あの名編集者が残していった「キャプテンフルキーパッドB」さすが“キーボードマニアックス”と呼ばれた女

» 2015年07月17日 18時30分 公開
[長浜和也ITmedia]

まさかこんなものまで所蔵していたとは

 先日、ある同僚が新天地に旅立って行きました。名前を出せば、業界関係者の誰もが「ええっ、ITmediaやめたの! びっくり」となる有名編集者です。

 その編集者は、たいそうマニアックな嗜好の持ち主で、特にキーボードに対する興味と愛情と収集においては、秋葉原のベテランスタッフ達からも「キーボードといえばあの人! 」とご指名で仕事が来るほどに、高い評価を得ていました。

 その編集者から記念に譲ってもらったのが「キャプテンフルキーパッドB」です。さすが、キーボードといえばあの人! です。こんなものまで所蔵していたとは。何を隠そう、私も平成のはじめのころにNTTの関係会社に所属していたことがあるのですが、そんな私も初めて実物をみました。

キャプテンフルキーパッドB。いや、こんなものがあったんですねえ

 キャプテンは、NTT(開発と運用開始はその前身の日本電信電話公社。略して電電公社)が1984年から提供していた公衆データ利用サービスです。ディスプレイは家庭にあるアナログテレビで、そこにアダプタを取り付けて、アナログ電話回線を介して情報センターに接続してデータを利用することができました。利用できる情報サービスのメニューには、自治体のお知らせや列車の座席予約、ネットショッピングのほかにも、「オホーツクに消ゆ」「ポートピア連続殺人事件」といった名作アドベンチャーゲームの体験版もあったそうです。

 キャプテンフルキーパッドBは、その「キャプテン」端末を操作するリモコンデバイスの一種で、文字の入力がしやすいようにフルキーボードを備えています。キーボードは現代のノートPCで主流のアイソレーションタイプです。横方向は当然として、縦方向の配置も直線的にビシッと並んでいます。キーピッチは実測で横方向が15ミリ、縦方向が11.5ミリです。キートップのサイズは9.5(横)×6(縦)ミリ。キーストロークは実測で1ミリを確保しています。キーボードというより、電卓のキーですね、これは。

そのつくりは電卓のキーそのもの。NTTのロゴと「REMOTE CONTROLLER」の印刷に注意

 アルファベットとカナを入力できるキーを4段に並べ、その上にファンクションキーを、最下段には英数とカナ、小文字と記号の切り替えキーを並べています。右側にはテンキーまで備えています。ノートPCでも標準的な6段配列ですね。アルファベットは一般的な“QWERTY”配列です。

 ただし、最上段のファンクションキーもF1、F2、F3……ではなく、」「切り替え」「了解」「再送」などなど、“電話”のファンクションを並べています。ああ、そういえばスペースキーはアルファベットが並ぶキーの右下にあったり、PCのキーボードなら数字が並ぶ2段目も、;、:なども含めた記号キーを配置しています。テンキーも、上から1、2、3……と並ぶ、こちらも“電話”レイアウトです。ああ! なんということでしょう。Enterキーがないじゃないですか。その代わりに「*」「#」キーがあります。なるほど、こりゃ電話だ。

 カナの配置も独特です。なんと、最上段と最下段以外のキーを5列+5列に分割し、5列のグループに左上からア行、カ行、サ行……と五十音を“規則正しく”配列しています(ラ行とワ行はテンキーに配置)。PCの超ベテランに多い「俺はカナキーじゃないと文章は打てねえんだよ」というユーザーに使わせたら絶叫しそうなカナキー配列ですが、キャプテンサービスが目指した「コンピュータを使ったことがない人でもキーボードで文字が打てるようにする」ためにはこうするしかなかったのでしょう。

QWERTY配列ではありますが、記号やテンキー、ファンクションにカナ配列など、基本“電話”で使う周辺機器に準じた入力デバイスです

ファンクションキーの説明には「ビデオテックス網」といった懐かしい用語も

 そういうわけで、PC USERのキーボードレビューとしては、ここでタイプした感触などを紹介しなければなりませんが、キャプテンフルキーパッドBは、キャプテンサービスでしか使えないキーボードで、キャプテン専用端末がないと使えません。キャプテンもインターネットの普及によって2002年に運用を終了しました。私にこのキーボードを譲ってくれたその編集者は、キャプテンフルキーパッドBを単体で所蔵していたのです。

「あなた、なんでこんなの持っていたの?」

 持っていた理由もさることながら、入手した経緯も分かりません。多くの謎を残したまま、その編集者はITmediaを去り、イスラエルへと旅立っていきました。

 無事、日本に生還することができたら、ぜひインタビューをして、もろもろの謎を解明したいと思う所存です。

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