「これまでなかった新発想の製品」をライバルメーカーはなぜ軽視するのか?牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)

» 2016年06月26日 06時00分 公開
[牧ノブユキITmedia]
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大手メーカーが「これまでなかった新発想」を製品化しない3つの理由

 では、その「問題」とは具体的に何だろうか。詳しく見ていくと、この問題は大きく3つに分けられる。

 最も多いのは採算の問題だ。大手のメーカーでは、製品1つごとに年間で生み出せる売上と利益の最低ラインが設定されており、それを下回ると廃盤にするといったルールが設けられている。

 新製品についても、1台あたりの利益と販売予測数からこのラインを達成できないと見込まれる場合、そんな新製品をしゃかりきになって市場に投入するよりは、「もっと安定的に売れる製品を企画しろ」といった具合に、企画会議や開発会議で製品化にストップがかかる。

 最近は単体で爆発的に売れる製品が減ったため、売上と利益の最低ラインはかなり引き下げられ、小ロットであっても製品化されるケースはかつてに比べて増加しているが、多かれ少なかれどの会社も同じように判断をしている。そして、大手メーカーであればあるほど、このハードルは高いのが一般的だ。

 ところが小規模なメーカーはこうしたハードルは極めて低いため、大手メーカーではボツになる企画まで製品化にこぎつけてしまう。結果的に、これまで見たことがない製品が市場にデビューし、マスコミやメディアも面白がって騒ぐわけだが、大手メーカーからすれば採算が取れないと判断してボツにしたこれらの製品は、興味の対象にもならないというわけだ。

 もう1つ、急いで発売する理由に乏しいというのもある。もともとPC周辺機器やアクセサリーの寿命は意外に短く、1〜2年単位で買い替えが発生することが多い(USB扇風機はその最たる例だ)。もし小規模メーカーが投入した新製品が予想に反して爆発的に売れ、新たにその製品の市場ができてしまえば、そこであらためて準備万端の状態で参入すればよい。慌てて発売しなくても、市場が出来上がってから参入すればよいのだ。

 その時点では大手量販店のPOSデータなどをもとに、販売実績がきちんと出ているので、正確な生産計画も立てやすい。さらに先行した小規模メーカーの製品を分析し、それらの欠点を解消した製品を投入すれば、小規模メーカーの製品に不満を持ったユーザーの1〜2年後の買い替えニーズを丸ごと横取りすることもできてしまう。

 大手メーカーから見ると、小規模メーカーが露払いとなって、新しい市場を作ってくれるのだ。大手メーカーにとってこんなありがたい話はない。

 さらにもう1つ、アイデアが出ていなから企画が中止になった中には、試作もしくは量産の過程で何らかの設計上の不具合が発覚し、やむなく製品化を取りやめたといったケースも多い。

 例えば思ったより性能が出ない、特定の環境で不具合が出やすいといった製品は、その後のサポートのコストなども考慮して製品化を中止することが多いが、小規模なメーカーはたとえこうした問題があっても、それが致命的なものでなければ、当面の売上ほしさにあっさり発売してしまうこともある。リスクがあるのは分かっていても、それまでの開発コストをな何とか回収したいがために、無理に発売にこぎつけてしまうのだ。

 案の定、その後トラブルが発生して多大なサポートコストを計上したり、最悪の場合は会社の存続につながる大問題に発展することもあるが、大手メーカーはこうしたケースが予測される場合は無理をせず、製品化を中止するケースがほとんどだ。

 一般的に、小規模なメーカーは品質がいまいちで、大手メーカーは品質がよいと言われるのは、サポートうんぬんの問題ではなく、実はこうした製品化の段階で決まっていることが多かったりする。

「これまでなかった新発想の製品」はそもそもあまり売れない?

workaround USB扇風機のように売り場が定着した製品ジャンルもあるが……

 ところで、これまでなかった新機軸の製品にライバルメーカーが見向きもしないのは、実はこうした製品はマスコミやメディアが飛び付いて報じる割に、あまり売れないことを経験則的に知っているから、という事情も大きい。

 実際、ネットニュースなどで大いに話題になったにもかかわらず、販売店の評判はいまいちで、月当たりの出荷合計が1000個にも満たないという製品はザラだ。1000個と言ってもピンと来ないかもしれないが、全国に販売店が500店舗あったとして、そこに在庫を3つずつ置けばそれだけで1500個なので、在庫分を含むにもかかわらず1000個というのはかなり致命的である。USB扇風機のように、1つの売り場として成立するまで育つのは、本当にまれなケースである。

 何より、華々しくマスコミやメディアに取り上げられたにもかかわらず、それだけしか売れなければ、今後どれだけPRに力を入れても、上り目はほんの少ししかないわけで、むしろその時点で失敗ということになる。

 販売店に出入りする営業マンからこうしたウワサを耳にした大手メーカーの中の人は「ああやっぱり製品化しなくてよかった」と胸をなでおろすわけだが、そうやって大手メーカーの間で嘲笑の対象となっていることは、当の小規模メーカーの人は知る由もない。

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