これまでの説明で、これがかなり壮大なプロジェクトであることを分かってもらえたと思うが、それだけに第一歩となるオンライン型プログラミング教育パッケージ(仮称)の開発が非常に重要なポイントとなる。これは一体どのようなものだろう。
パッケージは、九州大学とAtCoderの協業で開発される。
競技プログラミングサービスのAtCoderは、参加者から提出されたプログラムコードを自動評価できる仕組みが大きな特徴の1つとなっている。オンライン型プログラミング教育パッケージ(仮称)でも、この技術を応用した自動評価/自動採点が行われる予定だ。
一方、九州大学大学院システム情報科学研究院では、プログラムのコーディング過程の記録や確認ができる開発環境を独自に開発していた(同研究院の島田敬士教授が開発)。これを使えば、学生の試行錯誤の様子を後から振り返って解析することも、コードがコピー&ペーストされたことなども記録から読み取れる。
AtCoderに、この九大のシステムを掛け合わせれば、できあがったプログラムを評価するだけでなく、プログラミング途中のどこでつまずいたかなどを解析し、より良いカリキュラム作りに役立てることができる。
九州大学大学院システム情報科学研究院荒川豊教授の荒川研もこの部分に着目。生徒が出した答えのログを解析し、正誤判定の結果から学生の傾向(強みや弱み)を可視化/分析するという。
AtCoderはプログラミングスキルが高く、それ故に向上心や競争意識も高い個人が、自主的にスキルを磨いて参加し順位を競っていたが、広く大勢の学生に教える大学での展開となるとそうはいかない。
荒川研では、得られた調査データを元に補習的な学習コンテンツを制作したり、学生の学びの効率化/学習意欲の推進/成績の向上を目指した学習を研究開発したりするのだという。
まさに安浦氏のいう教育のDX化といえよう。このDX化では、さらに教員にとって負担となる採点や弱点把握の手間も大幅に減るという。
これだけの大きな構想を、AtCoderと九州大学の2社だけで動かすのには無理がある。提携会社として名を連ねている電通や電通九州、そしてイマーゴの参画が必要だったのもその辺りに理由がある。
電通と電通九州は、今回のプロジェクトでの成果物の事業性を調査/検討し、他大学などに展開する手伝いをする。また同社のIT部門を動員して、UI/UX開発の支援も行うという。
一方、協力会社の中で、最も異色で面白いのがイマーゴの存在だ。イマーゴは東京に本社を置くコンサルティング会社だが、九州大学のキャンパス内に学生主導のiQLabを設置。このiQLabが非常に面白い組織で、スタッフのほとんどは九州大学の現役の学生だ。アルバイト先なども限られた九州大学キャンパス周辺で、学生たちが産学連携事業に企業人と対等な立場で参加し、企画や運営の実績を積みながら、給与ももらえるという極めて柔軟で面白い事業体となっている。
これまでに九州大学内を運行しているAIバスの運用管理、さらにはコロナ禍で急きょ2000近い授業がオンライン化され、受講方法などで混乱が生じた際も、QuickQというメールやLINEを使ってサポートする仕組みを構築して大学の運営を手助けした。
このQuickQなどの開発を行う技術系の学生もいれば、資料作成やデザインが得意な学生など、理系と文系の学生が、フラットに新しい事業を企画、提案し、運用している。九州大学が重視する文理融合やアントレプレナーシップを、そのまま体現したような組織体となっている。
今回のアルゴリズム思考を広める教育プログラムの開発でも、このイマーゴが、第1フェーズでの教育プログラムの研究サポートや開発のサポート、さらには事業モデルの戦略策定(これは電通グループ2社とも共同で行う)、さらには実際のコンテンツの制作と実働の部分を担うことになっている。
官民連携で一番手間がかかり大変な部分を、学生の視点や手で、そしてきめ細やかな形で実現する寸法だ。
長期かつ大規模な構想だが、それだけにうまくいけば、日本の教育界全体にも一石を投じる試みとなることだろう。
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