「18歳未満の立ち入りを禁ず」に緊張していた頃のこと

» 2016年12月28日 06時00分 公開
[上田啓太ITmedia]
オレの知ってるネットと違う

 現在、ネットの画像は一瞬でピャッと表示される。もはや何も感じないが、たまに昔を思い出すと「ピャッ」じゃないよという気分になる。あっさり表示されてんじゃないよ、ということだ。1999年当時、貧弱な回線で、80KBほどの画像がジリジリと表示されていたのは何だったのか。

 動画となるとなおさらで、いつのまにか、すこしの金を払えば2時間ほどの映像を高画質で再生できる状況になっている。あのころ、3分ほどの粗い動画を必死で見ていたのは何だったのか。ほんとうに隔世の感がある。

 ということで今回は、1999年頃のネットにおける「画像」と「動画」の話をしたい。

ライター:上田啓太

上田啓太

1984年生まれのブロガー。京都在住。15歳のときにネットに出会い、人生の半分以上をネットとともに過ごしてきた男。

個人ブログ:真顔日記 Twitter:@ueda_keita


とにかく肌色関係を見ようとしていた

 当時、画像を表示するには時間がかかった。小さなサムネイル画像を凝視して、それが見る価値のある画像なのか考える。動画の場合もそうで、数分の断片的なものでも、ダウンロードには時間がかかる。だから見る価値のある動画なのかを判断することに必死だった。本当に、回線が貧弱な時代だったのだ。

 なお、ここまで説明なしに「画像」とか「動画」とか言ってきたが、そろそろ言っておかなければいけない。内容はおもにエロである。北極の大地を生きる白クマの画像や、大空に飛びたつ大量のフラミンゴの動画を見ていたわけではない。おもに肌色関係。そこはすみません。以下、肌色がらみの話。

 これまでの連載で書いてきたように、私は15歳の時に自室のPCがネットにつながった。「自室のPC」であるところが重要だった。親の目が届かないからだ。PC自体は以前から家にあったが、それは居間に置かれていた。居間には家族がいる。それじゃあ意味がない。

 もっとも、親の目の前でも平気でアダルトサイトを閲覧できるメンタル・タフネスがあったなら、今頃はベンチャーを起こして資産も2兆くらいあったのかもしれないが、私のエロに対するスタンスは「こそこそ」だった。それはもう平凡である。

「入口の問い」に緊張していた

 ということで、「自室にPC」は「革命」と同義だった。私は早速エロを見ようとしたが、同時に「18歳以上」の文字列に緊張していた。アダルトサイトには「入口ページ」があり、「あなたは18歳以上ですか?」と問いかけられるのである。要するに「18歳未満は見るな」ということだ。まあ、そりゃそうである。正論だ。そして、「んなこといわれても見てえよ!」というのもまた、切なる願いだった。

 もし私が、「分かりました。18歳まで待ちましょう」と澄んだ瞳でいえる少年だったなら、今頃は悟りをひらいて弟子が2万人くらいいたのかもしれないが、私のスタンスは「絶対やばい、でも絶対見たい」だった。ほんとに平凡である。

 当時の私は、「18歳以上」の文字をクリックするかどうかで葛藤していた。とくに最初のうちは、すさまじい緊張感があった。果たして15歳の自分がこれを押しても大丈夫なのか。そんなことをすれば、非常にまずいことになるのではないか。

 「まずいこと」とは何か。端的にいえば、警察が来ると思っていた。まだネットの仕組みを何も知らないから、認識がとても雑だった。とにかく何だろうが、悪さをすれば即警察だった。初心者はコンピュータを極端に解釈するものだ。ブラクラを踏んで「PCが爆発する!」とおびえていたように、15歳の男が「18歳以上」をクリックすれば、即座に警察が来るのである。

 すなわち、PCに内蔵された何らかの機能によって自分の実年齢が解析され、すぐさま警察に通報がいき、数時間後には自宅前にパトカーが停まり、逮捕状を突きつけられ、手錠をかけられ、上着をかぶせられ、親が泣き、友人が驚き、教師が怒り、マスコミが集まり、ワイドショーがさわぎ、総理大臣がコメントを述べる(「この少年は日本国民の恥である」みたいなことをいわれる)。

 もちろん、そんなことは起きない(大人たちはそんなにひまじゃない)。しかし最初のうちは、それだけの覚悟が必要だと思っていた。年齢を偽るストレスは非常に高かった。まあ、「そんなにストレスなら我慢しろよ……」と今は思いますが。

 そして何度か恐る恐る「18歳以上」を押しているうちに、「あれ、大丈夫じゃん」と学習してしまい、その後はススーッと見るようになっていた。そしてそのうち実際に18歳をこえた。

正直者はヤフーに飛ばされる

 ちなみに、入口の質問で正直に「18歳未満」をクリックした場合、ヤフーに飛ばされることが多かった。これはいま思い出すと笑ってしまう。よい子はヤフーに帰れということか。アダルトサイトに門前払いされた少年たちが、スゴスゴと帰っていく場としてのヤフー。さすがは検索エンジン最大手。

 古い童話では、正直者は金の斧と銀の斧をもらえるが、この場合、正直者はヤフーに飛ばされるだけだ。何一つ得るものはない。やはり、童話と現実はちがうということか。

オレの知ってるネットと違う

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