しかし最近ではこうした白箱や茶箱を通り越して、海外パッケージに一切手を加えず、そのままネット通販で売るというスタイルがあちこちで見られるようになってきた。冒頭に書いたように、Webサイトではいかにも自社製品のように解説しておきながら、届いてみると英語パッケージ……というパターンだ。
こうした売り方は1990年代にも存在したが、当時との違いは、自社オリジナルの製品はきちんとパッケージを用意し、海外製品そのままのパッケージは通販限定といった具合に、販路を分けている点にある。メーカーのネット通販部門が、率先してこうした売り方を採用していることも多い。
海外パッケージそのままで売る手法が普及した背景には、ユーザーの嗜好(しこう)の細分化がある。製品のコモディティ化と嗜好の細分化により、ユーザーは他人が既に持っているモノよりも少し変わったモノを好む傾向が強くなり、少ない種類のアイテムだけを売るのは難しくなった。
そもそもサプライやアクセサリ市場は既に飽和状態にあり、1つのアイテムで年間10万個売れるような人気製品が新たに出現することは、今や考えにくい。もし海外でこうした製品が登場しても、各社が販売権を奪い合い、流通ルートを確保している大手メーカーが独占契約を結ぶのは目に見えており、小規模なメーカーにはほぼ勝ち目がない。
こうしたことから、10万個売れる製品を探すのではなく、最低100個は売れる製品を100種類売ってグロスで稼ぐ──という考え方になるわけだが、この場合、100種類それぞれにオリジナルのパッケージを用意するのは、どう考えても無理だ。
こうしたメーカーの多くはネット通販を主戦場にしており、店頭販売ルートと違ってパッケージを見て購入の是非を判断される機会もほぼない。こうしたことから、海外パッケージに自社のバーコードだけを貼り付け、そのまま売る手法が定着したわけだ。100個程度なら、SNSなどでバズらせて露出を図り、在庫を売り切ったらすぐ撤収というやり方も可能になる。
また中堅以上のメーカーでは、こうした売り方を製品開発や仕入れにフィードバックさせる動きも見られる。具体的には、メーカー直営の通販サイトでこうした海外アイテムをテスト販売し、市場性があると判断した製品だけを自社パッケージに変えたり、似たコンセプトの自社オリジナル製品を開発して店頭に流通させるというシステムである。
当たるか外れるか分からない製品をいきなり自社開発して大コケしたり、あるいはパッケージをコツコツ作ってすぐに終息するよりも、このほうがリスクは限りなく低くて済む。
言い方を換えれば、ネット通販などでユニークなアイテムをいち早く手に入れたい先進的なユーザーを使ってテストマーケティングを行っているわけで、メーカーとしては売り上げも稼げてマーケティングにも役立ち、なおかつ社内の限られた人数で試すだけでは分からない品質チェックも行えるので、一石二鳥どころか三鳥と言える。
要するに、ユーザーは人柱となっているのだが、彼らは彼らで「まだ知られていないレアアイテム」をいち早く試せることで満足できたりすることから、お互いにメリットがあるというわけだ(もちろん、製品が不良品などではないことが前提だが)。
海外パッケージのまま販売されるケースが増えてきた理由をここまで見てきたが、そもそもユーザー自身が海外パッケージそのままでの販売に慣れてしまったという事情も見逃せない。
かつては海外パッケージのまま流通させようものなら、「そちらの会社の製品を注文したのに、違うメーカーの製品が届いた」などといった苦情ならびに返品要求が客から、ひどいときには販売店からも寄せられていたものだ。
しかし現在ではそれらが鳴りを潜め、せいぜいユーザーレビューで「パッケージは英語でした」と情報共有される程度で済んでしまう。ユーザー側に、日本語でないパッケージの免疫ができてしまったというわけだ。
その一方で、iPhoneに代表されるスマートフォンでは、パッケージの高級化が近年著しい。国内メーカーでもおそろしく凝った豪華なパッケージを用意していることもあり、そのパッケージに対する取り組みの姿勢は、ここまで見てきた例とは異質に感じられる。
なぜこれらの製品は、サプライやアクセサリから見ると桁違いのコストをかけて、豪華なパッケージを作ることに心血を注ぐのか。これについては、次回あらためて見ていくことにしたい。
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