Arm版Windowsがパワフルに動く「Snapdragon 8cx」で「Windows on Snapdragon」は離陸するか:鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(2/3 ページ)

» 2018年12月21日 15時00分 公開

 もう1つ興味深いのは、製造プロセスの優位性でIntelプロセッサとの比較を強調していた点だ。Snapdragon 835で10nmの製造プロセスを採用し、今回のSnapdragon 855では7nmの世代に突入した。同社がライバルと想定するIntelは長らく10nmの状態で足踏みし、いまだメインストリーム製品の14nmから10nmへの移行が完了していない。両社製品の製造プロセスを単純に数字だけで比較するのもナンセンスだが、明確にライバルをIntelと定めた点は面白い。

 製品レンジも従来のYプロセッサからUプロセッサへと拡大し、NVMe SSD対応によるストレージへの高速アクセス、4K HDRディスプレイの2画面同時表示への対応など、パフォーマンス面でIntel製CPU搭載PCと遜色ないレベルにあることを強調している。少なくとも、製品レンジを拡大したことで、より多くのユーザーを取り込める素地ができたと言える。

Snapdragon 製品世代ごとにおける製造プロセスルールの推移。中央にあるノートPC型のシルエットがPCにおけるプロセスルールの変革で、長らく大きなステップアップがない点を強調する
Snapdragon 8cxでは、メインメモリやストレージへのアクセス帯域拡大による高速処理をうたう
Snapdragon 8cxでサポートするインタフェースの数々。Quick Charge 4+対応も、スマートフォン用アクセサリを持っているユーザーには機器共有が可能で便利だろう
Snapdragon 4K HDRディスプレイ2画面同時表示のデモ

アプリケーション対応とMicrosoftの決断

 Windows on Snapdragonが普及するための課題はいくつかある。その1つが前述したパフォーマンス、そして「アプリケーション」の問題だ。Microsoft StoreでのARM64対応が11月にスタートしたことはすでに報告済みだが、8cxの発表に際してはこの点が改めて強調されている。

 問題の1つは「Webブラウザ」で、事実上現在のWindows on Snapdragonにおける選択肢はデフォルトブラウザの「Edge」しかない。Webブラウザシェア調査では本連載でも何度も登場しているNet Market ShareとStatCounterの両サービスの2018年11月時点での最新データを比較してみると、どちらもGoogleのChromeが圧倒的で、Internet Explorer+EdgeのMicrosoft勢は全体の10〜15%のシェアに過ぎない。

 ARM64登場以前は、ARM32またはx86アプリケーションのエミュレーション動作のみの対応となっているため、本来のパフォーマンスを生かせない。今回Tech Summitで参考展示されていたSnapdragon 8cx搭載PCのリファレンスモデルでは、8GBのメモリを積んでいたが、少なくとも32bit環境では今後登場するハイパフォーマンスPCでの要求を満たせない。また、企業向けアプリケーションやWebサービスをWebブラウザで利用する中で、ブラウザの互換性問題という問題もつきまとう。

 日本国内ではまだまだInternet Explorerの利用を推奨するサービスも存在するが、Edgeでの動作を保証しないWebサービスは世界的にみても少なからずあり、筆者もChromeなど複数のWebブラウザを導入することで対応している。これがWindows on Snapdragonの直接的な普及阻害要因になっているとは思わないが、大きな要素の1つであることは間違いない。

Snapdragon 2018年11月時点でのデスクトップにおけるWebブラウザのシェア(出典:Net Market Share)
Snapdragon 2018年11月時点でのデスクトップにおけるWebブラウザのシェア(出典:StatCounter)

 この状況で、2つほど新しいニュースが発表されている。1つはARM64版Firefoxの投入で、少なくとも第3勢力にあたるWebブラウザの登場は既存ユーザーにとっては朗報だろう。

 もう1つがChromiumへの対応だ。Edgeはレンダリングエンジンとして「EdgeHTML」を採用しているが、Web標準の取り込みのほか、拡張機能であるExtensionsへの対応など、まだ他の競合ブラウザに対してキャッチアップの段階にある。PC USERでも報じているが、米MicrosoftコーポレートバイスプレジデントでWindows担当のジョー・ベルフィオール(Joe Belfiore)氏は同社がChromiumプロジェクトに参加し、EdgeをChromiumベースのものにするとBlog投稿の中で表明した。Chromeそのものではなく、あくまでChromiumの取り込みによるレンダリングエンジンの移行という位置付けだが、今後Webサイト側でUser Agentのみから判断してEdgeによるアクセスを弾かないのであれば、実質的にChromeと同等のアクセス環境をARM64上で再現できる。

Snapdragon ARM64環境でのEdge以外のネイティブブラウザ対応に言及
Snapdragon まずはFirefoxのARM64対応から
Snapdragon 8cxのリファレンスマシンを使い、ARM64版FirefoxでITmediaのサイトを表示させたところ

 Internet ExplorerのTrident時代から続いてきたMicrosoftのレンダリングエンジン開発はここで終息することになり、今後はGoogleが採用するBlink、MozillaのGecko、そしてAppleらが使うWebKitの3種類に集約される。BlinkがWebKitのフォークであることを考えれば、実質独自路線を貫いているのはMozillaのみであり、互換性問題の解決が期待できる反面、開発が特定ベンダーの意向に左右される危険性も指摘される。

 実際、Blinkの出現はWebKitコミュニティーへのAppleの多大な干渉を嫌った結果だともいわれている。Microsoftが単にChromiumを採用するだけでなく、コミュニティーへの参加をうたったのも、Googleへのけん制があるのではないかと推測する。

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