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ケビン・ベック氏に聞く、最新世代ThinkPadの「知られざる技術と工夫」今使っているそのPC、「“信頼”できますか?」(1/3 ページ)

» 2013年11月01日 17時00分 公開
[鈴木雅暢,ITmedia]

「レンタカーを洗車する人いますか?」はThinkPadにも当てはまる

photo Lenovo Thinkシリーズのグローバルエバンジェリスト/ワールドワイド・コンペティティブアナリストのケビン・ベック氏

 PCの堅牢性と信頼性。それはスペックとして記載されることは少なく、あまり目立たないものかもしれない。ただ、そこにこそ並々ならぬこだわりとさまざまな先進技術を詰め込んでいるPCがある。

 IBM時代からThinkPadシリーズの企画開発に携わってきたLenovo Thinkシリーズエバンジェリスト/ワールドワイド・コンペティティブアナリストのケビン・ベック氏に「普段はあまりフォーカスが当たらないが、これはぜひ知ってほしい」とするThinkシリーズの隠れた技術と工夫を聞いた。

ITmedia PCに実装する堅牢性や信頼性といった要素は、一般的に考えると薄型軽量化には相反する要素と思います。ThinkPadは、なぜそこに注力するのでしょう。

ベック氏 コンシューマーPCとビジネスPCのもっとも大きな違いとは何だと思いますか? スペック、機能、セキュリティ、価格帯……それらもありますが、それ以外にものすごく重要な要素があります。それは「エンドユーザーの扱い方」です。米国の著名な投資家の有名な言葉に「レンタカーを洗車する人はいるのだろうか?(──いるわけがない)」というものがあります。

ITmedia ウォーレン・バフェット氏の格言ですね。経営者自らが企業の株主となりオーナー意識を持てば、より企業の業績を真剣に考え、軽率な投資などはしなくなるいう……。


photo ヨーロッパで「会社PCを買い換えたい時どうする?」というアンケートで……「壊しちゃう」という答えが上位に入った

ベック氏 そうです。似たようなことはコンシューマーPCとビジネスPCの関係にも当てはまります。個人ユーザーが自分で気に入り、自費で購入したPCは大事に使いますが、会社から支給・貸与されるビジネスPCは「壊れても会社が再支給してくれる」という潜在意識があるため、個人所有機器と比べるとひどく乱暴に扱われる傾向にあります。

 ヨーロッパのある調査会社が実施した「新しい業務PCに買い換えたい時どうする?」というアンケートに対して、「今のPCを壊す」(!)という回答が上位にランクインしたといいます。

ITmedia 確かに、それは思い当たるフシはあります。

ベック氏 このことは我々が最初のThinkPad(ThinkPad 700C)の経験で学んだ最も大きなことと言っても過言ではありません。それ以来ThinkPadシリーズは「ビジネスユーザーがどんなひどい扱いをしても、仕事を続けることができること」を常に前提において開発をしてきました。ThinkPadシリーズが堅牢性を特に重視するのはこの理由です。つまり……ThinkPadは「今のPCを壊す」が残念ながら(笑)当てはまりません。

天面パネルには、人工衛星のものに匹敵するカーボンファイバーを使用

photo ThinkPad X240sは厚さ17.7ミリのフラットボディを採用。X230は最薄部19ミリ、最厚部26.6ミリだった

ITmedia CS13のThinkPadシリーズはT440系、X240系ともにボディがずいぶん薄くなりましたね。

ベック氏 特にT440sX240sについてはカーボンファイバーの採用が大きいです。ThinkPadでは1992年からカーボンファイバーをボディ素材に採用してきました。こちらは素材のコストが高いために全てのモデルに採用するわけではありませんが、ThinkPad X1 Carbonシリーズのほか、TシリーズはT430sから、現行世代からはX240sにも使っています。

photo 同サイズのアルミプレート/ThinkPadに採用するカーボンプレートの重量差

ITmedia カーボンファイバーのメリットは何でしょう?

ベック氏 強度と軽さを両立できることです。カーボンファイバーにもいくつかグレードがありまして、ThinkPadで使用するカーボンファイバーは、航空機(例えば、ボーイング787)に使われるものよりハイグレードで、人工衛星などに使われているものに匹敵します。これを使用したカーボンファイバープレートは、アルミニウムの約3分の1の重量で同じ強度、またマグネシウムの約2分の1の重量で50%増の強度を実現します。一方で、電波を通しにくい課題もあります。こちらは部分的にグラスファイバーを一体成形することで解決しています。

ITmedia こちら、内部にフォーム素材が入っているのですね。

ベック氏 カーボンファイバーで衝撃吸収用のフォームを挟んだ構造になっています。衝撃を裏側の素材に伝えにくいため、その分薄くできるというわけです。アルミニウムプレートに鉄球を落とすと、ベコッと凹みつつ、裏側もボコッと出っ張ってしまいますが、このカーボンファイバープレートは同じ衝撃でも凹まず、裏にも影響しません。ちなみにT440sはフォーム素材の改良により、先代のT430sより0.25ミリ薄くでき、天面パネル全体で従来の7.5ミリから5.1ミリまで薄くできています。

photophotophoto アルミプレート(写真=左、中央)、ThinkPadに採用するカーボンプレート(写真=右)、それぞれ同じ高さから鉄球を落下した結果。大きくへこんだアルミプレートは裏側にも影響を及ぼしたが、カーボンプレートは無傷だった

ITmedia ところで、CS13のT440sは、トップカバーからディスプレイラッチがなくなりました。

ベック氏 これまで、バッグの中で意図せず開いてしまうことなどを防ぐためディスプレイラッチを付けていましたが、ヒンジの改良により不要になりました。意図せず開閉することがなく、それでいてスムーズに開閉できるようトルクを調整しています。開閉しやすくするため、トップカバーのデザインもひと工夫を加えてあります。

ITmedia 確かに指がひっかかりやすく、スムーズに開けられます。

ベック氏 堅牢性の面でラッチ機構の破損を心配する心配がなくなりますし、そのスペースを利用してアンテナ設置の自由度も上がります。無線LANのパフォーマンスが向上したほか、タッチパッドも大型にできました。また、余計な穴や突起がなくなったので見た目もよくなったでしょう。以前「突起物が自分に向いているのが怖い」というご意見をいただいたことがあるのですが、これならその心配もありません。

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