ココが「○」 |
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・縦も横も広く使える正方形パネル |
・IPS方式+10ビットLUTの表示品質 |
・疲れ目抑制/省エネの工夫が満載 |
ココが「×」 |
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・特殊な液晶パネルなので割高 |
・縦長画面は設置に工夫が必要 |
・機能面は同社他モデルに1歩譲る |
PC向け4Kディスプレイの台頭が目立つ中、まったく違う方向性で発売前から話題を集めてきたディスプレイがある。それが、2015年1月30日にEIZOから発売された26.5型液晶ディスプレイ「FlexScan EV2730Q」だ。
汎用(はんよう)の液晶ディスプレイ単体製品では、おそらく世界で初めてアスペクト比1:1の“正方形”液晶パネルを採用したところ、これがメーカーも予想した以上の反響を呼び、「こんなディスプレイを待っていた」という声が各所から挙がっている。
現在主流のフルHD(1920×1080ピクセル)液晶ディスプレイは、アスペクト比が16:9と横に長い。一度くらいは、もう少し縦方向の表示領域が欲しいと思ったことはないだろうか。特にPC歴が長いユーザーは、かつて5:4や4:3のスクエア画面からワイド画面のディスプレイに移行した際、「ワイド画面は横解像度に対して縦解像度が狭すぎる」と感じたに違いない。
縦解像度が少し足りないくらいならば、WUXGA(1920×1200ピクセル)やWQHD(2560×1440ピクセル)へ移行する手もあるが、横に対して縦の表示領域が狭いことには変わらない。かといって、90度画面を回転させて縦位置表示にすると、今度は横の解像度が極端に狭くなり、常用に堪えないはずだ。奮発してマルチディスプレイ環境にすれば解決できることも多いが、画面間に挟まるフレームの継ぎ目はやはり邪魔だろう。
そうした画面アスペクト比に起因する苦悩を解消してくれると期待されているのが、正方形ディスプレイであるFlexScan EV2730Qなのだ。型番末尾の「Q」は「Quadrate(正方形)」を意味する。
さて、その正方形液晶パネルだが、画面サイズは26.5型(可視域対角67.2センチ)、表示面積は475.7(横)×475.7(縦)ミリだ。26.5型と聞くと大画面を想像されるだろうが、それはワイド画面の横幅をイメージするからであり、正方形画面を採用したFlexScan EV2730Qの横幅は、21.5型フルHD液晶ディスプレイとほぼ同じ長さとなる。
本体サイズは497(幅)×245(奥行き)×512.5〜613.5(奥行き)ミリ、重量は7.1キロだ。横幅は21.5型フルHD液晶ディスプレイと同程度なので、画面サイズの割に狭いスペースにも設置しやすいが、パネル部分の寸法は497(幅)×501.5(高さ)ミリと通常より縦が長いため、眼前に据えるとなかなか迫力がある。ワイド画面を見慣れているせいか、正方形ではなく縦に長く感じる方も少なくないだろう。
表示解像度は1920×1920ピクセルと、これまた聞いたことがない数値だ。現在主流のフルHD(1920×1080ピクセル)に比べて、横方向の解像度が同じで、縦方向の解像度が840ピクセル(約78%)も高い。21.5型のフルHD液晶パネルをそのまま縦に正方形になるまで引き伸ばしたイメージと言えば、分かりやすいだろうか。
画素密度は約102ppi(pixels per inch:1インチあたりのピクセル数)で、一般的なディスプレイと遜色ない。表示の細かさとしては、現在主流の23型フルHD液晶ディスプレイ(約96ppi)より少し細かく、21.5型フルHD液晶ディスプレイ(約102ppi)とほぼ同等となる。つまり、画素密度が高い4Kディスプレイのようにスケーリング設定で表示の拡大率を調整することなく、100%の等倍表示で実解像度を自然に利用可能だ。
この正方形+高解像度表示は、縦長の文書や地図などの情報が収まりやすく、縦に長いWebページも頻繁なスクロール操作なしで広々と閲覧できる。EIZOとしては、情報が縦横の広範囲に及ぶCADやDTP、デザイン、アプリ開発などの用途において、情報の一覧性が高く、作業効率や作業品質の向上が期待できるとしている。縦位置と横位置が混在した写真データの整理や編集、Webサイトやブログの制作などにも便利だろう。
こうした活用例は、EIZOの製品情報ページにも多数掲載されているので、併せてチェックしていただきたい。
一方、映像コンテンツの視聴用途を重視するならば、FlexScan EV2730Qは向いていない。フルHD動画やゲーム映像を全画面表示すると、上下に大きな黒帯ができるため、見え方は21.5型フルHD液晶ディスプレイと変わらなくなる。より安価で大画面のワイド液晶ディスプレイのほうが満足度が高いだろう。
しかし、フルHD動画やゲーム映像の表示を画面上部に固定しつつ、画面下部の空いたスペースで別の作業やチャット、攻略情報のチェックなどを行うといった“ながら視聴”のシーンでは、これまた正方形+高解像度表示が生きてくる。やはりFlexScan EV2730Qは、さまざまな用途で“作業効率を高めるためのディスプレイ”だ。
実際にしばらく使ってみると、個人的には1:1というアスペクト比に思ったほど違和感がなかった。サブディスプレイとして半ば常用している17型のSXGA(5:4/1280×1024ピクセル)ディスプレイのせいだろう。そのぶん、画面サイズと解像度の違いには愕然(がくぜん)としたが、小一時間の使用であっさりと慣れてしまった。いろいろと作業を行ってみたが、視認性は快適の一言に尽きる。
大画面で変わった解像度ゆえ、最初はウィンドウをどのように並べればいいのか悩むかもしれないが、一度自分で使いやすい配置を見つけてしまえば、1920×1920ピクセルの解像度によって作業効率を大きく高められる。
ウィンドウをすき間なく並べるのに便利な画面分割ソフトウェア「EIZO ScreenSlicer」(Windows Vista〜8.1に対応)が用意されているので、これを利用することで、いちいちウィンドウを並べる煩雑さから解消され、その実力を存分に堪能できるだろう。
以下は、表示領域の参照用として、EIZOの24.1型ワイド液晶ディスプレイ「FlexScan EV2436W-Z」と並べてみた様子だ。FlexScan EV2436W-ZはフルHDより縦解像度が高い1920×1200ピクセル(16:10)のIPSパネルを搭載しているが、通常の横位置表示でも、画面を90度回転させた縦位置表示でも、FlexScan EV2730Qのほうが一度に多くの情報量を映し出せている点に注目していただきたい。
視野角についても、液晶パネルがIPS方式なので上下/左右で各178度を確保しており、少し斜めから画面を見ても色度やコントラストが崩れることなく、しっかりと表示が確認できる。パネル表面はノングレア仕上げなので、照明やユーザーの姿が映り込んで困るようなこともない。
その他の仕様も輝度は300カンデラ/平方メートル、コントラスト比は1000:1、応答速度(中間階調域)は5ms、表示色は約1677万色(8ビット対応/10ビットLUT)と手堅い仕様で不満はない。輝度の調整幅も広く、OSDメニューでの最小値1にまで絞ると3カンデラ/平方メートル程度(実測値)まで下げることができた。
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