日本HPは1月21日、報道関係者向けの2020年度(※1)事業説明会を開催した。同社の事業説明会は毎年1月に開催されており、前年度の振り返りをしつつ、当該年度の事業方針を説明する場となっている。
この記事では、その模様を簡単にまとめる。
(※1)HPグループの事業年度は、前年の11月1日から当該年の10月31日までとなっている(2020年度は2019年11月1日〜2020年10月31日)
HPのグローバルビジネスでは、売り上げが約6兆4000億円(日本円換算)、利益は約4700億円(同)と、売り上げベースで2%成長を果たした。「ペーパーレス化」のトレンドから個人や企業向けのプリンタ事業で苦戦をしたものの、Windows 7の延長サポート終了を受けてPC事業が好調だった他、セキュリティサービス、デジタル印刷ソリューション、テキスタイル(布類・衣類向け)プリンタや3Dプリンタといった「新規成長分野」への投資が奏功して、伸び率は鈍化したもののプラス成長を維持している。
一方、HPの日本法人たる同社では、海外市場と比べてWindows 7からの移行需要が旺盛だったことなどが影響し、企業向けPCのブランド別シェアにおいて4期(1年間)連続で1位を獲得。PC全体のシェアでも、2019年1〜9月の9カ月間においてシェア1位(IDC調べ)を獲得している。出荷台数ベースの成長率でも、17期(4年3カ月)連続で業界平均を上回っている(IDC調べ)という。
そんな同社だが、2019年度は「日本HPとして本社(HP)に提案し続けてきた」(岡隆史社長)軽量モバイルノートPC「HP Elite Dragonfly」の発売を実現。HPがグローバル販売するPCとしては初めて日本で“世界初公開”された。
その他、グローバル方針と同様にセキュリティサービス、デジタル印刷ソリューション、テキスタイルプリンタや3Dプリンタの販売体制を強化したという。
2019年度の流れを受けて、2020年度はどうするのか。
HP本社は、「メガトレンドの先を読んでテクノロジーを提供していく」(岡社長)という方針を掲げている。都市部では生活領域のコンパクト化を受けて「シェアリングエコノミー」がより進んでいく。先進国では「少子高齢化」が一層進む反面、途上国では若年層の人口がより多くなり、人口面での偏りが世界規模で進む――といった動きが、2020年度はより加速するとHPは予測している。
昨今、HPは事業におけるサステナビリティ(持続可能性)を重視している。PCやプリンタといった最終製品における再生プラスチックの利用率を高めることを始めとして、環境に配慮した経営を心掛けているという。その文脈の延長線上で、テクノロジー(技術)を生かして社会のサステナビリティにも一層貢献していく考えのようだ。
PCやプリンタ事業といった「既存の中核事業」ではセキュリティ、DaaS(※2)、AI(人工知能)とVR(仮想現実)、A3以上の大判印刷対応といった軸で売り上げ規模の維持と緩やかな成長を確保。それと並行する形で、デジタル印刷ソリューション、テキスタイルプリンタや3Dプリンタといった新規分野を「新たな中核事業」に据え、将来的に既存の中核事業と同規模以上に成長させる方針を掲げる。
(※2)Device as a Service:PCなどのデバイス製品をサポートサービスなどと合わせてサブスクリプション形式で提供する取り組み
このようなグローバルの方針を踏まえ、同社ではどのような事業展開をしていくのか。
同社の既存中核事業である「パーソナルシステムズ事業」(PC事業、個人・法人向けプリンタ事業)では、「新たなコンピューティング体験」「顧客生涯価値の最大化」「サービス&ソリューションの加速」の3つをキーワードに商品展開を強化する。
具体的な製品では、国内での教育市場向けノートPCの本格投入、CESで発表されたクリエイター向け液晶一体型PC「HP ENVY 32 All-in-One」とTile(小電力トラッカー)内蔵のElite Dragonflyの国内投入を予定している。
教育市場向けノートPCには、米国の教育市場で高いシェアを持つChromebookも含まれる。Elite Dragonflyについては、CESで言及のあった5G(第5世代移動通信システム)通信モジュール内蔵モデルも発売する方向で検討を進めているという。
新たな中核分野の1つとして取り組んでいる「デジタルプレス事業」(デジタル印刷ソリューション事業)では、「アナログからのデジタルトランスフォーメーション(DX)」をキーワードに、環境対応印刷物への対応、印刷や装丁デザインのプロセスの自動化、新しいインクの普及拡大などをトリガーに販売の拡大を狙う。
もう1つの新中核分野となる「3Dプリンティング事業」では、従来は試作品や小ロット生産向けの中規模3Dプリンタを用意していたが、2019年度に機能性試作向けモデルや大量生産向けモデルも用意した結果、サービスビューロー(※3)だけではなく自動車メーカーや電機メーカーといった製造業での採用例も増えたという。
2020年度はサービスビューローとの連携強化、デロイトトーマツコンサルティングと共同で3Dプリンタの導入を提案する取り組み、DfAM(最適設計)の認知拡大を通して市場でのシェア拡大を狙う。
(※3)印刷やそれに関連する作業を代行して請け負う業者
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