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» 2015年06月10日 11時36分 公開

WWDC 2015で訴えた人間尊重と文化創造:Appleの新しい方向性――4つの発表と3つのトレンドを林信行が読み解く (3/5)

[林信行,ITmedia]

NewsとApple Pay/Walletで新しいライフスタイルを広める「iOS 9」

 iOS最新版、iOS 9の進化も、まず大事にしたのは下地の見直しだった。具体的な数字にはならなかったが、より滑らかできびきびした動作を実現し、バッテリー動作時間も向上させた。特に、新たに追加されたローバッテリーモードによって充電が必要な状態になってから、さらに1時間ほどバッテリーが持つようになるようだ。

 こうした基礎固めをしっかりしたうえで、iOSでは標準搭載のアプリがさらに進化している。

現行のiOSはリリース後約9カ月で83%のユーザーが旧iOSから移行している。Androidとは対照的だ。

 新たに追加された「News」は、アップル自身が手がけた最新ニュースを楽しむアプリだが、これがすごい。記事と美しい写真との連動が非常によく考えられているのだ(実際に基調講演の動画などで動きを確かめてみてほしい)。

 日本でもニュースアグリゲーションと呼ばれる、さまざまなニュース媒体のまとめ読みアプリが人気だが、数枚の写真と文字情報が中心だ。どのニュース記事も、ただの写真と文字を流し込んだだけの「情報」の塊に過ぎず「情報を得た」という感覚はあっても、「記事を楽しんだ」という感覚は消えてしまっている。

「ニュース」アプリを、まずは米国、英国、オーストラリアで提供する

 実はこれはデジタルの時代になってから、日本のメディア企業が最も失ってしまった感覚でならないような気がしている。日本のメディア企業は、インターネットやiPadの到来を「効率向上」というコンテクストのみでとらえていて、「豊かな表現の追求」ということをほとんど議論してこなかった(私が2010年に新聞協会や多くの雑誌社を回って講演をしてきたときには、紙の時代の職人こそが「デジタル化で大事な技」を知っているから、そこにしっかりと聞き込みをして豊かな出版文化をデジタルの時代に継承して欲しい、と懇願してきたが、この声はあまり通じていなかったようで寂しい)。

 「News」は、まさにこの「デジタルの上での豊かな表現」を追求している。実際に出て数年間使ってみないことには成功して定着するかは分からないが、それでも「豊かな表現」を重視し挑戦する姿勢は評価したい。これをやらないと、どのメディアも安易に作られたブログやまとめサイト、掲示板での軽口の応酬との差異がなくなってきてしまう。

 OS Xでも、大きく進化した「メモ」アプリは、iOS上でも大きく進化した。写真の追加やチェックリスト機能、スケッチ機能などは多くの人にとって今すぐ欲しくてたまらない機能だろう。

 また日本でどうなるかが気になるところだが、マップで車と徒歩のルートに加え、電車の乗り換え情報など公共交通機関を使ったルートも検索対象になるのもうれしい(そして当然の)進化だ。

メモアプリが進化し、ToDoリストを作成してiPadやMacでも共有可能になった

 しかし、日本人として何と言ってもショックなのは、Apple PayとPassbookだろう。Passbookはついに進化して「Wallet(おサイフ)」と名前を変え、日々の使い勝手で、日本の「おサイフケータイ」を追い抜き始めた。日本で生み出され、世界を征することもできたはずのおサイフケータイの文化は、これで日本だけのドメスティック技術として終わることが決定づけられた感がある。

 アップルがApple Pay対応の2カ国目として選んだのは英国で、世界中の人々が知っているあの有名な公共交通機関、ロンドンのバスがApple Payで乗車可能になり、「Wallet」と呼ばれるようになった新しいアプリは、我々のサイフを膨らましている大量のポイントカードやショップ提携のクレジットカードを集約してくれるように進化する。これこそまさに多くの人が望んでいたデジタルのおサイフではないだろうか。

アップルの独自決済サービス「Apple Pay」

7月から英国でも展開し、ロンドンのバスがApple Payで乗車可能になる

 2020年に向けて、海外からの訪問者を増やすインバウンド政策に力を入れる日本政府は、そのときまでにさらに進むであろう「デジタルのおサイフ」について、どちらを向いたらいいのか。

 ただ、東京駅の混雑する改札で人を処理する能力が、日本のFeliCa技術(おサイフケータイの技術)に本当に分があるのだとしたら、関連会社は本気で政府も巻き込んでiPhoneへのNFC/FeliCa両対応チップ搭載に向けてアップルと交渉をしてほしいところだ。Apple Payのここまでの成功でアップルは自信をつけつつあり、もはや交渉できる最後のタイミングは過ぎ去りつつある。

 米国ではすでに多くの銀行やクレジットカードがApple Payに対応し、対応店舗もものすごい勢いで増えている。そこに拍車をかけるのが、980円のクレジットカードリーダーでおなじみのSquareによるApple Pay支払いターミナルで、これが発売されれば対応店舗は一気に広がるだろう。

 ここまでの内容でも、iOS 9がどれほど戦略的なOSかを感じ取れてもらったかと思うが、実はここまでは序章で、iOS 9で最も大きな恩恵を受けるのは実はiPadユーザーだ。

 iPadでは、3通りの方法で複数のアプリを同時に利用する機能が加えられた。

 1つ目はSlide Overといって、いま使っているアプリの横にiPhone画面の横幅サイズで他のアプリを表示させる機能だ。2つ目は、実はOS X El Capitanにも搭載されている画面を分割して2つのアプリを同時に使うSplit View機能、そして3つ目は動画配信アプリの映像を小画面化して画面上の好きな位置においたまま他の作業ができるPicture in Picture機能だ。

画面を分割してほかのアプリ画面を表示するSlide Over

 複数アプリの切り替えで、よりテキストのコピー&ペーストなどが増えることを想定して画面上のキーボードも進化した。2本指をおいてすべらせると、これまでよりずっと簡単に文字を選択できるようになるのだ。

テキストのコピー&ペーストがより簡単になる

 このように大きな戦略的な機能から、細部の使い心地まで大きく進化するiOS 9だが、最もすごい進化は冒頭で紹介したインテリジェンスを持ったSiriと、そのSiriの先に見え始めたホーム連携ではないかと思っている。

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