2016年10月に発表されたTouch Bar採用の新型「MacBook Pro」には、iPhoneでおなじみの指紋認証機能「Touch ID」が搭載された。
これにより、指をTouch Barの右端にあるTouch IDに置くだけで、Macのロック解除を瞬時に行えるようになっただけでなく、App StoreやiTunes Storeでのアプリおよび楽曲の購入、Safari経由でのオンラインショッピングにApple Payの仕組みが使えるようになった。
このMacBook ProにはiPhoneなどと同様に「Secure Enclave」と呼ばれるセキュリティ性に優れた専用ストレージが搭載され(セキュアエレメントとも呼ばれる)、内蔵のインカメラにクレジットカードをかざすことで内部にカード情報が格納でき、これをApple Payとして決済に利用できるわけだ。
まだまだ対応サービスはこれからといったところだが、今後「オンラインでのカード情報を直接相手に渡さずにデジタルウォレット(Digital Wallet)を使って支払いする仕組み」は、決済業界における目玉の1つであり、関係者の間で注目を集めている。
MacBook Proの場合、Apple Payを利用するシーンはApp StoreとiTunes Storeを除けば、主にWebブラウザのSafariが中心となる。
現在、Webブラウザ経由での決済を簡易化すべく、W3Cでインタフェースの標準化が進んでいるほか、このW3C標準への拡張という形で指紋認証などの「バイオメトリクス認証」を組み込む取り組みがFIDO AllianceならびにEMVCoの間で進んでいる。
このインタフェースはデスクトップPCだけでなく、スマートフォンなどでのWebアクセスやモバイルアプリでも活用できるもので、現在はアプリやプラットフォームごとにまちまちという状態の決済の仕組みが、今後はよりシンプルとなり、各サービス事業者での実装がより進むことが期待される。
一方、Windowsではどのように対応を進めているのだろうか。
Microsoftは現在「Microsoft Wallet」という自社のデジタルウォレットサービスを使ってWebブラウザやアプリストアでの決済が容易になる仕組みを実装すべく、開発を進めている。2017年春にも一般提供が開始されるWindows 10の次期大型アップデート「Creators Update」に実装される見込みだ。
これに先立ち、フランスのカンヌで2016年11月末に開催されたICカードやセキュリティ技術に関する展示会「Trustech 2016」(前年まではCartesの名称で開催)において、米MicrosoftのWindows Core OS Payments & NFC担当の主席ソフトウェアエンジニアリングリードのアレックス・マカルビー氏がその概要について説明している。
同氏は2015年11月開催の「Cartes 2016」において、Microsoft Walletの正式発表前にMicrosoftのモバイル決済戦略について説明しており、今回はPC向けWindows 10における最新動向の解説となる。
オンラインショッピングは便利な反面、買い物先のサイトに登録したカード情報が漏えいもしくは悪用されてしまう危険性があるほか、複数のサイトにアカウントを持つことでIDやパスワードの管理が煩雑となり、「毎回パスワードを忘れてしまう」や「面倒なので複数のサイトで同じIDとパスワードを利用していたらハッキングされてしまった」といったトラブルが後を絶たない。
特に利用頻度が低い中小サイトほど信頼性が低いとみられ、ユーザーが利用をためらう傾向があるというのは、複数の調査報告に記されている。そのため、ユーザーはPayPalのような決済代行サービスを利用したり、「ID決済」と呼ばれる大手サイトの認証アカウントを使って決済を行ったりと、なるべく情報を先方にさらさず、かつ簡単に支払える手段を選択することも少なくない。
Windows 10の新機能もこうした仕組みの一種だ。Microsoft Walletというデジタルウォレットにあらかじめ「カード情報」や「出荷先住所」を登録しておけば、後は毎回オンラインショッピングの決済時に「認証」を行うだけで支払いが済ませられるようになる。
この認証には「PIN」または「Windows Hello」が利用できる。つまり、決済を求められたタイミングで4桁以上の数字の入力、またはWindows Helloに準拠した生体認証を行うことにより支払いが完了するというわけだ。サイト管理者はMicrosoft Walletによる決済を受け入れるための仕組みを実装することで、簡易で安全な決済の仕組みを導入できる。
AppleやGoogleなど競合他社も似たような仕組みを用意しているが、PayPal傘下のBraintreeや、Stripeのような事業者も決済機能をアプリやWebサイトへシンプルに導入できるサービスを提供する。今後はこうした事業者を介して、大手事業者だけでなく中小さまざまなサイトでも、決済機能の導入によるマネタイズが進んでいくだろう。
このPINやWindows Helloを組み合わせた決済の仕組みは、Windows 10で提供される「WinRT Payments API」を利用している。このAPIがクラウド上のMicrosoft Walletの情報へとアクセスし、決済に必要なカード情報や出荷先住所などの情報の仲介を行う。
これがWindows 10世代のUWP(Universal Windows Platform)アプリであればWinRT Payments APIに直接アクセスできるため問題ないが、Webサイトの場合はEdgeブラウザに搭載されるインタフェースを介することが必要だ。
この仕組みは前述のW3Cで現在策定中の標準にのっとる形となるが、EdgeでのPayment Request APIのサポートはCreators Updateとともに提供されるEdgeHTML 15で標準実装される見込みだ。2016年12月30日現在で最新のWindows 10 Insider Previewビルドである「Build 14986」に組み込まれている。
Webサービスの開発者は、この最新版Insider Previewビルドを使ってWebブラウザ経由でのショッピング機能をテストすることが可能だ。
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