正確にいえば、オフデバイスやノーデバイスの世界において、デバイスがなくなることはない。スマートフォンの時代だった2010年代においてPCが健在で、なお主要な作業道具であったように、2020年代においてもPCやスマートフォンは売れ続け、引き続き多くの人々に利用されていくだろう。
オフデバイス/ノーデバイスの世界において重要なのは、これまでデバイスや何らかの物理媒体を必要とした場面においても、「デバイスなし」あるいは「特定のデバイスに依存しない」でサービスを利用できる“選択肢”が与えられていると考えればいいかもしれない。そのように、当人は特定のデバイスを持たずともサービスを利用できる環境を回りが整備し、一般化していくのが2020年代のトレンドなのだと筆者は予想する。
環境整備の代表的な例が「バイオメトリクス認証」だ。一時期は指紋認証や手のひらの静脈認証などが中心だったが、最近では急速に顔認証の利用が増えている。PCやスマートフォンなどのパーソナルなデバイスにおいては、デバイスと人との距離が近いため、直接読み取り装置に触れることが可能な指紋認証のような仕組みの方が相性がいい。
一方で、例えばATMであったり、お店に設置された顔認証決済装置であったり、あるいは顔認証の仕組みを利用した駅の改札があったとした場合、装置と本人の距離間はさまざまだ。
近年の技術革新により、顔認証技術の精度も向上しているという背景もあるが、公共の場所に設置する「バイオメトリクス認証」の方式として顔認証が採用されるケースが増えているように思う。これは、従来まで「物理的なカード」や「スマートフォンのような決済情報が記録された装置」を必要としていたものが、顔情報などの“ID”をトリガーとして「ノーデバイス」を実現したものだ。
本人の同意さえあれば、こうした「生体情報」をトリガーにしたサービスは今後も広がっていくとみられる。例えば現在は入店にあたって(基本的に)スマートフォンが必須のAmazon Goだが、将来的にはデバイスなしでハンズフリーで入退店が可能になるかもしれない。顔などの本人を特定する情報と、クレジットカードなどの決済情報の保存されたAmazonアカウントを結びつければいいだけなので、技術的にはそれほど難しくない。
同様に、発想を飛躍させれば「顔認証でその場にあるPCを利用する」といった仕組みも実装可能だ。一種のシンクライアントだが、オフィスや公共スペースにPCを設置しておき、Windows Helloの顔認証をトリガーにして、クラウドから自身のデスクトップ環境を引き出してくる。2019年後半に一般提供が開始された「Windows Virtual Desktop(WVD)」という仕組みがあるが、サービスを利用するエンド側のデバイスにもう一工夫あれば、PC利用の自由度はさらに広がるのではないかと考えている。
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