それいけ! ズッコケ“異業種”参入組み:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2013年03月26日 11時30分 公開
[牧ノブユキ,ITmedia]

「自分たちもメーカーになれるはず」という思い込み

 デジタルツールやガジェット、周辺機器などの市場に、異業種が参入してくることは、最近では珍しくない。例えば、出版社や流通企業が電子書籍端末の企画販売に乗り出したり、小売店がプライベートブランドでPCやタブレットデバイスを発売したりといった具合に、メーカーではない異業種がハードウェアの企画開発に参入するケースだ。

 ところが、こうした異業種によるメーカー事業への進出は、発表したときのセンセーショナルな仕様や価格で注目を集めることに成功しても、いざ発売すると数多くのトラブルを巻き起こして、いつの間にか終息してしまうことが多い。

 異業種参入組には多様なパターンがある。なんらかのサービスを提供するにあたり、ハードウェアを用意しなければならない必要からやむを得ず参入する場合もあれば、メーカー経由では自分たちが望む製品を仕入れることができない、または、値段が高い、さらには、競合にない製品で優位性を出したいなどの理由で販売店が独自ブランドのハードウェアを展開するような場合もある。動機も違えば目的もばらばらだ。

 もっとも、その多くに共通しているのが、対象となるハードウェアをほぼ完成品の状態で海外の製造元から仕入れることだ。自分達が製品に手を加えるのは、せいぜいファームウェアを書き替えたり、ボディをオリジナルに変更するといった程度だ。間違っても、自前で設計開発することはない。

 とはいえ、国内の周辺機器メーカーにしても、自分たちで製品を設計開発しているメーカーは少なく、その多くは海外の製造元が用意した製品をベースにカスタマイズしている。中には、パッケージと説明書を日本語化する以外のことはまったく行っていないにもかかわらず、メーカーを名乗っているケースもある。アクセサリ系は特にそうだ。

 このような状況を見て「これなら自分たちもメーカーになれるはず」と思ってしまうのが、異業種が“メーカーとして”参入するきっかけの1つといっても過言ではない。現実には国内外の代理店がこうしたノウハウを入れ知恵しているケースも多いが、その根底には「実際にモノを作っていない“あの会社”がメーカーを名乗っているのだから、わが社だってできるはず」という思い込みがある。小売店からすると、いままでメーカーから仕入れていたものを、製造元からの直接購入に切り替えるだけでよい、と考えてしまいがちだ。

欠品対策で大量に買い付けてデッドストックに

 ところが、こうした「メーカー」に求められるのは、モノを作れるか否かではなく、外注先をコントロールする能力であることに、彼らはすぐさま思い知ることになる。

 メーカーとしての購買経験がない異業種参入組が決まってやらかすのは、仕入れ価格を下げるために途方もない数量を製造元から仕入れ、デッドストックにしてしまうことだ。仕入れというのは本来、販売ルートごとの販売予測数を積み上げて算出した数字に対し、何カ月分といった値を乗じて必要な数を算出するが、購買経験のない企業は「予測数」ではなく「目標数」を基準にしてしまい。品切れを起こさないために、最大値で仕入れてしまうわけだ。

 在庫というのは、経営的な観点から見ると、ゼロに近ければ近いほどよいのが常識だ。欠品して困るのは店から文句をいわれる営業マンだけで、会社としては入荷したら即全数出荷して常時在庫ゼロというのが、キャッシュフロー的にも倉庫代の点からも望ましい。それなのに、仕入れ経験がない会社は欠品イコール機会損失とばかり、ものすごい数を仕入れてしまう。「欠品は悪」というのは販売店側の理屈であって、メーカーにとってはまったく通じない理屈なのだが、販売店としての同じ感覚で仕入れを行ってしまうわけだ。

 この場合、どうすればよいかというと、仕入れる数量を極限まで減らしたうえで、「リードタイム短縮のために部材を帳簿外でストックしておく」とか「欠品の場合はほかのOEM先に流している部材を回してもらう」とか「仕入れ計画に影響を与える超大口の案件は通常在庫からは出荷しない」といった、小技裏技を駆使するオペレーションが必要になるわけだが(ここで挙げたのはあくまで1つの例であり、業種によって異なるテクニックがある)、こういう技を知らない“素人”メーカーは欠品を回避するため「とにかく大量に仕入れる」ことで保険をかけようとする。まずはここで大きな差がつく。

 なぜ“素人”メーカーは多彩なテクニックを駆使できないのか。その原因は、製造元のハッタリを見抜けないことにある。あらゆる製造元は商談のときに「これだけの量を買ってくれたら値下げしますよ」と条件を出してくる。“玄人”メーカーにとってこのような駆け引きは日常茶飯事であり、その要求を断った上でさらに自社にとって有利な条件を引き出すが、メーカーとしての購買経験のない素人メーカーはこの製造元のハッタリを信じてしまい、要求してきた数量を要求してきた価格で買ってしまったりするので、製造元がむしろ驚くことになる。こういう交渉では、現場の担当者が反対しているのに社長が無理矢理決済してしまうパターンもある。

 しかも返品や不良発生時の責任分担、送料の負担、一括納品か分納かといった詳細の打ち合わせもせず、とにかく発注書を流してしまう。製造元からしてみると、発注書さえ届いてしまえばこっちのものである。かくして山のように送りつけられた商品がコンテナ単位で倉庫に積み上がり、売っても売っても減らず、投げ売りをしても追いつかず、タダで配っても追いつかず、時間だけが絶望的に過ぎていくことになる。

 “玄人”メーカーの場合、こうしたデッドストックの処分方法についてもノウハウがあるので万一の場合も対応は容易なのだが、購買経験のない企業はただひたすら右往左往するだけで有効な手を打てない。そして決算期が来て棚卸のときに大量の「資産」が倉庫内を陣取っているのを見て、そこで「ああ、メーカーにとって在庫ゼロの状態が最も理想的なんだ…」と初めて納得する。しかし、時すでに遅し、だ。

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