っているのはさらなる先細りであり、アメリカと同じような返品大国化、そしてメーカーのさらなる困窮という未来である。もしかするとそれは、すぐ目と鼻の先に迫っているのかもしれない。

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