未来のMacを先取り!「OS X Yosemite」特大プレビュー林信行が「OS X v10.10」を徹底分析(4/7 ページ)

» 2014年06月17日 21時50分 公開
[林信行,ITmedia]

OS XとiOS、2つの親を持つOS

 OS X Yosemiteのデザインで注目したい2つ目のポイントは「連続性と意味合いの深さ」だ。形あるモノであれば、過去の作品だけでなく、大自然にも由来を求めることができる。

 だが、GUI(グラフィカル・ユーザー・インタフェース)という画面の上の架空の世界では、ゼロから創造するか、ほかの作品に由来を求めるかの2択しかない。

 すでに多くのユーザーがいるパソコンのOSで、ただ「変化をアピールするための変化」として、新しい操作性を発明してもそれはユーザーを混乱させることにしかならない。そこでアップルは、製品に深さと意味付けを与える「由来」については、これまでの「OS X」と「iOS」の2つに求めることにした。

 MacとiOS機器が、より密に連携する新時代のOSとして、これほど理にかなったデザインの選択はない。

 「イノベーション」という言葉は一般には新しい技術の発明と誤解されているが、実は物事の「新結合」であったり「新機軸」を指す言葉だ(Webなどで調べて検索してみてほしい)。そういう意味では、Yosemiteは、まさにイノベーティブなOSだとも言えるかもしれない。

 Yosemiteはいわば2つ遺伝子を受け継いでいる。「OS X」側がこれまでのパソコンの世界や定評のあるMacの使い心地を与える一方で、「iOS」というもう1つの親は、見た目の新しさとともに、新しい利用スタイルへの自然な誘導を行なってくれる。

 iOS由来のフラットデザインが、2013年からすでにiOS 7を利用している人に親しみやすさを与える役割もあり、Macに新規ユーザーを呼び込むビジネス上のかなめにもなっている。

 iOSのフラットデザインに、どういう意味が込められているかは以前にもかなり長い記事を書いたので、ここで繰り返すつもりはない(後編の3ページ目から解説が書かれているので、気になる人は、その3ページ目を読んでもらえればと思う。「WWDC 2013所感(後編):新しいアップルと、デザインが持つ本当の意味 )。

 だが、かいつまんで言うと、IT機器で「ウィンドウ」という表現を使っている限りは、自分が作業していた書類がどこにいったか分からなくなってしまう人、誤操作で元の状態に戻せなくなってしまう人がいる、という30年前から続く問題がある。自分はそんなことはない、という若い人たちも、将来、認知能力の低下によって、そうなる可能性はある。

 そして、この問題を、何か新しい(暗記しなければならない)機能を増やして解決するのではなく、自然に解消するのには、ウィンドウの動きや上下関係などをできるだけ可視化し、分かりやすくすることだ、というのがここ数年アップルが目指してきたことだ。

WWDC 2014で流れたデモビデオ。Finderのツールバーも半透明化され、ファイルを探してスクロールしてる際もどちら側にサムネイルが動いているのか一目で分かる

 アップルはメニューバーは元より、新たにFinderのサイドバー(よく使う項目が表示される)やメッセージの相手一覧、リマインダーの「リスト」一覧などの表示切り替え用の要素(※1)に透過性を持たせ、その下にあるのが別のウィンドウなのか、それとも「デスクトップピクチャ(壁紙)」なのかを把握できるようにしている。

 また、公式動画を見た限りでは、Finderのウィンドウではスクロール時にアイコンがどの方向に動いていったか分かりやすくするようにツールバーにも半透明の要素が持たされるようだ。

 ところで、こうやって画面の上を半透明のものが行き来して、向こう側が透けて見える世界では、行き交うウィンドウはかなり薄いものでなければならないし、その上に表示されるアイコンもやたらと陰影がある3D感があるものだと、それらが軽々と重なり合うというだけでも違和感が生じてくる。

 そこでiOS 7でもアイコンが陰影がなく、より抽象度が増したフラットな形のものに刷新されたが、同様にYosemiteのアイコンもフラットなものに作り直された。

 また、iOS 7では画面の外の物理的な世界と、画面の上だけの架空なフラットな世界とのコントラストを出すためか、色調をリアルを追求しくすみがあったそれまでのアイコンの色調から鮮烈なRGBカラースペースの色を使ったものに変更してきたが、Yosemiteでも、同様の色調の変化が見られる。

iOS 7のフラットなルック&フィールに近づいた

 iOS 7では、それに加えて「これでもか」というくらいにアイコンに「円」の要素を取り入れていた。Yosemiteでも連絡先アイコンに表示される人の写真が円形になるなど円の要素を取り入れている部分があるが、iOS 7ほどまでにそこにこだわっている感はない。

 それ以上に興味深いのは、せっかくContinuityというiOSとの連続性の機能を搭載したにも関わらず、基本的にContinuityに対応したどのアプリケーションのアイコンもわざわざiOS 8とOS X Yosemiteでは違う形にしていることだ。

 おそらく、同じアイコンにすると、まったく同じ機能と操作性が期待されてしまうからあえて変えているのだろう。デザイン要素的に関連のある同じアプリケーションだということさえ伝われば、むしろ、アイコンが異なったほうが都合がいいこともあるし、そもそもiPhoneとiPad両対応アプリのものの中には、画面上は同じアイコンだが、起動したデバイスによって操作方法や使える機能まで変わってくるものもある。この辺りの統一ルール造りは、この先のOSの課題かもしれない。

 ただ、こうしたアイコンの見直しは、1997年以来、Mac OSの顔であり続けた「Happy Mac」(ドック上に「Finder」用のアイコンとして表示される)の外観にまでついに変化を及ぼした。面影は残すものの、これまで聖域として(実は光沢などがついているが)ほとんど形は変わらずにいたこのマークが、ついにモダナイズされたことにも、このOSがどれくらい全面的に手直しをしようとしているかの意気込み見える。

 一方で、Yosemiteのもう1つの由来であるMavericksについては、実は新たにContinuity関連など、大幅に機能が追加されているにもかかわらず、標準装備されているアプリケーションをむやみに増やしたりすることはなく、電話やSMSの機能などにしてもFaceTimeやメッセージといったアプリケーションに自然な延長として組み込み、違和感なく使い始められるように工夫している。

 一見して「そりゃ当然こうでしょう」と思えるような機能設計こそ、実際にやろうとすると大変なものだ。これまでのOS Xの系譜とiOSの系譜の延長線が交わる交差点に、パソコンの新しいライフスタイルを提案するOS X Yosemiteを作り出すということは、まるで2つの川が1つに合わさって大きな流れを作り出すようで、なるべくしてなった自然なことだと思うかもしれない。

 しかし、その自然を人の手で作り出すとなると、その裏には膨大なディスカッションや、開発や、切り捨てがあったことだろう。これは実際に手を動かして、モノをつくった経験がある人にしか分からない苦労なのかもしれないが。

※情報表示の切り替え時のクリック先として表示しておく必要はあるが、そこに表示されている文字情報を読み込むことはあまりない要素

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