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インタビュー
» 2013年11月01日 17時00分 公開

今使っているそのPC、「“信頼”できますか?」:ケビン・ベック氏に聞く、最新世代ThinkPadの「知られざる技術と工夫」 (3/3)

[鈴木雅暢,ITmedia]
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キーボードのノウハウを取り入れた5ボタンクリックパッド

photo 新世代X240系、T440系は新たな「5ボタンクリックパッド」を採用した(写真はThinkPad X240s)

ITmedia ThinkPad X240系、T440系では新しい「5ボタンクリックパッド」の採用で、トラックポイントとトラックパッドの独立ボタンがなくなりました。

ベック氏 トラックパッド面を大きくするためにこの方法を採用しました。トラックパッドの大型化はユーザー様からのニーズとしてかなりありましたし、大型パッドの搭載と3〜5点のマルチタッチ/ジェスチャー操作への対応はMicrosoftからのリクエストでもありました。パームレスト面のスペースには限りがありますので、大型化との両立はこの方法が最適解と判断しました。

 またThinkPadシリーズにはアイデンティティの1つであるトラックポイントも必要です。トラックポイントのボタンをどうするか。そこから、上側も押せる工夫を加えた「5ボタンクリックパッド」が生まれました。パッドの上部と中央部はトラックポイントの左右ボタンと中央ボタン、下部はパッドの左右ボタンと、5カ所をクリックできるようになっています。

ITmedia 1つのパッドで5カ所を押し分けるというと、それだけで押しミスが発生しそうな不安があるのですが。

ベック氏 確かに、普通のクリックパッドと同じように作るのではフィーリングの面でも、耐久性の面でもダメだという認識は我々にもありました。試行錯誤を重ねた結果、ボタンとして機能する部分すべてに、パンタグラフとラバードーム……つまり、ThinkPadのキーボードと同じ構造を導入した機構としました。ソフトウェアでボタンが反応する範囲を調整することもできます。実際に使っていただくとフィーリングのよさを実感していただけると思います。

ITmedia 確かにトラックパッドに対するイメージが変わる感触です。個人的にはこれまでのハードウェアボタンが好みですが、トラックポイントの設定で「ボタンサイズ=大」にするとトラックポイントのボタンとしても違和感なく使えるという感想を持ちました。

優れた放熱性能を長期に保つアプローチ

photo 新世代ThinkPadは前モデル以上の冷却性能を実現する

ITmedia 薄型化においては放熱も課題だったかと思います。

ベック氏 Ultrabookを中心とする薄型ノートPCの中には、背面などに「高温になることを警告」するラベルやプリントがされている製品をしばしば見かけます。米国では、一定以上に温度が高くなるコンシューマー製品に警告を義務付ける規制があるためですが、ThinkPadでそのようなラベルを見たことがありますか?

ITmedia それだけしっかりした放熱能力を備えているということですね。

ベック氏 そのとおりです。Ultrabookクラスの薄さを実現するには、放熱システムもこれまで以上に薄型軽量化、小型化をする必要がありますが、放熱能力も下げることはできません。放熱効率を高めるよう、さまざまなアプローチで向上させる工夫をしています。


photo 小型軽量で風量も向上させた「第7世代フクロウファン」と1本で2チャネルの熱輸送経路を持つヒートパイプ

ITmedia ファン自体も小型化、改良したのでしょうか。

ベック氏 もちろんです。ファンについては、先端で枝分かれするの特殊なブレード形状を採用した「第7世代フクロウファン」でエアフロー効率をかなり改善しました。口径を10%小さく、重量を23%軽くしながら、風量は38%の向上を達成しています。

ITmedia ファン以外にも何かありますよね。

ベック氏 ええ。ヒートパイプも大きな改良があります。「ハイブリッドヒートパイプ」という、1本で2チャネルの熱輸送経路を持つヒートパイプを採用しました。これにより熱輸送効率を高めつつ、パイプを1本で済ませられます。また、ヒートパイプは曲げ加工を行うと伝導効率が落ちますので、最初からボディの端以外は底部から貫通するネジ穴をなくす設計にしたのも細かいですが重要なポイントです。そして、これはThinkPad X1 Carbonより採用した技術ですが、長年の懸念であったホコリに対しても有効な対策を講じています。

ITmedia ホコリを原因とする故障は私も経験したことがあります。

ベック氏 ホコリの付着は冷却効率を低下させ、結果、故障する率が高まります。冷却システムが小さくなればなるほどその影響は深刻になります。

 そこで、大和研究所はThinkPad X1 Carbonを開発する際に根本的な解決策を講じました。6カ国のサービスセンターからホコリが原因で故障してしまったファンを送ってもらい、医学用の顕微鏡を使ってホコリの正体を徹底的に分析したのです。砂、ローム、タルク、アクリルやコットンの繊維、ペットの毛など、ホコリにもさまざまな成分がありますが、吸気口のフィルタでこれらをブロックするとともに、付着の最大の原因である静電気を除去する回路を組み込むことにしました。

ITmedia 静電気ですか。

ベック氏 この静電気除去回路は5〜6セント/台のコスト増になります。消費者の方はそのくらいならと思うでしょうが、開発側としてはかなり高額なコスト増です。それでも、3年間のシミュレーションを行い、高い効果が認められたため、採用することにしました。

 こちら誤解しないでいただきたいのですが、この5〜6セントのコストは製品の価格に転嫁しているわけではありません。故障が減ることは、我々のサポートコストを削減できるメリットとなります。実際、これまでファンの故障の20%はホコリが原因でしたが、このシステムを導入してからは今のところまだ1台もありません。

ITmedia それはすばらしいですね。

ベック氏 ……とはいっても採用からまだ1年ほどですので、最終的な結論を出すのはもう少し先になりますが、今のところは製品レベルでも確実な効果が実証されていると思います。

 このように、Thinkシリーズの「堅牢性」「信頼性」という要素は、売ったら終わりではなく、ユーザーが使用している数年後まで考慮する。そういう考え方を徹底しています。企画段階で面白いと思うものがあっても、まず堅牢性と信頼性に不安があれば採用しません。

ITmedia それはIBM時代からLenovoになってからも変わりませんか。

ベック氏 もちろんです。堅牢性、信頼性に対する考え方はまったく変わっていませんし、これまでの技術革新が実を結び、結果としてはむしろ大きく進歩しています。当社調査では、Lenovoグループとなった2004年からの8年間、月間故障率を51%も低下させることができています。

photo ThinkPadは、MIL規格8項目のテストをクリアする堅牢性を備えている

ITmedia ThinkPadは、米軍MIL規格のテストをパスしているそうですが、具体的にどの項目のテストをパスしているのでしょうか。

ベック氏 ThinkPadブランドの製品は、MIL規格(米国防総省が米軍の物資調達に必要な基準を定めた規格の総称)における8項目のテストをクリアする堅牢性を備えています。具体的には、「Humidity(湿気)」「Low Temparature(低温)」「High Temparature(高温)」「Sand(砂)」「Vibration(振動)」「Mechanical Shock(機械振動)」「Altitude(高度)」「Extreme Temparature(急激な温度変化)」の8つです。正式な認定を受けるには、製品版で出荷開始されたものを外部ラボに委託して試験を受ける必要がありますので、最新世代のThinkPadは現在テスト中ですが、社内でのテストはパスしていますのでじきに認定されるでしょう。

ビジネスシーンに「ThinkPadブランド」の威光は健在

 「堅牢性」「信頼性」の要素は、横並びで比較できるようなわかりやすい指標があまりなく、PCの基本スペックのみで評価してしまうとなると見過ごされがちな要素かもしれない。ただ、ミスや遅れが許されない業務マシンとして使用するならば決しておざなりにはできない部分だ。

 実際にビジネスで利用しているThinkPadユーザーにはそれを強く実感し、また冒頭でベック氏が述べた「ビジネスPC(会社支給PC)とコンシューマーPC(個人所有PC)ではユーザーの扱い方が違う」や「求められる堅牢性のレベルは、想像以上に異なること」に共感できるユーザーも多いのではないだろうか。今回はThinkPadの最新世代(X240系、T440系など)に使われている、主に堅牢性や信頼性に関する最新技術を中心に解説していただいたが、ThinkPadチームの堅牢性、信頼性、ユーザビリティといった要素への並々ならぬこだわりはいまだ健在であることを再認識できた。

 長年の経験と入念な調査研究に基づく技術革新により、時代の変化によるコストの制限、薄型軽量化ニーズというプレッシャーにも屈することなく、前進し続けていることが何より心強い。今後のThinkPadブランドの展開にも大いに期待したい。






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