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2020年代にMicrosoftとPCの世界はどう変化する?――オフデバイスやノーデバイスの世界Windowsフロントライン(3/3 ページ)

» 2020年01月20日 06時01分 公開
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デバイスが手元にあっても直接操作はしない

 ノーデバイス……というよりはオフデバイスという表現が正しいが、この世界で重要なポイントに「IDや環境の可搬性」が挙げられる。特定のデバイスに依存するしがらみがなくなり、好きなデバイスから自身のIDにつながるサービスを適時利用できる仕組みだ。

 以前、ホテルの対話式コンシェルジュサービスをショートメッセージの仕組みで提供する「Go Moment」という米国のスタートアップ企業を取材したことがあるが、なぜリッチなアプリではなく、テキストにこだわるのかを聞いたとき、同社は「テキストほど汎用性のあるものはない。どのプラットフォームにも統合できる」と述べていた。

 つまりユーザーが利用したいのはアプリではなく、その先のサービスと(素早い)レスポンスというわけだ。残念ながらブレイクする気配が全然見られないが、アプリケーションをメッセージングUIに落とし込もうというアイデアで実装が進む「RCS(Rich Communication Services)」も同様で、UIこそ対話式メッセージングだが、本人認証の手段としては「RCSを利用しているスマートフォン」が“ID”として活用されている。

 このようにUIを特定デバイスから切り離す試みがある一方、スマートフォンを認証用の“ID”として活用する仕組みもある。例えばシンガポールで取材した「Mastercard Cafe」のデモでは、“Pepper”を対話式UIとして活用し、本人認証はスマートフォンのBluetooth通信を使って行う。スマートフォンを所持していることが本人認証のトリガーであり、PepperはそのBluetooth信号を使って相手を特定しているわけだ。クラウド上で好みの情報は既に把握されており、決済情報も登録済みのため、対話UIの同意のみで支払いなども行える。

 スマートフォンをポケットやカバンから取り出さずに、そのままカフェのサービスが利用できる点で先進的だ。同様のアイデアはJR東日本がタッチレスゲートの取り組みで語っているが、通常のFeliCaではNFCの仕組みを使ってデバイスを読み取り機に近付ける動作が必須なのに対し、この仕組みではFeliCaの各種情報が記録されたチップ(セキュアエレメント)に別の遠距離通信技術を使ってアクセスすることで実現しており、これまでのスマートフォンとは異なる使い方だ。

 オフデバイスの世界では、従来まで固定されていた“ID”の可搬性が向上することも重要だ。IDとは身分証のことであり、運転免許証やパスポートがそれに該当する。偽造防止技術で作られたそれは唯一無二の存在で本人を証明するものとなるが、今後はこれがスマートフォンの中にも記録され、複数存在することが可能になる。

 IDをスマートフォンに入れる最大のメリットは、お財布がカードの持ち歩きで膨らむこともなく、「デジタルウォレット」として活用できる点にある。今後の法改正が必要だが、複数のIDをスマートフォン内に記録しておき、それをポケットから取り出さずとも本人であることを確認してアルコール類の購入ができたり、セキュリティの必須な建物の入館がスムーズに行えたりするようになる。デバイス上のIDはいつでも削除、あるいは無効化することが容易なので、紛失に伴う再発行の手間とも無縁だ。

Microsoft Future スマートフォンにIDを入れて持ち歩く仕組み。QualcommのSnapdragon Tech Summit 2019会場にて

IT世界における主役ではあるが広く薄く

 翻って昨今のMicrosoftを見ると、こうした世界に向けた布石をさまざまな形で打っており、今後もIT世界における主役であるだろうと思えてくる。前述の会話ボットの話題もそうだが、この実現にあたって利用されるCognitive Servicesの仕組みは、画像認証や文脈解析などの分野で重要なフレームワークになっており、今回紹介した一連の仕組みの実装に役立つ。

 また、今後はID管理やクラウドを通じた情報接続が重要となるが、Azureを絡めた一連のMicrosoftのサービス群は、やはり企業やインフラを提供するサービス事業者にとって欠かせないものだが、近年ではAmazon対抗という文脈からAWSではなくMicrosoftをパートナーに選ぶケースが増えており、Microsoftの存在感が高まっている。

 今後、WindowsとMicrosoftの名前のプレゼンスは低下が見込まれるが、その一方でさらにMicrosoftの技術は社会インフラに浸透していくことが予想され、2020年代はその傾向がさらに顕著になると予想している。そんな未来を夢想しながら、今後10年のテクノロジー業界の行く末を見守っていきたい。

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